星
★1a.人の誕生と星。
『三国史記』巻2「新羅本紀」第2 新羅第14代の王儒礼尼師今(じゅれいにしきん)の母は、夜歩いている時、星の光が口に入って身ごもった。
*北斗星を呑んだ夢を見て身ごもる→〔北斗七星〕4の『三国志演義』第34回。
『詩と真実』(ゲーテ)第1部第1章 1749年8月28日の正午に、「私(ゲーテ)」は誕生した。星位には恵まれていた。太陽は処女宮に位置し、その日の頂点に達していた。木星と金星は好意の眼差しで太陽を眺め、水星も反感を示してはいなかった。土星と火星は無関心の態度だった〔*月は「私」の誕生に逆らった〕。未熟な助産婦のせいで「私」は死児として生まれたが、命をとりとめたのは、めでたい星位のおかげだった。
『捜神後記』巻3-2(通巻27話) 天から流星が落ちて来て、水甕に飛び込む。3人の妓女が「吉兆だ」と言って、柄杓ですくおうとする。2人は失敗し、3人目の妓女がうまくすくい上げて、そのまま飲み込む。やがて彼女が産んだ子・桓玄は、後に東晋の帝になった。
『マタイによる福音書』第2章 東方の学者たちが、メシア(=救世主)誕生を示す星を見て、ユダヤの地までやって来る。「メシアはベツレヘムに生まれる」との預言があったので、学者たちはベツレヘムへ向かう。星が天空を移動して、学者たちを先導する。星は、幼子(おさなご)イエス=キリストと母マリアのいる家の上にとどまった〔*他の福音書には、この物語は見られない〕。
『その夜』(星新一『宇宙のあいさつ』) 核戦争が勃発し、あらゆる場所で超水爆が爆発して、すべての人が死に絶えた。炎と熱と輝きが、惑星の全部を覆い尽くした。遠く離れた地球から見ると、それは夜空でふいに輝きをました1つの星であった。星の光は、ベツレヘムの貧しい小屋の中にさしこみ、マリアを照らして、みどりごの誕生をうながしているようであった。
★2a.人の死と星。
『今昔物語集』巻28-22 空をあおぐのが癖の中納言忠輔を、左大将済時が「天に何事があるか」とからかう。忠輔は不快に感じ「今、天に大将を犯す星が現れた」と言う。その後まもなく、左大将済時は没した。
『三国志演義』第104回 重病の諸葛孔明は北斗を仰ぎ、遥かに1つの星を指さして、「あれがわしの将星だ」と言った。その星は色暗く、ゆらゆら揺れて、今にも落ちそうであった。その夜、司馬仲達は、赤色の光に角のある大きな星が東北から西南に流れ、蜀の陣地に落ちて2度3度跳ね上がるのを見て、諸葛孔明の死を知った。
『マッチ売りの少女』(アンデルセン) 大晦日の夜、マッチ売りの少女は流れ星を見て、「誰かが死ぬんだわ」とつぶやく。死んだ祖母から、「星が1つ落ちるたびに、1つの魂が神様のところへ昇って行くんだよ」と、少女は聞かされていた。マッチをすると光の中に祖母の霊が現れ、少女の魂を神様のもとへ導いた〔*→〔人魂〕1aの『曾根崎心中』に類似〕。
*死をつかさどる北斗星、生をつかさどる南斗星→〔北斗七星〕5の『捜神記』巻3-6(通巻54話)。
『星三百六十五夜 冬』(野尻抱影)12月19日「星に酔うもの」 少年の頃ふと星に親しんでから、60余年はいつの間にか過ぎてしまったが、人生行路の険しい山坂を登りつ降りつする道伴れに、いつも星がいないことはなかった。夜はもとより、眼を閉じれば昼もである。「私(野尻抱影)」は死んで独りになっても、星は見ていられそうな気がする。少なくもあちらが見ていてくれることは間違いがない。
『曽我物語』巻2「兼隆聟にとる事」 けいしゃう国の伯陽・遊子夫婦は、常に月を愛でて暮らしていた。夫伯陽は99歳で死に、妻遊子もやがてそのあとを追った。夫婦は天に昇って、牽牛・織女の2星となった。
『バーガヴァタ・プラーナ』 ウッターナパーダ王は、息子ドゥルヴァを可愛がらなかった(*→〔膝〕1a)。ドゥルヴァは悲しんで、5歳の時に父の都から出て行き、マドゥヴァナの森で苦行をおこなう。彼は一本足で棒のように不動に立ち、精神を集中してヴィシュヌ神を瞑想する。ヴィシュヌ神は、至高の場所、他の星々がそれを中心として回る位置を、彼に授ける。こうしてドゥルヴァは北極星となった。
『ラーマーヤナ』第1巻「少年の巻」 トリシャンク王が祭祀を行なって、「生きたまま天界に赴きたい」と願う。インドラ神たちはいったん反対するものの、トリシャンク王の住む天の位置を南方に定め、頭を下にしてとどまるよう、はからった。トリシャンク王は南十字星になった。
*カリストとアルカスの母子は、大熊座と小熊座になった→〔見間違い〕3dの『変身物語』(オヴィディウス)巻2。
*赤ん坊が天に昇って星となった→〔赤ん坊〕7bの『和漢三才図会』巻第1・天部。
★3b.人間が一時的に天界を訪れる。地上から見ると、新しい星が現れたように見える。
『荊楚歳時記』7月 海は、天の川とつながっている。ある人が筏で海へ乗り出し、10余ヵ月を経て、機を織る婦と牛を牽く男のいる所へ到った。その人が「ここは何処か?」と、牛を牽く男に聞いたところ、「帰ってから厳君平を訪ねればわかる」と教えられた。その人は地上へ帰って、厳君平に問う。厳君平は、「某年某月に、客星が牽牛の宿(しゅく)を犯した」と言った〔*逸文に「張騫が天の河の源を尋ねた」と記す〕。
『今昔物語集』巻10-4 張騫が浮木に乗り、天の川の水源までさかのぼって、織女と牽牛に会った。その時、地上からは、天の川のほとりに見知らぬ星が現れたのが観測された。
★3c.宇宙飛行士が、宇宙空間から地球の大気圏へ落下する。地上からは流れ星に見える。
『万華鏡』(ブラッドベリ) 宇宙船が破裂し、宇宙服を着けた乗員たちが、生きたまま四方八方の空間へ投げ出される。1人は地球へ向かう。彼は思う。「大気圏へ突入したら、おれは流星のように燃えるだろう。誰かにおれの姿が見えないものだろうか」。田舎道を歩く少年が叫ぶ。「あ!流れ星!」。母親が言う。「願い事をなさい」。
『イシスとオシリスの伝説について』(プルタルコス)21 エジプトの神々は不死ではない。神々の遺体は祭司らの手で葬られ、魂は星となって空に輝いている。イシスの星はシリウス、ホロス(=ホルス)の星はオリオン、テュポン(=セト)の星は熊(=大熊座)である。
『黄金伝説』143「聖フランキスクス(フランチェスコ)」 聖フランキスクスが死んだ時、ある人は、聖人の魂が月のように大きく、太陽のように明るい星となるのを見た。
*カエサルの魂は箒星になり、神と見なされた→〔神になった人〕3の『変身物語』(オヴィディウス)巻15。
*親不孝の3兄弟が、死んで星になる→〔親捨て〕6の三つ星の話(中国の民話)。
西郷星の伝説 西郷隆盛は西南戦争に敗れ、明治10年(1877)9月24日に討死した。それからまもなく、「天の一角に毎晩、西郷星が出る」との噂が広がった。西郷の無念の思いが星になって顕れたというので、大勢が戸外へ出て夜空を仰いだ。どの星が西郷星なのかは、はっきりしなかった。遠眼鏡で見ると、大礼服を着て馬に乗った西郷隆盛が星の面に見える、と言われた。
『よだかの星』(宮沢賢治) 醜いよだかは他の鳥たちから嫌われ、鷹からは「よだかという名を変えなければ殺す」と脅される。よだかは辛さのあまり空高くどこまでも飛び続け、その体は青く燃えて星になった。
*蠍(さそり)が星となって赤く燃える→〔さそり〕1の『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)。
★4d.冠が星になる。
『変身物語』(オヴィディウス)巻8 酒神バッコス(=ディオニュソス)が、ナクソス島のアリアドネの頭から冠を取って、空高く投げ上げる。虚空を飛ぶうちに、冠の宝石は燃え輝く星となり、冠の形をとどめたまま、ヘラクレス座と蛇使い座の中間に場所を占めた〔*かんむり座の由来〕。
平将門の伝説 平将門は、愛人・桔梗の前に裏切られ、怒って彼女の首を斬る。俵藤太秀郷が哀れに思い、桔梗の前の首飾りを空へ投げ上げると、高く舞い上がって「くびかざり座」の星になった〔埼玉県秩父郡吉田町。*この地方では、かんむり座を「くびかざり座」と呼ぶ〕。
『星の銀貨』(グリム)KHM153 貧しい孤児の女の子が、パンを1つだけ持って野原を歩く。飢えた男や寒さに震える子供たちに出会い、女の子はパンを与え、帽子を与え、上着を与え、スカートを与え、襦袢(じゅばん)を与えて、とうとう丸裸になる。その時、空から星がばらばら降ってきて、地面に落ちると銀貨になった。女の子は銀貨を拾い集め、一生涯お金持ちで暮らした〔*流星は幸運をもたらすという民間信仰の昔話、といわれる〕。
*→〔冥界行〕1aの『イナンナの冥界下り』(シュメールの神話)では、女神イナンナが冥界へ下る時、装飾や衣服を次々にはぎとられて素裸になる。
『星が二銭銅貨になった話』(稲垣足穂) 歩道にカチンと落ちてきた星を拾ってポケットに入れたら、翌朝、ピカピカの二銭銅貨になっていた。驚いて先生の所へ行くと、先生は、「すべてのものはモレキュールという粒からできている。その粒をこわすと、アトムという粉になる。アトムをこわすとエレクトロンになる。これがおしまい。エレクトロンの重なり方によって、さまざまな物の区別ができる。だから星が二銭銅貨になっても、決しておかしくない」と説いた→〔硬貨〕5。
*石が釘になり銃弾になる→〔弾丸〕4の『博物館』(ボルヘス)「J・F・Kを悼みて」。
『子不語』巻17-441 曹能始先生は飲食のことに精通しており、その厨師・董桃媚も料理に巧みだった。ある時、董は「私は天厨星です」と、自分の正体を告げ、「曹公は前世で仙官であられた方、それゆえお仕えしていたのです。曹公の禄分は、もうすぐ尽きます。私も去らねばなりません」と言って空へ昇り、西方に去った。その年、曹先生は死んだ。
『捜神記』巻4-2(通巻72話) 漢の武帝が甘泉宮の祭りに向かう途中、渭水で水浴する女がいたが、女の乳房は7尺もあるように見えた。女は天上の星の化身で、祭主の身の清め方がまだ不十分であることを注意しに来たのだった。
*彗星が女の姿で田へ降りる→〔彗星〕1の『子不語』巻7-179。
*北斗七星の長女が地上へ降り、人間の妻になる→〔北斗七星〕1の『星女房』(昔話)。
『第三半球物語』(稲垣足穂)「冬の夜のできごと」 30人ほどの紳士が、酒場で新年宴会を開いていた。「この中に、人間に化けた星が1つまじっている」と誰かが言い、「あいつが怪しい」「君こそ何者だ?」と、喧嘩が始まる。疑わしい者が皆にぶん殴られて、次々に外へ放り出された。最後まで勝ち残った1人が、「チビの自分が勝ち残るなんて不思議だ。ひょっとしてオレが星なのだろうか」と思う。たちまち彼は1箇の星と化し、超速度で昇天してしまった。
『星の神話・伝説』(野尻抱影)Ⅳ「冬の星座」アルゴ座 中国では古くから、アルゴ座のカノープスを南極老人または老人星と呼んでいた。洛陽や長安では、冬の終わり頃、南の地平線上に低くこの星が見えると、その年は天下泰平であるといって祝った。宋の時代、カノープスの化身である老人が都に現れ、仁宗皇帝から酒を賜ったことがあった→〔酒〕5b。
★6a.空の星が落ちる夢。
『苦しく美しき夏』(原民喜) 戦争はすでに始まっていた。「彼」の妻は肺を病み、ある夜、天上の星がことごとく墜落して行く夢を見て脅(おび)えた。妖(あや)しげな天変地異の夢が何を意味し何の予感なのか、「彼」には、ぼんやりわかるように思えた。都市が崩壊し暗黒になった図が、時々「彼」の夢に現れた〔*昭和19年(1944)に妻は死去し、その翌年、原民喜は広島で原爆に被災した〕→〔原水爆〕1の『夏の花』。
*北斗七星が家に落ちる夢→〔北斗七星〕3の『水滸伝』第14回。
★6b.空の星を落とそうとする。
『醒睡笑』巻之1「鈍副子」16 夜、小僧が長い棹を持ち、空の星を打ち落とそうとして庭を走り回った。和尚がそれを見て、「そこからは棹が届くまい。屋根へ上がれ」と言った〔*この物語の変型である『一千一秒物語』(稲垣足穂)「AMOONSHINE」(→〔月〕7c)では、竹竿で三日月を取る〕。
★6c.高い山に登れば、星を取ることができる。
『星を売る店』(稲垣足穂) 夏の夜、神戸の街を歩く「私」は、色とりどりのコンペイ糖を窓辺に陳列した店に入る。店員は「これは星です。世界中で一等天に近い、エチオピア高原の奇蹟の地で、取って来たのです」と説明する。「あちらでは、星を採りすぎたために天が淋しくなって、今では、遠方に残っている星がチラホラ光っているだけです」。「でも、候補地は続々と見つかっているのでしょう」と「私」は云う。「アンデス山、パミール台地、崑崙山、富士山というぐあいにね」。
*高い山に登っても、星を取ることができない→〔あまのじゃく〕4の『あまんじゃくの星取り石』(松谷みよ子『日本の伝説』)。
★7a.帝王をあらわす星。
『後漢書』列伝第73「逸民伝」 後漢の厳光が光武帝と一緒に寝た時、足を帝の腹上に乗せた。その翌日、天文官が「客星が玉座の星を犯しました」と奏上した。光武帝は笑って、「旧友の厳光とともに寝ただけだ」と答えた。
『狂った星座』(ブラウン) 1987年3月末のある夜、突然、多くの恒星が動き出し、地上の人々を驚かせた。これは、石鹸会社の社長スニヴェリー氏が特殊な装置を使って星の光を屈折させ、動いたように見せかけたのだった。468個の星が夜空に整列して文字を形づくり、石鹸会社の広告文となった。
『日本霊異記』下-38 延暦3年(784)11月8日の夜、戌の刻(午後8時頃)から寅の刻(午前4時頃)まで、天の星がことごとく動き、入り乱れて飛び交った。これは、同月11日に桓武天皇が早良皇太子とともに、奈良の宮から長岡の宮へ移ることの前兆であった。
『故郷七十年』(柳田国男)「布川(ふかわ)時代」 「私(柳田国男)」が茨城県布川に住んでいた14歳の時のこと。いたずら心から、小さな祠の扉を開けて御神体の珠を覗いた。「私」は妙な気持ちになり、しゃがんだまま、よく晴れた青空を見上げた。すると、昼間なのに数十の星が見える。突然、鵯(ひよどり)がピーッと鳴いて、「私」は正気に戻った。鵯が鳴かなかったら、あのまま気が変になっていただろう(*柳田国男とは対照的に、福沢諭吉は御神体の石を捨てても何事もなかった→〔禁忌〕10の『福翁自伝』)。
★9.星を食べる。
星を喰う神(アフリカ・ヤオ族の神話) 地上に住む神さまが、虹の弓・稲妻の矢を用いて星を射落とし、煮て食べていた。1人の酋長が神さまに頼んで弓と矢を借り、自分も星を食べようとする。しかし酋長は稲妻にうたれ、黒焦げになって死んでしまった。神さまは弓と矢を拾い上げて、どこかへ行ってしまう。神さまの姿が見えなくなった後、空に美しい虹がかかるようになった。人々は、「あそこに神さまの弓がかかっている」と、星を食べる神さまの噂をした。
★10.星は、空に輝く眼。
『星三百六十五夜 冬』(野尻抱影)12月21日「星の眼」 星を「空に輝く眼」と見るのは、未開民族の間では普通のことで、多くは、先祖以来の亡くなった人たちが天から見下ろしている、と信じている。ポリネシアでは、沖へ漁に出て夜になると、同船の女を丸裸にして仰向けに寝そべらせる。星の眼があらそってそれを覗こうとするので、曇っていた空もたちまち晴れるのだという。
『続 星と伝説』(野尻抱影)「沙漠の北極星」 沙漠の星は、満天にギラギラ輝く。アラビアのベドウィン族は、けがをした場合、「傷口を星の光にあてると治らぬ」と言って、急いで天幕に駆けこんで手当てをする〔*ただしアル・ゲディ(北極星)だけは特別で、目が疲れた時、しばらくアル・ゲディを見つめると痛みがとれるという。これは、常住不動の星に対する信仰からきているに違いない〕。
*星をながめて病気を治す→〔病院〕5の『第三半球物語』(稲垣足穂)「星の病院」。
*星々は、太陽(=父)と月(=母)の子供→〔太陽と月〕2の『月と太陽の離別』(中国の民話)。
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