地衣類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/13 02:36 UTC 版)
性質の一側面
地衣類は成長が遅く(年数ミリメートル程度)[5]、寿命が長い。個々の部分は特定の季節に急に出てきたりすることはなく、だいたいどの季節も同じような姿をしている。従って、観察はどの時期にでも出来る。
地衣類は基本的には菌類ではあるがそのような感覚では培養が難しく、また成長が非常に遅いため、そういった方法では扱い難い。大きさはコケ並みであるから野外での観察採集が可能であるから、実際には野外で探しながら採集するのが普通の収集方法である。しかし、コケと異なり、その構造が菌糸であり、一回り細かい。たとえば痂状地衣は基質に完全に密着している。樹皮につくものなら樹皮ごと削り取れば採集できるが、岩に張り付いているものはかち割らねば取れない。さらにその構造はコケより単純であり、肉眼でも虫眼鏡でも届かないレベルである。その一部は化学物質でしか区別するのは困難である。
利用
薬用
10種類ほどが漢方薬の原料になるほか、抗生物質など有用成分を抽出する研究が1950年代以降進められている[5]。サルオガセ(Usnea)属のナガサルオガセ(Usnea longissima)、ヨコワサルオガセ(Usnea diffracta Vain.)は、マツ(松)類によく着生することから松蘿(しょうら)ともいい、中国や韓国では、乾燥したものを漢方薬として用いている。利尿作用や強壮作用があるという[6]。
染料
酸性アルカリ性の判定に使うリトマス紙は地衣類であるリトマスゴケから得られる。また、ヨーロッパにおいては古くから多くの地衣類が染色用として用いられてきた。さらにロウソクゴケは鮮やかな黄色を蝋燭の染色に用いたためこの名がある。防虫や腐食防止などの効果を持つ、地衣類から得られるこうした成分を「地衣成分」と呼ぶ[5]。
食用
中国ではムシゴケ(Thamnolia vermicularis)を乾燥させたものが茶として利用されている[7]。この「雪茶」を大量に摂取したためと疑われる肝機能障害が報告されている[8]。
その他
ハナゴケ類などがトナカイゴケと呼ばれ、北極圏ではトナカイなど家畜の餌に利用されることもある。また、ハナゴケの仲間はそのままの形で緑に染めて、鉄道模型やジオラマの樹木として用いられることもある。
コケ植物との見分け方
外見が似ており共通する性質もあるコケ植物(蘚苔類)とよく混同されるが、上記の通り、菌類と藻類の共生生物であるため全く異なる生物である。
見分け方として以下のようなものがある。
- 色:緑藻を持つものは、銀色を帯びた白っぽい緑色か薄い青緑色をしている。藍藻類を持つものは青みを帯びた黒っぽい色となる。それに対してコケ植物はたいてい深緑から黄緑色をしている。
- 形:地衣類には規則的な葉のような形をもつものはほとんどない。コケ植物のほとんどは茎と葉を持っている。
- コケ植物は胞子を柄の上の袋(さく)に作るが、地衣類では胞子は地衣体の表面か内部に埋もれた子器(子実体)に作る。
- ^ 柏谷博之 2009, p. 10.
- ^ 白水貴(日本語) 『奇妙な菌類 ミクロ世界の生存戦略』NHK出版、2016年4月9日。ISBN 9784140884843。
- ^ 杉山純多, 岩槻邦男 & 馬渡峻輔 2005, p. 308.
- ^ 柏谷博之 『地衣類のふしぎ コケでないコケとはどういうこと? 道ばたで見かけるあの“植物”の正体とは?』SBクリエイティブ、2009年10月24日。
- ^ a b c d e f g h i 【イチからオシえて】不思議な生き物「地衣類」大気汚染、ヒートアイランド現象の指標にも『毎日新聞』朝刊2017年12月20日くらしナビ面(2022年11月20日閲覧)
- ^ 嶋田英誠. “野草譜 サルオガセ”. 跡見群芳譜. 2021年1月29日閲覧。
- ^ 黒川逍 1996, pp. 12–13.
- ^ “「雪茶」との関連が疑われる肝障害の事例”. 「健康食品」の安全性・有効性情報. 国立健康・栄養研究所. 2021年1月29日閲覧。
- ^ “地衣類とは”. 日本地衣学会. 2022年8月18日閲覧。
- ^ “地衣類とは”. 地衣類研究会. 2022年8月18日閲覧。
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