T603
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/13 01:44 UTC 版)
詳細は「タトラ・T603」を参照 政府の方針でトラック専業となっていたタトラであるが、ソ連製大型車の供給事情(と品質面)の問題を見て取ったタトラ技術陣は、1952年には早くも密かに新型乗用車の開発に着手していた。チェコスロバキア政府からの要請もあり、1953年には再び大型乗用車開発のプロジェクトが正式に始まった。 新型車の開発チーフはユリウス・マカーレ、エンジン開発のチーフはイジー・クロシュ(Jiri Klos)であった。彼らによって開発されたのが、「T603」である。 タトラでは新しいオールアルミの空冷V形8気筒エンジンを改良して、この新型車に搭載することにした。Vバンク中央に配置されたカムシャフトからプッシュロッドでバルブを開閉するOHV形であるが、燃焼室は半球形で高効率である。元々軍用の4輪駆動試作車「T805」用に開発され、タトラプランをベースとした試作レーサーT602・T607にも搭載されてテストされていたもので、排気量2,545cc、ボア/ストロークは75×72mmのオーバースクエア。ツイン・キャブレターを装備した乗用車用のチューンでは、95HP/5,000rpmを発生した。1950年代中期の乗用車用エンジンとしては十分な水準である。 空冷エンジンでしばしば問題となるのは、寒冷時のオーバークールである。水冷エンジンならサーモスタットで冷却水の流動を抑えられるが、空冷エンジンでは冷却風導入ダクトに人の手で蓋をするくらいしか対策しようがなかった。そこでT603では、冷却風導入ダクトにエアフラップを設け、これをサーモスタットと連動させるシステムを採った。寒冷時には自動的にエアフラップが閉じ、オーバークールを防止するのである。またエンジンからベルト駆動される軸流式冷却ファンは、T607モノポストレーサーで先行試作されたエジェクター効果利用の排気ガス圧補助が与えられ、高回転時のパワーロスを削減した。ターボチャージャー普及以前の、排気ガス圧のユニークな利用と言える。 なお暖房については、空冷エンジンの熱を利用しにくいことから、独立式のガソリン燃焼ヒーターを用いている。 リア・サスペンションは、タトラの伝統通り、4段ギアボックスと一体化されたトランスアクスルから伸びるハーフ・ジョイントのスイングアクスル式である(ただし、スプリングはコイルとなった)。珍しいのは、フロント・サスペンションで、コイルをトレーリング・アームと組み合わせた一種の変形ストラット式であった。ステアリング切れ角を大きく採るための配慮が為されている。ブレーキは冷却を考慮したアルフィン・ドラムである。 全長5,065mm、全幅1,910mmに達するアメリカ車並みの巨大なボディはモノコック構造の流線型フルワイズで、グラスエリアが広くて視界が良く、大人6人を載せるに十分な居住性を備えていた。これほど一体化された完全な曲面構成の流線型セダンは、他に1949年のリンカーン・コスモポリタン(アメリカ フォード社製)と、1953年のパナール・ディナ54(フランス パナール・ルヴァッソール社製)があるのみで、ほとんど類例がない。空気抵抗係数は0.36で、当時の自動車として屈指であった。 ホイールベースは2,748mmと6人乗り乗用車なりに長くはあったが、5mクラスの自動車としてはやや短い。その分前後オーバーハングが大きく、特にフロントのオーバーハングは異例で、車体先端・バンパー下にスペアタイヤを収納できるほどであった。巨大なフロントオーバーハングやスペアタイヤ配置は、リアエンジン車に付きもののオーバーステア傾向を抑制するバランス調整策でもあった。 ヘッドライトは、再び3個となった。しかもノーズ先端にガラスで覆われたライトケースを設けて横並びに集中配置、中央の1灯はステアリングと連動して進行方向を照らすようになっていた(T87と同じである)。異様きわまりない超個性的デザインは、チェコを訪れた外国人をしてしばしば「これは本当に自動車か?」と面食らわせた。 後部スタイルはヤーライ・スタイルを脱して、穏健に洗練された曲面型のセミ・ファストバックとなった。後部側ボディには通気口が見あたらず、大型のテールライトと合わせて、どう見てもエンジンが収まっているようには見えない(後席ドア直後の車体側面にエア・インテークが、またバンパー中央に冷却風および排気ガスを吐出するグリルが開いている)。広いリアガラス中央に細いピラーが入っており、T87の「背びれ」の残滓を思わせる。実際、開発中は本気で背びれを付けることが考えられていたのであるが、さすがにこれはモックアップのみで諦められた。完全なファストバックでないので、背びれはリア・フード開閉の支障となり、また空力面でのメリットも薄かったのである。
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T603
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/21 06:56 UTC 版)
戦前のタトラの乗用車のスタイルを引き継いだ流線形のボディに、T87を最後に途絶えていた3灯式ヘッドライトが復活した。しかし、ノーズ先端中央部にガラスで覆われた楕円形のライトケースを設けて横並びに集中配置する独特のデザインであった。中央の1灯はT87と同様にステアリングと連動して進行方向を照らす機構になっていた。後部スタイルは曲面形態を残しつつも明らかなヤーライ・スタイルを脱したセミ・ファストバックとなった。大型のテールライトを備え、一見すると後側にはルーバー形態の通気口が見あたらず、後列席ドア直後の車体側面にエア・インテークを、後部バンパー中央に冷却風および排気ガスを吐出するグリルを目立たないように設置するデザインにより、 リアシップ車ながらもエンジンが収まっていることを感じさせない洗練されたリアスタイルを実現した。広いリアガラス中央に細いピラーが入っており、T87の「背びれ」の残滓を思わせる。前掲画像のとおりモックアップの段階では「背びれ」を付ける計画であった。しかし計画段階で断念された。完全なファストバックでないのでリア・フード開閉の支障となり、また空力面でのメリットも薄かったことによる。
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