T87
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/13 01:44 UTC 版)
詳細は「タトラ T87」を参照 ハンス・レドヴィンカと、エーリヒ・ユーベルラッカーらタトラ技術陣が、1936年に完成させた「タトラT87」は、タトラの乗用車としては史上もっとも有名な1台であり、レドヴィンカがその生涯に生み出した数々の自動車の中でも最高の傑作と目されている。その評価の高さは、1999年、世界各国のジャーナリストが「20世紀の名車」100台を選考した企画「カー・オブ・ザ・センチュリー」において、東ヨーロッパ諸国からただ一台選出された自動車であることでもうかがえる。 T87は、T77・T77aの延長上にある流線型4ドア5座セダンで、概略としては、T77aの「贅肉」を落とし、軽量化と性能強化を図ったと評すべきものであった。 T77aの余りに長かった全長・ホイールベースを短縮するなど(全長/ホイールベース T77a 5300/3150mm、T87 4740/2850mm)、内外各部分の軽量化を施した(T77a 1800kg→T87 1370kg)。このためT77シリーズの長大さから来る圧倒的なプロポーションはやや損なわれたものの、全体にはより機能性を高め、モダナイズされたと言える。 フロントノーズのスタイルはT77a同様の3ヘッドライトを継承、ボディはシャーシと頑強に溶接され、強度を上げたが、ほぼ完全なアンダーカバーが備えられ、床下の空気の流れまでも妨げないよう設計されたことは特筆すべきである。後部のファストバック・スタイルはT77a以上に洗練された流面形状となったが、「背びれ」は残されている。リアウインドウはやはりルーバー内側配置である。 エンジンは強制空冷V型8気筒という基本は踏襲したものの、軽量化のためオールアルミ合金製となり、バンク間1本カムのOHVから、左右バンクそれぞれに1本ずつのカムシャフトをチェーン駆動する一般的なSOHCへステップアップした。一方排気量は2968ccに再縮小されたが、SOHC化などの効果で、出力は75HP/3,500rpmに向上した。 スイングアクスル式のリアサスペンションは、T77aの横置きリーフから、縦置きの1/4カンチレバー・リーフスプリングによるトレーリング型になった。これも軽量化が目的である。 「87」の出力75HPに対する1.4t弱の車重は、当時としては比較的軽かったが、それに加え、空気抵抗が極めて小さいボディスタイルの効果で、最高速度は160km/hに達した(それより低かったという説もあるが、150km/hを超過していた確実な記録がある。空気抵抗係数はわずかに0.36と言われた。定格出力での連続巡航速度は130km/h)。 160km/hという最高速度は、1930年代当時、高級スポーツカーや4リッター以上の大型高級車でもなければ到達困難な水準の高速であった。しかしT87は、4ドア5座席、排気量3リッター足らずのセダンでありながら、同様な水準を達成していたのである。いかに常識破りな自動車であったかが伺える。 車体の軽量化と徹底した空力対策で高性能を得ようとする近代的な発想は、1930年代、既にレーシングカーの分野では端緒に就いていたが、スポーツカーですらない通常の乗用車で正面から実践した例は、タトラT87がほとんど最初である。当時の他社製乗用車における流線型デザインの多くはファッションの一種で、外見ほどの効果はなかったか、さもなくば小型車で空気抵抗を云々するほど速度が出なかった。 全体を評価した場合、T87の開発は技術的に成功であった。ただし、スイングアクスル式の独立懸架とリアエンジンの組み合わせは、本質的に高速走行時の操縦安定性に難があり、ハンドル操作を誤ると簡単に横転事故を起こした。 1937年から本格生産が始まった。多くはチェコ国内で販売されたものの、ドイツなどにも輸出され、最先端の高性能流線型車として注目された。「二十日鼠と人間」「怒りの葡萄」などの作品で知られるアメリカの作家ジョン・スタインベックも、これを購入して愛用したという。
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