PPAPの18項目
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 04:32 UTC 版)
「PPAP (自動車工業)」の記事における「PPAPの18項目」の解説
PPAPで求められている項目は18項目あり、それぞれの項目に対応する書類をセットにして顧客に提出し、承認を求めることになる。18項目とは、前項のPSWも含めて以下のとおりである 。 1. 設計図書(Design Records) これは図面やCADデータ、仕様書のことである。PPAPは設計承認とは趣旨が異なるので、設計図書の承認は、PPAPの段階では通常顧客の設計・開発部門によって完了している。設計図書の一部として、材料の組成を顧客が承認したことを示する書類も添付する。ELV指令に代表されるように、省資源(リサイクリング)や環境汚染の防止の観点から、OEMは完成車にどんな材料が含まれているのか把握することが求められているからである。多くのOEMはIMDSを利用しているので、その場合はIMDSのMDSレポートを添付することになる。 2. 設計変更認可(Authorized Engineering Change documents) PPAPのマニュアルによれば、設計図書には含まれていないが、PPAPの対象と一緒に導入する変更について、それを顧客が認めていることを示す書類を添付する。 3. 顧客の設計承認(Customer Engineering Approval) 設計図書を承認した際に、顧客が何らかの書類を出すならば、それをここに添付する。例えばマグナ・エレクトロニクスの場合、ESER(Engineering Sample Evaluation Report - 技術サンプル評価レポート)という書類があり、あらかじめマグナ・エレクトロニクス設計部門の承認を受けて、PPAPの書類の一部として提出することになっている 。 4. 設計FMEA(Design Failure Mode and Effects Analysis) サプライヤーは設計FMEAを作成することが ISO/TS 16949 によってきめられている 。FMEAといえば、特にことわらなくても多くの場合は設計に関するFMEAを指すのだが、自動車業界の場合は工程FMEAも作ることになっているので、これと区別して特に設計FMEAと呼ぶ。これは設計に責任を持たない製品の場合は適用されない。 5. 工程フロー図(Process Flow Diagram) これは製品を製造する際に、その製品がどのような製造工程を、どのような順番で通過してくるのかを模式的に表した図である。 6. 工程FMEA(Process Failure Mode and Effects Analysis) 製品を製造する際に間違いを起こしたらどうなるか、という分析をするのが工程FMEAである。この工程FMEAもISO/TS 16949 によって作成することが定められている 。 7. コントロールプラン(Control Plan) コントロールプランとは、製品に対して行われるすべての試験や検査を一覧表にまとめたものである。工程内での寸法検査や目視検査、製造設備のパラメータの設定や確認、定期的な性能再確認試験などが、使用する測定具、測定頻度とともに記載されている。 8. 測定システム解析(Measurement System Analysis Studies - MSA) 製品の品質管理に用いる測定器具や測定装置を正しく選んでいるかどうかを分析することがMSAである。もっとも基本的なポイントの一つが測定具の最小目盛りである。ノミナルで5.6ミリの寸法を測るのに最小目盛りが1ミリの定規を使用するとすれば、これは品質管理の観点から言って適当とは言えない。例えばVDAでは公差幅の5%以下の最小目盛りをもつ測定器具が要求されている 。VDAの基準では、5.6mm±0.1の寸法を測定するのにバーニアのついているノギス(最小目盛り0.05mm)を使うことは不適当である。少なくともデジタル式のノギス(最小目盛り0.01mm)を選ばなければならない。もっとも、PPAPにおけるMSAで注目されるのは、測定器具の繰り返し性 と再現性という測定値のまとまり具合に関する二種類の性質である 。この2つのまとまり具合を合わせたものをゲージR&Rと呼ぶ。このゲージR&Rが測定値のばらつきの10%以下であることが承認の条件である 。30%以上ある場合は、まったく承認の基準に達していないとみなされる 。Gauge R&R をどのように求めるかという方法については、AIAGのMSAのマニュアルに平均値-範囲法とANOVA法が記載されている。平均値-範囲法では分析のための試行から測定値の算術平均と分布の範囲を求めて、それからゲージR&Rを求める。ANOVA法は分散分析(ANOVA)を応用し、試行の結果からゲージR&Rを求める方法である。どちらの方法でもよく似た結果が得られる 。 9. 寸法検査結果(Dimensional Results) 図面やコントロールプランに記載されている寸法の測定結果のレポートである。生産ラインや生産設備、治工具が複数ある場合は、全ての生産ラインや生産設備、治工具のそれぞれからサンプルをとって測定しなければならない。サンプル数は、例えばGMやフォードは5ケを指定している 。 10. 材料記録および性能テスト結果(Records of Material / Performance Test Results) 材料の物理的、化学的質が要求仕様に合致しているかどうか、また製品が要求されている機能を満たしているかどうかを試験し、その結果をここに添付する。試験の内容や評価基準はあらかじめ決めておくべきことであり、通常顧客の承認対象になっている。性能テストの例としては、例えば、耐久試験(繰返し動作試験)、塩水噴霧試験、振動試験、落下試験、などを挙げることができる。 11. 初期工程調査(Initial Process Studies) 対象の製品を製造する製造工程の工程能力を調査することが求められている。工程能力はAIAGの発行する STATISTICAL PROCESS CONTROL (SPC) REFERENCE MANUAL で定義されている以下の指標のどちらかで評価する。 能力指数(capability index - Cpk): C p k = U S L − X ¯ ¯ 3 R ¯ d 2 {\displaystyle {\mathit {C}}_{\mathit {pk}}={\cfrac {{\mathit {USL}}-{\bar {\bar {\mathit {X}}}}}{3{\cfrac {\bar {\mathit {R}}}{{\mathit {d}}_{2}}}}}} または C p k = X ¯ ¯ − L S L 3 R ¯ d 2 {\displaystyle {\mathit {C}}_{\mathit {pk}}={\cfrac {{\bar {\bar {\mathit {X}}}}-{\mathit {LSL}}}{3{\cfrac {\bar {\mathit {R}}}{{\mathit {d}}_{2}}}}}} の小さいほう。 パフォーマンス指数(performance index - Ppk): P p k = U S L − X ¯ ¯ 3 s {\displaystyle {\mathit {P}}_{\mathit {pk}}={\cfrac {{\mathit {USL}}-{\bar {\bar {\mathit {X}}}}}{3{\mathit {s}}}}} または C p k = X ¯ ¯ − L S L 3 s {\displaystyle {\mathit {C}}_{\mathit {pk}}={\cfrac {{\bar {\bar {\mathit {X}}}}-{\mathit {LSL}}}{3{\mathit {s}}}}} の小さいほう。 ただし、 L S L {\displaystyle {\mathit {LSL}}} : 規格下限値(The lower engineering specification limit.)。 U S L {\displaystyle {\mathit {USL}}} : 規格上限値(The upper engineering specification limit.)。 X ¯ ¯ {\displaystyle {\bar {\bar {\mathit {X}}}}} : サブグループ内のサンプル平均の平均。どのサブグループもサンプル数が同じであれば、サンプル全体の平均と同じ。 R ¯ {\displaystyle {\bar {\mathit {R}}}} : サブグループ内の範囲 の平均。 d 2 {\displaystyle {\mathit {d}}_{2}} : 下表 による定数。n はサブグループのサンプル数。 なお、 R ¯ / d 2 {\displaystyle {\bar {\mathit {R}}}/{\mathit {d}}_{2}} は、母分散の平方根の推定値。 n 2 3 4 5 6 7 8 9 10 d2 1.13 1.69 2.06 2.33 2.53 2.70 2.85 2.97 3.08 s {\displaystyle {\mathit {s}}} : サンプル全体のデータから計算した不偏分散の正の平方根。 一般の教科書ではAIAGのマニュアルが定義するところのパフォーマンス指数 Ppk を工程能力指数といい Cpk で表されることが多い。サンプル数は100ケ以上でなければならず、能力指数 Cpk を求める場合は、25サブグループ以上のサンプルを取らなければならない。 どちらの指標でも承認基準は1.67より大きいことである。1.33より小さい場合は承認基準をまったく満たしていないと評価される。 1.33以上1.67以下は必ずしも承認基準を満たしていないとはされず、対象の特性の性質や検査の方法などを考慮してSQEが個別に判断する。 12. 試験所の資格の証明書(Qualified Laboratory Documentation) 製品の検査やテストを行う試験室や試験所は、顧客の要求する資格を持っていなければならない。例えば、ISO/IEC 17025に基づく認証や国家よる認定などのことである。このような資格をもっていれば、当然認定証などの書類があるはずで、その書類のコピーをここに添付する。もちろん、顧客が認定証を要求しなければ 、必ずしも添付する必要はない。 13. AAR(Appearance Approval Report、外観承認レポート) これはすべての部品に適用されるわけではない。外観が重要な特性となっている部品に限って適用される。典型的な物としては、例えばバンパー、ドアミラー、ドアハンドルなどがあげられる。これらの部品は車体の色と合わせる必要があるからである。色だけでなく無塗装プラスチック部品表面のシボ加工の仕上がり具合も評価の対象である。色の評価の場合、例えば、OEMの外観特性の専門担当者が、部品を実際に塗装された車体に組み付けて部品の色を評価する。評価の結果はAARと呼ばれる書類に記載され、サプライヤーに渡される。これはPPAPのマニュアルでフォームが規定されている。PPAPの書類を受け取ったSQEは対象の部品の外観にが承認されていることを、このAARで確認することになる。 14. 製造サンプル(Sample Production Parts) 書類と一緒に顧客に製品のサンプルを提出する。数や種類は顧客が指定することになる。PPAPのマニュアルには顧客が受け取ったサンプルをどう使うかは規定されていない。自社の製造工程で組立試験をすることに使用したり、PPAP時のサンプルとしてそのまま保管したりする。 15. マスターサンプル(Master Sample) PPAPで各種の確認をしているその時に作られた製品を、マスターサンプルとして保管しておくことが求められている。その対象の製品を製造するラインや金型、治工具、生産設備が複数あれば、それら全てからマスターサンプルをとり、保管しておかなければならない。マスターサンプルを保管しておくのは、後になってPPAPの承認時と同じものを作るように生産プロセスを調整できるようにするためである。PPAPの際に必ずしも将来必要となる記録をすべてとっているとは限らないが、現品があれば必要な測定がいつでもできる。 16. 検査具(Checking Aids) ここでいう検査具とは、検査に使用する専用の治工具、見本、テンプレートなどのことを意味する。典型的には検査具のリスト、図面や写真などがこの項目に対応する書類になる。検査具が製品の要求寸法に適合していることを確認したり、MSAを実施するべきことがPPAPのマニュアルに明記されている。この種の検査具に関する設計変更や改造、修理の記録しておかなければならない。 17. 顧客固有要求事項(Customer-Specific Requirements) PPAPのマニュアルに規定されていない書類を、PPAPの際に顧客が要求することもある。その種の書類がこの項に含まれる。これは顧客によってさまざまな資料が要求されることがあり得るが、例えば、梱包仕様書、製造ラインの工場内レイアウト図、顧客に所有権のある治工具のリストや写真などを例としてあげることができる 。 18. PSW (Part Submission Warrant、部品提出保証書) 同じ製品を複数の顧客に供給している場合、顧客ごとにPSWを作成する。生産ラインや金型、治工具、生産設備などが複数ある場合、すべての生産ライン、金型、治工具、生産設備からサンプルをとってPPAPのマニュアルで規定されている項目を確認しなければならない。しかし、その一部でPPAPを実施した場合は、PSWにどれを使ったかを記入する。PSWに書かれていない設備で製造した製品はもちろん承認の対象外である(別にPPAPの承認を得ずに顧客に供給できない)。PSWには、製品の重量を書く欄もある。ここにはキログラムの単位で小数点4桁(つまり0.1グラムの桁)まで記入する。 PPAPのマニュアルには、どの種類の書類を提出するかということについては規定してあるが、それぞれの項目をどう評価するべきかについては、ほとんど規定されていない。これらの具体的な手法は、別のマニュアル、つまり統計的プロセス制御(SPC)、測定システム解析(MSA)、FMEA、APQPなどの手引書を参照するよう指定している。例えば、FMEAにはいろいろなやり方があるが 、PPAPのマニュアルは、AIAGの発行するFMEAの手引書を参照するように求めている。
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