適応的意義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 23:47 UTC 版)
「選択的スプライシング」の記事における「適応的意義」の解説
選択的スプライシングは、1つのDNA配列が1つのポリペプチドをコードするという概念(一遺伝子一酵素説)の例外の1つである。現在では「一遺伝子多ポリペプチド」とでもいう方が正確であるかもしれない。あるDNA配列やあるpre-mRNAからどのポリペプチドが産生されるかを決定するためには、外部の情報が必要である。調節方法は遺伝するため、変異によって遺伝子発現に影響を与える新たな方法がもたらされている。 真核生物においては、選択的スプライシングは情報をずっと効率的に保存するための非常に重要なステップであることが提唱されている。いくつかのタンパク質をそれぞれ別々の遺伝子ではなく1つの遺伝子にコードすることによって、限られたサイズのゲノムからより多様なプロテオームを作り出すことができるようになる。また、選択的スプライシングによって進化的な柔軟性がもたらされる。1か所の点変異によって、あるエクソンが時折除去されたり組み込まれたりするようになる可能性があり、これによって元のタンパク質を失うことなく新たなアイソフォームを生み出すことができる。非構成的(選択的)エクソンには天然変性領域(天然変性タンパク質を参照)が多く見られることが研究で示されており、アイソフォーム間の機能的差異はこうした領域の機能的モジュールの変化によってもたらされていることが示唆されている。アイソフォーム間の機能的差異はそれらの発現パターンにも反映されており、機械学習によるアプローチによる予測も行われている。また、進化の過程で選択的スプライシングは多細胞性よりも先に出現しており、この機構が多細胞生物の発達を補助するために採用されたものである可能性が示唆されている。 ヒトゲノムプロジェクトや他のゲノムシーケンシングに基づいた研究によって、ヒトの遺伝子の数は線虫 Caenorhabditis elegans よりも30%多いだけであり、キイロショウジョウバエ Drosophila melanogaster のわずか2倍である。この発見はヒト、より一般的に脊椎動物でみられる複雑性は、無脊椎動物よりもヒトで選択的スプライシングが高率で起こるためではないか、という思索をもたらした。しかし、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ハエ(D. melanogaster)、線虫(C. elegans)、そしてシロイヌナズナ由来のそれぞれ100,000のESTサンプルを用いた研究では、ヒトと他の動物との間で選択的スプライシングを受ける遺伝子の頻度に大きな差は見られなかった。一方別の研究では、これらの結果は生物種によって利用可能なESTの数が異なることによるアーティファクトであるとされた。各生物種からランダムに選ばれた遺伝子で選択的スプライシングを比較した際には、脊椎動物では無脊椎動物よりも高率で選択的スプライシングが起こっていると著者らは結論付けている。
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適応的意義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 20:31 UTC 版)
左後翅の後角付近が尾状突起ごと欠損したシジミチョウ科成虫. 捕食者からの攻撃を受けた可能性がある. 右後翅の尾状突起が欠損した Actias luna 成虫 形態的に多様な尾状突起は、その適応的意義にかんしても多様であると考えられる。尾状突起を有するいくつかの分類群にかんしては生態学的研究が行われており、いずれも尾状突起が捕食回避(英語: predator avoidance)のためになんらかの役割を果たしていることが示されている。ここではアゲハチョウ科、シジミチョウ科、ヤママユガ科の尾状突起の機能にかんする研究を紹介する。 アゲハチョウ科 Park et al. (2010) は、Graphium policenes の標本をもとに作成されたモデルを用いて風洞実験を行い、アゲハチョウ科の尾状突起が揚抗比を高め、滑空性能を向上させる空力的な効果を発生させていることを実験的に確かめている。滑空性能の向上は捕食者から逃げるために役立つと考えられるが、アゲハチョウ科の尾状突起はアゲハチョウ属 Papilio に限っても多様であり、ベイツ型擬態などの他の捕食回避戦略と関連する例もあると考えられている。 シジミチョウ科 シジミチョウ科の尾状突起にかんしては、一部の種において眼状紋をともなう尾状突起とその周辺部位が頭部によく似て見えることから、それらが視覚的な「false head(偽の頭)」として捕食回避のために機能しているとする説がよく知られている。この「偽の頭」が実際にどのようなメカニズムで機能しているのかにかんしても議論があり、中でも Robbins (1981) によって示された「チョウの頭部を狙って攻撃する捕食者に対して、尾状突起を頭部と誤認させることで身を守る」という「deflection(反らし)効果」仮説が有力視されているが、実証研究の例はすくない。近年の研究として、Bartos & Minias (2016) はスクリーンに投影された仮想的な獲物をハエトリグモの一種 Yllenus arenarius に襲わせる実験を行い、ハエトリグモが通常は獲物の頭部を積極的に攻撃するが、偽の頭を後端に追加した場合はそちらに誘導されるようになることを実験的に確かめた。一方で López-Palafox & Cordero (2017) は、Callophrys xami の尾状突起を保持した群と除去した群をそれぞれカマキリの一種 Stagmomantis limbata に襲わせる実験を行い、両群間でチョウの生存率に有意差が見られなかったことを示している。シジミチョウ科の中には頭部とそれほど似て見えない尾状突起を有する種も知られており、尾状突起を介した本科の捕食回避には複雑な要因が関与している可能性が指摘されている。 ヤママユガ科 夜行性のヤママユガ科にとってコウモリは重要な天敵であり、ヤママユガ科に見られる尾状突起がコウモリからの捕食を逃れるための適応である可能性が議論されている。RUBIN et al. (2018) は、長い尾状突起をもつ Actias luna や Argema mimosae、尾状突起をもたない Antheraea polyphemus の尾状突起を切除したり接着したりする実験によって尾状突起の捕食回避効果を評価し、尾状突起が長くなるほどガがコウモリの攻撃から逃げ延びる確率が高まる傾向を認めている。尾状突起による捕食回避は、コウモリが反響定位に用いる超音波の反射を攪乱して音響的な錯覚を生じさせ、コウモリの攻撃を頭や胴から離れた位置にある後翅後端付近に向かわせることで成立すると考えられる。この研究において、尾状突起の切除や接着によるガの飛行能力の変化は認められなかったが、ヤママユガ科には捕食回避効果が不確かな 10mm 以下のごく短い尾状突起を有する種もおり、夜行性ガ類とコウモリとの進化的軍拡競争を考えるうえでもさらなる研究が必要とされている。
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