ヤママユガ科とは? わかりやすく解説

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ヤママユガ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/28 23:58 UTC 版)

ヤママユガ科
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: 鱗翅目(チョウ目) Lepidoptera
階級なし : 有吻類 Glossata
階級なし : 異脈類 Heteroneura
階級なし : 二門類 Ditrysia
上科 : カイコガ上科 Bombycoidea
: ヤママユガ科 Saturniidae
学名
Saturniidae
和名
ヤママユガ科

ヤママユガ科(ヤママユガか、学名Saturniidae)は、チョウ目に分類されるの一群。

現在生息するチョウ目最大級のガを含む。全世界に2300種の記載種が分布すると推測される。

成虫は大型で、太い体と小さい頭部、羽毛のような鱗粉、膨らみのある翅を持つ。口器が退化しており、羽化後は生殖のためだけに飲まず食わずで活動する。種によって差はあるが、オスは触角が葉脈状に広がっており、メスの放つ性フェロモンを検知する。いくつかの種は翅に極彩色や半透明の目玉のように見える文様がある。多くの種は開翅長2.5-15センチ程度だが、熱帯に生息するアトラスガ類は30センチに達する。

概要

一部の種は、年に複数回発生する。春・夏に孵化した個体はそのまま成長し、秋に孵化した個体は幼虫・の状態で越冬する。

メスは半透明のやや潰れた丸い卵を1体で200個ほどを食草に産み付ける。

幼虫は4-6回の脱皮を経て、終齢幼虫で5-10センチほどに成長する。一部の種は集団生活を送るが、多くは単独で生活する。ほとんどの種が節くれだち、棘や毛に覆われている。南米に生息するLonomia属は棘に毒を持ち、ヒトの死亡例もあるといわれるが、日本産の種をはじめ、大多数は無毒である。北米産のポリフェマス・モスやルナ・モスなど一部の種には、天敵が近づくと顎を鳴らして威嚇音を発するものがある。ほぼ木本食で、草本食はごく一部である。農産物に大被害をもたらす一方、アフリカ南部のモパネワームのように、ヒトの食料として活用される種もあり、アフリカ全土で幼虫を昆虫食の対象としている。

樹上または地上・地下でを形成し、となる。ヤママユガをはじめ、サクサン・エリサン・フウサンなどの繭は東アジア-南アジアで野蚕として繊維採取に活用される。

成虫は口器が退化しているため、幼虫時代に体内に蓄えた脂質を使い果たして死ぬ1週間以内につがいを探す。発達したオスの触角は、メスの放つ性フェロモンを半径1マイル程度の範囲で検知できるといわれる。

成虫は大型の種が多く、目玉状の文様とあいまって、虫嫌いの人にとっては恐怖感・嫌悪感を抱きやすい。一方、ヨーロッパ産のオオクジャクヤママユをはじめとするEmperor moth、北米産のルナ・モスや日本産のオオミズアオをはじめとするMoon mothなどの美麗種もある。さらに、日本産のヨナグニサンやその原種であるアトラスガ、同属のカエサルサン・ヘラクレスサンなど「世界最大の蛾」に挙げられる種がそろっているため、昆虫採集の対象となりやすい。

主な日本産種と属

ヨナグニサンの原種で東南アジアに分布するアトラスガ(Attacus atlas (Linnaeus, 1758))をタイプ種とする。ヤママユガ科の特徴とされる目玉模様は目立たず、前翅の先端部に小さく残る。前翅の縁がヘビの頭部に擬態しているといわれる。Wikispeciesには東南アジアを中心に分布する10種が記載されており、世界最大候補のミンダナオオオヤママユAttacus caesar Maassen, 1872)も含まれる。

シンジュサンの原種(Samia cynthia (Drury, 1773))をタイプ種とする。アトラスガ類と同じ族で目玉模様は目立たず、前翅の先端部に小さく残る。前翅の縁がヘビの頭部に擬態しているといわれる。Wikispeciesにはアジアに広く分布する17種が記載されており、インドシナ半島で養蚕用に改良されたエリサン(Samia cynthia ricini)も含まれる。

  • ミズアオガ属 Actias Leach, 1815 in Leach & Nodder
    • Actias aliena (Butler, 1879) オオミズアオ
    • Actias gnoma (Butler, 1877) オナガミズアオ

北米原産のルナ・モス(Actias luna (Linnaeus, 1758))をタイプ種とする。青緑や水色の淡色で、後翅には尾状突起が発達し、熱帯産の種では全長より長い突起を持つ。Wikispeciesには北半球に広く分布する35種が記載されており、Moon mothと総称される。アトラスガ類の学名に男神・帝王の名が含まれやすいのに対し、本種は女神の名が多い。

インド北東部で野蚕として活用されるタサールサン(Antheraea mylitta (Drury, 1773))をタイプ種とする。黄褐色の枯葉状の模様が多く、しっかりした繭を作るため、ヤママユやタサールサン、中国産のサクサン(Antheraea pernyi (Guerin-Meneville, 1855))など有用な種を含む。Wikispeciesには94種が記載されている。

  • Caligula Moore, 1862
    • Caligula japonica Moore, 1872 クスサンRinaca japonicaSaturnia japonica と記載することもある。)

東南アジアに生息するカリギュラ・シムラ(Caligula simla (Westwood, 1847))をタイプ種とする。ヤママユガ科のタイプ属であるSaturnia属と近縁で、Rinaca属とともにSaturnia属とみなされることもある。Wikispeciesには8種が記載されている。

  • Loepa Moore, 1859
    • Loepa sakaei Inoue, 1965 ハグルマヤママユ

東南アジアに生息するゴールデン・エンペラー・モス(Loepa katinka (Westwood, 1848))をタイプ種とする。英名のとおり黄色の翅を持つ種が多く、目玉状の文様も明瞭である。Wikispeciesには50種が記載されている。

  • ウスタビガ属 Rhodinia Staudinger, 1892
    • Rhodinia fugax (Butler, 1877) ウスタビガ
    • Rhodinia jankowskii (Oberthuer, 1880) クロウスタビガ

インドに生息するロディニア・ネワラ(Rhodinia newara (Moore, 1872))をタイプ種とする。科の中では小型種の部類になる、目玉状の文様は大きいが歪がちである。Wikispeciesには10種が記載されている。

  • Saturnia Schrank, 1802
    • Saturnia jonasii jonasii (Butler, 1877) ヒメヤママユ

ヨーロッパ最大の蛾であるオオクジャクヤママユ(Saturnia pyri (Denis & Schiffermüller, 1775))をタイプ種とする。全世界の種を含むが、Caligula属やRinaca属との差は曖昧で、亜属として編入する場合もあり、クスサンがその影響を受けている。Wikispeciesには29種が記載されている。

ヨーロッパ産のタウ・エンペラー(Aglia tau (Linnaeus, 1758))をタイプ種とする。上記の日本産種はすべてSaturniinae亜科だが、Aglia属は単系のAgliinae亜科に属する。Wikispeciesには6種が記載されている。

脚注

関連項目

  • モパネワーム - アフリカ南部で食用とされる種
  • 野蚕 - 日本ではヤママユガの採取が一部では行われ、「天蚕」として活用されている。化学繊維が普及するまで、釣り糸のテグスには台湾-華南に生息するフウサンの繭が使われていたため、フウサンは「テグス蚕」とも呼ばれている。太平洋戦争直後までは、長野県では満州産のサクサンが導入されたが、養蚕の衰退とともに省みられなくなった。
  • 少年の日の思い出 - 戦後、中学校国語の小説教材として、ヘルマン・ヘッセ著作・高橋健二訳の短編小説「少年の日の思い出(Jugendgedenken)」が採録されている。その知名度から、日本ではヘッセの短編集の表紙に、主人公が事件を起こすきっかけとなった「クジャクヤママユ」のイラストや写真が掲載されることがある。
  • モスラ (架空の怪獣) - 大型の蛾であるため、ヤママユクスサンシンジュサンなどの実物を見て「まるでモスラのようだ」と感想を持つ人は少なくない。東宝怪獣のモスラは複数種の蛾の特徴を組み合わせたもので、ヤママユガ科もモチーフのひとつではあるが、幼虫の形態がまったく違う点や、ヤママユガ科では退化した口器を持つなど、大きく異なっている。

ヤママユガ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 20:31 UTC 版)

尾状突起」の記事における「ヤママユガ科」の解説

夜行性のヤママユガ科にとってコウモリ重要な天敵であり、ヤママユガ科に見られる尾状突起コウモリからの捕食逃れるための適応である可能性議論されている。RUBIN et al. (2018) は、長い尾状突起をもつ Actias luna や Argema mimosae、尾状突起もたない Antheraea polyphemus の尾状突起切除した接着したりする実験によって尾状突起捕食回避効果評価し尾状突起長くなるほどガがコウモリ攻撃から逃げ延びる確率が高まる傾向認めている。尾状突起による捕食回避は、コウモリ反響定位用い超音波反射攪乱して音響的錯覚生じさせ、コウモリ攻撃を頭や胴から離れた位置にある後翅後端付近に向かわせることで成立する考えられる。この研究において、尾状突起切除接着によるガの飛行能力変化認められなかったが、ヤママユガ科には捕食回避効果不確かな 10mm 以下のごく短い尾状突起有する種もおり、夜行性ガ類とコウモリとの進化的軍拡競争考えるうえでもさらなる研究が必要とされている。

※この「ヤママユガ科」の解説は、「尾状突起」の解説の一部です。
「ヤママユガ科」を含む「尾状突起」の記事については、「尾状突起」の概要を参照ください。

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