責任問題と国際問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 02:27 UTC 版)
「ヘーベイ・スピリット号原油流出事故」の記事における「責任問題と国際問題」の解説
この事故では、大韓民国海洋水産部の地方局は、事故の2時間前、艀(クレーン船)の船団を指揮するチョ船長へタンカーに近すぎると二度警告を試みたが交信できなかった事は背景でも述べたとおり艀の船長は自分の判断で荒い天候の中この区域を通り抜けた。曳航船のワイヤーが切れ、漂流暴走したクレーン船が船体にぶつかったとき、タンカーは検疫のため定められた場所に投錨して船を錨で固定していたと証言している。管制センターとの交信ができなかった理由について船団の船長は、Ch12で船団同士交信していたため、当局には応答できなかったと証言(管制センターはCh16を使用)した。法律上聴取すべき周波数については、全船舶はIMO(国際海事機構)の国際条約によりCh16を常時聴取(聞いておく)事が義務付けられており、各国はこれに従っている。つまり、当局もしくは船舶同士の呼び出しは最初はCh16で行われ、次いで話手双方の了解を持って任意のCh(チャンネル)に移動する。(この日、クレーン船団同士のChはこれ手法によりCh12となっていた。)しかし、1つの周波数しか聞けない場合、これでは航路上を航行する当該クレーン船団は、当局もしくは他の船舶との交信が出来ない。ここで2つの可能性が出てくる。①船団全船が持っている無線器が、Chが1つしか選択出来ない小型携帯型トランシーバー程度の安物だった説。これでは船団以外の他の船舶とは交信不可能となり、聴取義務周波数Ch16を聞かない状態が発生。②船団の母船(大型曳船等)のみ大型無線機を設置。周波数は二波(待ち受けCH16と任意交信Chの2つの周波数を聞けるようになっていた説。(これで船団内の小型曳航が安物無線機でも問題ないが、聞こえているのに何故答えないという疑問が出てくる。)どちらにしても、一般的な事故の原因を考えた場合、「敢えて当局からの呼び出しを無視した。」と当局もしくは司法から思われても仕方ない理由となる可能性が発生する。先述のとおり、船団側が指定航路および係留地(停泊域)侵入の違反を犯していることもあるため、1審ではタンカーのジャスプリット・チャウラ・シン船長、チェタン・シャム一等航海士は無罪とされた。ところが、2審において乗組員に対する逆転有罪判決が出され、シン船長に懲役18ヶ月及び1000ドルの罰金、シャム一等航海士に懲役8ヶ月の判決がなされた。12月20日に、大韓民国海洋警察庁が事件の原因調査を終え、責任はクレーン船の船長、船団を指揮していた曳航タグボートのチョ船長とほか2隻のタグボート各船長、タンカーHebei Spirit号の船長のいずれにも見られるとしたのが原因であった。これにより、2名は収監された。 ところが、この異常とも言える判決に、国際運輸労連、インタータンコ、インターカーゴをはじめとした海運労使団体が反発。インド船員組合・インド海事組合・商船組合に至っては韓国行きの船舶への乗務をボイコットする事態となり、ムンバイなどではサムスン製品の購買ボイコットや打ち壊しなどのバッシングが発生し、2名の無罪及び釈放を求める抗議を行った。 その後、2名は保釈はされたものの、韓国からの出国を禁じられ、ホテルで軟禁状態に置かれていたが、2009年 4月23日 、最高裁判所1部は"競合のためにタンカーに発生した損傷は、刑法第187条に定められた船舶の破壊"とまで評価するには不十分にもかかわらず、業務上過失船舶破壊罪まで有罪と認めた部分は違法である"と判断して、控訴審判決をすべて破棄した。 サムスン重工業とベイスピリット船舶株式会社の各罰金3000万ウォンを宣告した原審はそのまま確定した。2009年 6月11日 、大田地方法院第3刑事部は破棄差し戻し審宣告公判で、海洋汚染防止法を適用して、控訴審で2年6月を宣告された船団指揮のタグボートチョ船長に懲役2年3月、懲役8ヶ月で軽減された2隻の補助曳航タグボートの船長には懲役1年を宣告した一方、河北スピリット号の船長と一等航海士については、業務上過失船舶破壊罪について無罪を宣告し、540日ぶりに開放・帰国した 最近の報告では、損失の補償のほとんどは、Hebei Spirit号の保証人である中国船主責任相互保険組合(中国P&I)とスクルドP&Iによって支払われ、残りをサムスン火災保険とロイド P&Iが補填すると考えられている。中国P&IとスクルドP&Iがその費用を払うことができない場合、ダメージが国際会議で決められた船主の制約を上回る場合、国際油濁補償基金(IOPCF)が責任をもって支払うことになるだろう。 この事故による影響は、物流にも影響を及ぼし、韓国国内においてはコンテナ物流量が2008年11月から4ヶ月連続で大幅減少と言う事態にまで発展、2009年5月にも運送ストが予告された。
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