狐女房
★1a.狐女房。『鶴女房』など一般の異類婚姻譚と異なり、夫の「のぞき見」による破局ではなく、犬のために女房が去ることが多い。
『芦屋道満大内鑑』2~4段目 悪右衛門が部下を引き連れ、信太の森で狐狩りをし、追われた白狐が安倍保名に救いを求める。保名は白狐を祠に隠し、悪右衛門たちと闘って傷を負う。白狐は保名の恋人・葛の葉に身を変じて現れ、保名を介抱する。保名と葛の葉(=白狐)は夫婦となり、童子(後の晴明)をもうけ、6年間むつまじく暮らす→〔母さがし〕2。
『木幡狐』(御伽草子) 木幡の里に住む狐の姫君きしゆ御前は、16歳の時、美貌の三位中将を見て恋い慕い、人間に化けて契りを結ぶ。しかし、2人の間に生まれた若君が3歳になった頃、屋敷に犬が献上される。きしゆ御前はこれをひどく恐れ、泣く泣く家を出る。そして嵯峨野に分け入り、出家して庵にこもった〔*動物が人間との結婚に破れ出家する、という点で、→〔鼠〕6の『鼠の草子』と同じ〕。
『任氏伝』(唐代伝奇) 鄭六は、絶世の美女任氏と親しくなる。任氏は狐であったが、鄭はそれを知っても心は変わらず、彼女を愛する。しかし、任氏は猟犬に追われ噛み殺される。
『捜神記』巻18-13(通巻425話) 孝という兵士が逃げて長い間姿を見せぬので、大勢で捜すと、郊外の墓穴の中にいた。狐が阿紫と名乗る美女に化けて孝を誘い、孝は彼女を妻として暮らしていたのだった。
『曽我物語』巻5「三原野の御狩の事」 在中将業平が、木幡山の辺で会った女を妻とするが、女はしばらくして姿を消す。業平は女を尋ねて木幡山の奥に到り、古塚に集まる多くの狐を見て、女が狐だったことを知る。
『日本霊異記』上-2 美濃の国の男が、良き配偶者を捜し求めて道を行き、広野で出会った美女を家へ連れ帰って妻とする。やがて男と妻との間に、1人の男児が生まれる。男の家の飼い犬も仔を産み、その犬の仔に追われて、妻は狐の正体をあらわす。妻は家を去るが、男が「子まで生(な)した仲ゆえ、私は忘れない」と言うので、その後も男のもとへ来て共寝をした。それゆえ「きつね(来つ寝)」という。
*山道で出会った美女を妻にしたら狼だった、という物語もある→〔狼〕2fの『聊斎志異』巻5-197「黎氏」。
『洛陽伽藍記』巻4「洛陽大市北部」 孫巌は、めとって3年になる妻が異類だと知って離縁する。隣人に追いかけられた妻は、狐と化して逃げ去った。
『聊斎志異』巻4-153「辛十四娘」 馮の妻辛十四娘は狐だった。彼女は、無実の罪で処刑される馮を救い出した後、にわかに容色が衰え、半年ほどで老婆のごとくなって死んだ。後、馮の下男が遠方で辛十四娘に会ったが、彼女は「今、私は仙人の籍に入っている」と言った。
『聊斎志異』巻5-174「鴉頭」 王文は妓女鴉頭と駆け落ちする。鴉頭は狐であり、その母親によって連れ戻され監禁される。鴉頭の産んだ子・王孜は捨てられるが、数年後に父・王文が孤児院で彼を見出す。王孜は18歳の時、母親鴉頭を救い出し、鴉頭の母と姉を殺す。
『聊斎志異』巻7-286「阿繍」 劉子固は美女阿繍との結婚を望むが、別れ別れになってしまう。狐が阿繍そっくりに化けて劉を慰め、さらに、戦乱に遭遇した阿繍を助けて劉と結婚させる。その後も狐は阿繍に化け「どちらが本物か」と劉を試したりする。実は狐と阿繍は前世で姉妹で、阿繍は早死にして人間に生まれ変わっていたのだった。
『狐のためいき』(星新一) 「私」は伊豆に住む狐です。「私」には人間の血がまざっています。狐は人を化かしても、けっして体をまかせることはないのですが、「私」の母狐はそれをしてしまいました。相手の男は、恋人に欺かれ、事業は仲間にだまされ、友達に見放されて、伊豆へ死にに来たのです。あくまで人を信じ、人を疑わなかった男のあどけない目を見て、「私」の母狐はすべてを許しました。「私」が人間を化かせない狐になったのも、母狐が禁を犯した罰かもしれません〔*星新一が22歳の時の処女作〕→〔狐〕2c。
『今昔物語集』巻14-5 男が朱雀門の前で、17~18歳の美女に出会い、契りを交わす。美女は「このことのために、私は命を失うでしょう」と言い、男の扇を取って去る。翌日男は武徳殿へ行き、狐が扇で顔をおおって死んでいるのを見出して、「自分は狐と交わったのだ」と知る。男は法華経を供養し、その功徳で女(=狐)はトウ利天に生まれた〔*原拠の『大日本国法華験記』下-127では、狐が男に「私と交われば、貴方は死にます」と警告し、男は「かまわない」と言う。狐は「それなら、私が貴方の代わりに死にましょう」と言って、男と交わる。『古今著聞集』巻20「魚虫禽獣」第30・通巻681話に類話〕。
『聊斎志異』巻2-48「嬰寧」 王子服は元宵節の日に、美女・嬰寧を見そめて結婚するが、それは王の母方の秦伯父が狐妻との間にもうけた娘だった。嬰寧は何かというとよく笑い、翌年生まれた男児も母親ゆずりで、人見知りせずよく笑った〔*隣家の息子が横恋慕した時も、嬰寧は笑っていたので、息子は「私に気があるのだ」と誤解し、彼女に抱きついた→〔にせ花嫁〕4b〕。
『狐になった人妻』(ガーネット) テブリック氏の新妻シルヴィアが、ある日突然、狐に変身する。テブリック氏の妻への愛は変わらないが、狐妻はしだいに人間としての心を失って行く。狐妻はテブリック氏のもとから逃げ出し、雄狐との間に5匹の子狐をもうける。それを知ったテブリック氏は、雄狐に嫉妬する。やがて狐狩りの季節が来て、狐妻は猟犬たちに追われ、噛み殺される。
『今昔物語集』巻16-17 賀陽良藤は、狐の変じた美女に誘われ夫婦となり、正気をなくして、蔵の床下を大きな屋敷と思い、そこで暮らす。13日後、良藤は痩せ衰えた姿で救出される。
『殺生石』(能) 天竺・唐土で悪事を働いた妖狐が、日本に渡って鳥羽院の寵妃玉藻前となった。玉藻前は院の命をねらい、朝廷の転覆を謀っていた。しかし安部泰成に調伏され、那須野へ逃げたが、三浦介・上総介に射殺された。
『封神演義』第4~6回 冀州侯蘇護の娘・妲妃(だっき)が殷の紂王に召され、都・朝歌へ向かう。旅中、千年の女狐が妲妃を襲い、その魂魄を奪って妲妃に姿を変える。天文官が妖気を見、宰相が諫言するが、紂王は妖狐の化身の妲妃を愛し、政務を怠る。
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