牟礼・庵治の石工用具

文化財選集

牟礼・庵治の石工用具 （香川県）

名称
牟礼・庵治の石工用具
区分
重要有形民俗文化財
点数
791点
所在地
香川県木田[きた]郡牟礼町
所有者
牟礼町（牟礼町石の民俗資料館保管）

資料一覧
解説
花崗岩のうちでも緻密で光沢が美しいことで知られる庵治石[あじいし]の採石や細工にかかわる用具類の系統的なコレクションで，機械化以前の手仕事の用具が作業工程にそって網羅され，我が国の硬質系の石工技術を知る上で貴重な資料となっている。

国指定文化財等データベース

牟礼・庵治の石工用具

名称：	牟礼・庵治の石工用具
ふりがな：	むれ・あじのいしくようぐ
種別：	生産、生業に用いられるもの
員数：	791点
指定年月日：	1996.12.20(平成8.12.20)
所有者：	高松市（高松市石の民俗資料館保管）
所有者住所：	香川県高松市
管理団体名：
備考：
解説文：	石材の採掘や石製品の細工にたずさわる職人の伝統的技術は、わが国では石材の硬度の違いにより、おおむね二つの系統に分けてとらえられる。一つは凝灰岩【ぎようかいがん】などの軟石系の技術であり、もう一つが花崗岩を中心にする硬石系の技術である。前者は栃木県の大谷【おおや】石などで用いられている技術であり、後者は、御影【みかげ】石の名で知られる花崗岩に用いられている技術である。その中間に安山岩などの準硬石系の技術が位置づけられる。 　花崗岩は深成火山岩の一種で、一般に石質が堅牢で、耐久力があり、磨き上げると美しい光沢を得ることができるので、石材中でも最も重視され、建築用材として使用されたり、土木用としては敷石・橋などに利用され、石碑・墓石・門柱など広い用途がある。わが国では西日本にこの花崗岩の産地が多く、とりわけ瀬戸内海地方に集中している。これは領家【りようけ】帯と呼ばれる地質がこの地方を形成しているためで、北土石・万成【まんなり】石（岡山県）、小豆【しようど】島石・与島石（香川県）などの産出が比較的長く続けられてきた。これらの中で、香川県木田郡牟礼町・庵治町の境界付近から産出する庵治石は、とりわけ硬度が高く緻密な良質の石材として知られている。 　この地方の石材採掘の歴史は、古代・中世にさかのぼる可能性があるが、江戸時代から明治・大正期、昭和初期までは主に建築用材としての利用が中心で社寺の基礎・石段・石垣・鳥居などのための使用が中心だった。昭和三十年代になって研磨技術が進歩すると表面の緻密な美しさと耐久性が評価されて、墓石を中心とした石碑類に最適の石材として注目を集め、その後の機械化とあいまって、牟礼・庵治地区には石材業にたずさわる者が増え、今日も多くの石材店が集中している。 　石工用具は、他の諸職用具に比べて摩耗が激しいことと、使い尽くしてしまうために、完全な用具を収集することは難しく、また、単純な工具を組み合わせて用いるため、用具の種類が比較的少なく地域的特色を示すことが困難と考えられてきた。ところが、庵治石はきわめて硬質であるため、採石・加工の工程で順を追って、さまざまな用具が使い分けられ、また、明治末から昭和初期に至る時代には技術的変化が著しく、用具も多様化したために、豊富な資料収集が可能であったのである。 　機械化により石材業は発展の方向にあったが、その一方で伝統的な石工の技術と用具類は、消滅の危機にさらされていた。その状況を憂慮していた石工の青年たちが調査収集活動を開始したのが昭和五十五年のことであった。本コレクションは、こうした活動を引き継ぎ、「牟礼町石の民俗資料館」の開館準備にともなって収集・整備が行われ、その数千点に及ぶ資料の中から、牟礼・庵治地方における採石・加工の全工程にかかわる用具類七九一点を系統的に整理したものである。 　本コレクションは、採石を中心とした「丁場【ちようば】用具」と、細工を中心にした「加工用具」に大別し、これに石材や製品を運ぶための「運搬用具」、鑿【のみ】類などの製作や修繕をする「鍛冶用具」、石工の仕事場での「生活用具」を加えて、五つの分類構成をとっている。 　丁場用具には、「丁場造成用具」「採石用具」「小割用具」が含まれる。 　「丁場造成用具」は丁場（採石場）の整備のための用具類で、岩盤の上層の草木を伐採するためのノコギリ・ナタ・ヤマガマと、土砂の排出のためのツルハシ・トンガ・オタフクなどの土木用具が中心である。 　「採石用具」は、対象とする大型の浮き石を動かしたり、岩盤から剥がしたりするための用具類で、大型のテコ類と、火薬用の穴を彫るエンショウノミが主要なものである。テコ類にはキデコ・カナホ・カナテコの三種類がある。また岩盤から剥がした石を落としたり返したりするＬ字形のマンも含まれている。エンショウノミは穴の深さに応じ、しだいに長いものが用いられ、四メートル近いものが収集されている。火薬用の穴を彫る作業にはカヤクノハカリやカヤクコメボウなどをもとなう。ゲンノウはその大きさ、重さによりオオゲンノウ・チュウゲンノウ・コギマワシゲンノウの区別があり、さらに小さいものは、セットウあるいはツチと呼ばれる。火薬により剥ぎ採ったあとの大割りには、マルノミ・ソコウチノミでヤ穴を彫り、各種のヤ（楔【くさび】の類）を使い分けて叩き割る。採石に用いるヤはキキヤ類のうちの比較的大きなシメヤ・オオヤ・セリヤ・ハリヤで、これらはヤ穴を左右に押し広げる役割を果たす。ヤを保護し、石とヤの密着性を高めるためにセリイタと呼ばれる鉄板やセリガネと呼ばれる薄い鉄片を挟む。なお、丁場でこれらの用具類を収納するドウグバコが収集されている。頑丈につくられ鍵もかかる大型のものである。

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