水深測量の歴史
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「チャレンジャー海淵」の記事における「水深測量の歴史」の解説
長年にわたり、多くの様々な船が最深度地点の調査に携わっている。 最初の測量調査はイギリスのチャレンジャー号探検航海 (1872 – 1876) の海洋調査によって初めて行われた。1875年3月23日、測鉛線による測深記録は8184mであった 。測量地点は北緯11度24分 東経143度16分 / 北緯11.400度 東経143.267度 / 11.400; 143.267、測量を2度行っている。 1912年のジョン・マレーの著書『海洋の深さ(The Depths of the Ocean)』では、チャレンジャー海淵 の深さを9636 mと記しており、1899年に海軍の石炭船USS Neroにより更新されたと報告されている 。 日本によるマリアナ海溝の調査は、20世紀に入って行われた。1925年、日本の測量艦「満州」が重りのついたケーブルをおろして測定する方法(鋼索測深)でマリアナ海溝の水深を測定したところ、9814mを記録。この海域が世界で最も深い部分であることを世界に知らしめた。 1951年にマリアナ海溝の本格的な深度調査を行ったのはイギリス海軍の測量艦「チャレンジャー8世号(英語版)」である。この時、「チャレンジャー」は反響した音波を測定する方法(音響測深)で、北緯11度19分 東経142度15分 / 北緯11.317度 東経142.250度 / 11.317; 142.250において水深10900mを計測した。音響測深は以前(75年前)の探検で使用された測鉛線よりも正確で簡単な深度測定方法である。 チャレンジャー海淵の最大水深は、1957年にソ連海軍艦艇「ヴィチャージ(ロシア語版)」(Vityaz)が計測した水深11034m±50mで、場所は北緯11度20.9分 東経142度11.5分 / 北緯11.3483度 東経142.1917度 / 11.3483; 142.1917地点と報告された。この地点は「ヴィチャージ(ビチアス)海淵」と名付けられた。この値は、ブリタニカ百科事典 とナショナルジオグラフィック の記事や地図を含む、多くの文献に掲載されている。この水深の圧力は大気圧の約1099倍、111MPaである。ただし、後年の調査でこれほどの水深は一度も測定されず、2014年時点で公式記録としては認められていない(後述)。 1959年、米海軍の調査船Strangerが爆音を使用する調査で、最大深度10915m±10mを計測、その場所は北緯11度20.0分 東経142度11.8分 / 北緯11.3333度 東経142.1967度 / 11.3333; 142.1967だった。 1962年、米海軍の調査船 Spencer F. Bairdが、周波数操作深度記録計を使った調査で、同じ 北緯11度20.0分 東経142度11.8分 / 北緯11.3333度 東経142.1967度 / 11.3333; 142.1967地点で最大深度10915m±10mを計測した。 1975年と1980年に、米国海軍の調査船 Thomas Washingtonが、衛星測位による精密深度記録計を使って調査したところ、 またも北緯11度20.0分 東経142度11.8分 / 北緯11.3333度 東経142.1967度 / 11.3333; 142.1967地点で最大深度10915m±10mを計測した。 1984年、日本の海洋調査船拓洋が、ナローマルチビーム音響測深機(MBES)を使用して得た数値は、北緯11度22.4分 東経142度35.5分 / 北緯11.3733度 東経142.5917度 / 11.3733; 142.5917地点で水深10924m±10mだった。 1998年、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の深海探査研究船かいれいがシービーム2112型マルチビーム音響測深機(MBES)を使用して、チャレンジャー海淵の地域的測度調査を実施した。1998年に得られたデータから作成された地域水深図は、 東側・中央・西側の窪みの最大深度が10922m±74 m・10898m±62m・10908m±36mで、東側の窪みが最も深かった。 1999年と2002年に、かいれいはチャレンジャー海淵を再訪した。1999年に実施されたかいれいのクロストラック調査では、東側・中央・西側の最大深度が10920 m±10 m・10894m±14m・10907m±13mで、1998年調査の結果を支持するものとなった。2002年の詳細なグリッド調査では最も深い場所が東側窪みの東部北緯11度22.260分 東経142度35.589分 / 北緯11.371000度 東経142.593150度 / 11.371000; 142.593150にあり、水深10920 m±5 mと示された。これは1984年に拓洋が示した最深場所の南東約290m、1998年のかいれいが示した最深場所の東約240mだった。 2009年6月1日に、キロ・モアナ (ネーレウスの母艦)に搭載した深海マッピング(300-11000m)用のKongsberg Simrad製EM120ソナーマルチビーム測深システム(SMBS)による調査で、チャレンジャー海淵のソナーマップは水深10971m を示した。同ソナーシステムは位相と振幅のボトム検出を使用しており、水深で0.2%-0.5%の精度が検知面全体で可能である 。2014年でも、このソナーマッピングによる地形データは非公開のため、そのデータを他の音響測深との比較には使用できない。 2010年10月7日、またもチャレンジャー海淵地域のソナーマッピングが、海洋観測艦サムナー に搭載のもので、米国沿岸・海洋地図センター(英語版)/共同水路測量センター(CCOM/JHC)によって実施された。この結果は2011年12月、アメリカ地球物理学連合 の秋季会議で報告された。50 cmの精度で緯度経度を決定できる コングスベルグ・マリティム(英語版)製EM122マルチビーム音響測深システムを使用することで、CCOM/JHCチームはチャレンジャー海淵の最大水深を10994m±40m(標準偏差 95.4%)、その位置を北緯11度19分35秒 東経142度11分14秒 / 北緯11.326344度 東経142.187248度 / 11.326344; 142.187248と測定した。2番目に深い場所は水深10951m、マリアナ海溝の中で約44km離れた北緯11度22分11秒 東経142度35分19秒 / 北緯11.369639度 東経142.588582度 / 11.369639; 142.588582 の位置だった 2014年に、これまで収集されたデータと2010年の観測艦サムナー調査によるマリアナ海溝のソナーマップに基づき、チャレンジャー海淵の深さと場所の決定に関する研究が行われた。CCOM/JHCチームやニューハンプシャー大学海洋研究所が携わった同研究は、測量試行の歴史を3つのグループに分けた。初期のシングルビームエコー音響(1950-1970年代)、初期のマルチビームエコー音響(1980年代-21世紀)、現代(すなわち、ポストGPS、高解像度)のマルチビームエコー音響である。水深測定と位置推定の不確実性を考慮して、8測量線からの205万1371回の音響探査に基づく2010年のサムナーによるチャレンジャー海淵付近の水深測量生データが分析された。分析した結果、深度不確定性±25m(信頼水準95%)と位置不確定性±20-25mがあるものの、2010年マッピングで記録されたチャレンジャー海淵の最大水深は、「 北緯11度19分48秒 東経142度11分57秒 / 北緯11.329903度 東経142.199305度 / 11.329903; 142.199305の位置にて、水深10984m」と定められた。水深測定の不確実性には、水中を通る音速の空間的変動における測定不確実性、マルチビームシステムのレイトレーシングとボトム検出のアルゴリズム、モーションセンサやナビゲーションシステムの精度と較正、天体の広がり推定 、水量全体にわたる音響減衰、などの複合がある。 2009年5月-6月にネーレウスが探査中に実施した一連の潜航では、2009年と2010年の最大深度は確認されなかった。海底から報告された4度の直接潜航測定値は、水深10916m(トリエステ)から10911m(かいこう)、10902m(ネーレウス)、10,898 m(ディープシーチャレンジャー)までの狭い範囲にかたまっている。場所を関連付ける試みがなされたが、ソナー/エコー音源によってネーレウス(または他の潜航物)が、以前のマッピング調査で最大水深とされた地点と正確に同一ポイントに達したのか、絶対的な確信が得られなかった。
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