斬味
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 23:48 UTC 版)
村正の武器としての性能は古今無双とされ、「兎に角一般に刄味が良くて」(小泉久雄)、「利刃をもって名高く」「斬味が抜群」(小笠原信夫)で、「その切れ味の良さを買われ、三河武士の愛用するところとなった」(福永酔剣)、「比類ない大物切れで、禁制すべき筋合の刀ではない」(内田疎天)、(鎌倉期の名刀は穏やかな品格を備えているが、それとは逆に)「村正の刀は一見してこの刀は切れると云う鋭さが先に迫って来る」「切って見たいと云う衝動に駆られることは昔の武士なら当然」(田畑徳鴦)等と言われる。 村正には、この刀の前では人体など無いも同然という意味で「空也(くうや)」の号を銀象嵌で施された脇差があり、村正の影響下にあったとされる刀工も、千子正真の酒井忠次愛刀「猪切」(猪を斬り殺した)、文殊正真の本多忠勝愛槍「蜻蛉切」(槍の刃に自分から当たった蜻蛉が真っ二つになった)、坂倉正利の丹羽氏次愛槍「岩突槍」(敵兵を鎧ごと貫いて後ろの岩に突き刺さった)など、半ば伝説めいた鋭さによる号を持つ作品が多い。 村正には、公儀御様御用山田浅右衛門の試し斬りによる位列(最上大業物といった評価)などはなく、これは位列を発表した時には既に妖刀伝説が広まっていて、幕府に遠慮したためと見られている。しかし、妖刀伝説が広まる前の戦国時代には、関白豊臣秀次が自ら試し斬りを行い、「一の胴」の部位での胴体一刀両断の試斬を七回達成したことから、「一胴七度」の截断銘(せつだんめい、刀剣の威力を称賛した銘)が施されている。「一の胴」とは、江戸時代後期では斬りやすいみぞおちの辺りを指すが、江戸時代前期までは乳頭のやや上、肋骨が多い箇所を指したので、難易度が高い部位だった。江戸時代を代表する名工水心子正秀の証言では、正秀や弟子の作では「三ツ胴」(斬りやすい部位での胴体三つ重ね両断)ぐらいはかなり容易く斬れるが、「乳割」(秀次の時代での「一の胴」)の部位では斬れたり斬れなかったりして、「乳割」(=旧「一の胴」)は「三ツ胴」よりも難易度が上なようである(ただし斬り手を庇うためか、「乳割」に使った刀は余り出来が良くなかったようだともしている02)。 また、幕末の幕府講武所頭取窪田清音は、名工源清麿を見出すなど作刀にも造詣が深かったが、『止戈類纂』の中で、備前長船兼光より斬れ味に優れた刀として、兼元(関の孫六)、永正祐定、村正の三つを挙げている。 小泉久雄海軍大佐(当時)は、『日本刀の近代的研究』(1933年)で、1932年の第一次上海事変での軍刀実用の成果の報告資料を載せている(海軍砲術学校教官工藤中佐の報告による)。これによると、実戦で刀を用いた40人の意見のまとめとして、新村田刀(スウェーデン鋼と和鋼を六対四の比率で用い工業的に作られた安価な軍刀)は最初の一撃の斬れ味は相当良いものの、耐久性がなく、斬れ味がすぐに落ちる上に、曲がりやすいが、一方で、古来の製法で作られた日本刀は耐久性に優れていて、連続使用に耐え得るという。この中で村正も報告されていて、使用されたのは二尺三寸五分(約71.2cm)の村正の打刀、反り五分(約1.5cm)、制式軍刀拵え。首より肩にかけて2回、腹部刺突2回の計4回使用され、「切レ味豫想以上」(切れ味予想以上)、刀身の故障の項目も、刃こぼれ一つなく「異常ナシ」となっている。 やや伝説のような話では、本阿弥光遜の『刀剣鑑定秘話 第2版』(1942年)によれば、日露戦争直前に、松本という将校が、村正の刀で試し斬りをしてもどうにも切れない、偽物かと思ったがそうでもない、と不思議に思って知人で刀剣研磨の名人本阿弥琳雅(光遜の師)に相談して見ると、研ぎが悪くて鎬が低く丸くなっていた。そこで琳雅が鎬高に研ぎ直すと、その村正は本来の威力を取り戻して、松本某が戦場に出た時は敵のロシア兵を軍刀ごと斬り裂いたというが、光遜の出版物は日露戦争から40年近くも経っていて信憑性は不明。しかし、話の真偽そのものはともかく、研磨と鑑定の名人である光遜が村正の斬れ味を高く評価していたことは読み取れる。 また、刀工や研磨師・鑑定家が挙げる良く切れる刀の特徴は、村正に合致する。 焼き刃が深くない(つまり、刃文が刃先に迫る)刀の方が折れにくくなる(刀工水心子正秀『古今製作 刀剣弁疑巻之下』)正秀がよく斬れる刀として具体例で挙げているのは関兼元(関の孫六)と初代祐定だが、兼元と村正は兄弟流派で、村正も兼元同様に焼き刃が低いことで有名。 ガッチリとした平肉の少ない鎬高の刀が良い(本阿弥光遜)光遜はこういう刀の代表的として村正を挙げ、前記の軍刀斬り村正の逸話を記している。
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