戦後の本稿とは? わかりやすく解説

戦後の本稿(決定稿)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/28 13:33 UTC 版)

サーカス (小説)」の記事における「戦後の本稿(決定稿)」の解説

1945年昭和20年3月東京大空襲の後、5月から神奈川県高座郡大和海軍高座工廠勤労動員されていた三島は、8月原因不明頭痛発熱見舞われ一時帰宅し一家疎開していた豪徳寺親戚の家で予後過ごしていた最中8月15日終戦迎えた三島は、戦争熱狂していた国民が〈敬虔な祈願捨て〉て〈国家勝利〉ばかりを声高に叫び特攻隊若者比類絶する人間性発動〉の精神から目を逸らし、〈ジャアナリズムによつて様式化して安堵しその効能を疑ひ、恰かも将棋の駒を動かすやうに〉新戦術的に明朗謳歌〉し、〈戦術称して特攻隊から〈神の座称号を奪つた〉こと、〈冒瀆の語〉を放ったことなどを8月19日記した詳細三島由紀夫#特攻隊について参照)。 その後10月に妹・美津子腸チフス早世悲嘆に暮れる中、戦時中一度接吻交わした恋人三谷邦子(友人三谷信の妹)が他の男性婚約したことを11月頃に知り自身結婚への逡巡などを顧み三島複雑な思い捉われた(詳細三島由紀夫#終戦後の苦悶と焦燥参照)。 この時期、〈荒涼たる空白感〉を抱え、〈死骸の生活〉を送っていた三島は、主婦になった邦子と翌1946年昭和21年9月偶然に道で出くわし、その日ノート今後向けて文学的模索記した10年がかりで1,000分の自伝小説〉を書くこと構想した三島は、〈I. 自伝方法論――五十〉〈II. 幼年時代――三百〉〈III. 少年時代――三百〉〈IV. 青年時代――三百五十〉のために、まずは〈幼年時代資料整理着手〉する決心をした。 自身生い立ち地下鉄切符切りや粗野な落第生絵本見たジャンヌ・ダルクや〈殺される王子〉への偏愛など、自伝小説仮面の告白』に繋がる性的テーマを描く構想密かに考えていたと思われる三島は、そうした企図秘めながらも各誌短編発表し戦前書いていた「サーカス」の初稿見直し創作ノート推敲した。初稿では、団長の〈至大な愛〉が思い描いた少年と少女事故死実行されていなかったが、結末2人の死が据えられることになり、〈流竄王子〉が殺されるモチーフ改稿された。 三島東京帝国大学法学部卒業し大蔵省入ろうとしていた1947年昭和22年12月頃には、新し雑誌が〈星の数〉ほどあり、11月12日から14日にかけて執筆した決定稿の「サーカス」を発表した雑誌進路』もそういった商業的制約から自由〉な小さな雑誌群の一つであった三島はそれを〈純文学の手習ひ草紙〉と見たて商業主義〉への妥協要らない〈わがままな小品〉を掲載できた。 そのころは、高級な評論難解な小説満載した新し雑誌星の数ほどもあつた。それがみんな売れてゐたわけではなく雑誌次々と潰れ、又生れたが、高度の観念主義がどの雑誌をも支配してゐて、従つてその創作も、あらゆる点で商業的制約から自由だつた。いはゆる中間小説発生したのはずつとあとのことである。これを作家側からいふと、いたるところ純文学の手習ひ草紙があつたわけで、商業主義への妥協などは一切考へる要がなかつた。『サーカス』はさういふ間隙にあらはれたわがままな小品である。 — 三島由紀夫解説」 この決定稿では、初稿創作ノートにあった少年と少女汽車での逃走劇やキスシーンも無くなりサーカス火事場面なども無くなって構成的にも改稿されたものとなっている。なお、創作ノートでは、若い頃探偵の手下だった団長大興安嶺から横浜向けて船で帰る前日に、南米に行くという年老いたサーカス団長から、〈二代目団長になってくれと言われる場面がある。

※この「戦後の本稿(決定稿)」の解説は、「サーカス (小説)」の解説の一部です。
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