成人女性役への転身
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「エリザベス・テイラー」の記事における「成人女性役への転身」の解説
10歳代のころのテイラーは、映画出演に嫌気が差していた。ステージママとなった母親サラは、テイラーが即興で泣けるようになるまで容赦なく稽古を続けさせ、撮影中のテイラーを監視し続けては、発声やミスを指摘した。撮影所で同年代の人間と出会うことはほとんどなく、貧弱な教育しか受ける機会を与えられなかったため、テイラーは簡単な算数であっても指を使わないと計算できなかった。16歳のときにテイラーは、両親に普通の子供に戻りたいから女優をやめると告げたことがある。母親のサラはテイラーには感謝の心がないと諭し「貴方には責任があるのよ、エリザベス。私たち一家にだけではなく、この国、さらには全世界に対してのね」と言って聞かせている。 1948年10月にテイラーは『Conspirator』の撮影のために、客船クイーン・メリーでイギリスへ向かった。他の子役と違って、テイラーは成人女性役への転身に苦労することはなかった。『Conspirator』が公開される1949年以前に、雑誌『タイム』がテイラーのことを「非常に高価な宝石、サファイアのような本物のスター」と呼んで、モンゴメリー・クリフト、カーク・ダグラス、エヴァ・ガードナーらと並ぶ、次代のハリウッド・スターだと紹介している。成長してもテイラーは小柄で華奢な体格のままで、ウェストサイズは19インチしかなかった。 『Conspirator』の興行成績は悪かったが、当時38歳のロバート・テイラー演じる共産主義のスパイと、そのことを知らずに結婚してしまうという、メリンダ・グレイトン役を演じた。当時16歳だったテイラーが演じたこの21歳の女性の役は、テイラー初の成人女性役として評論家から高い評価を得た。新たに週給2,000ドルとなったテイラーが出演した映画が人気俳優ヴァン・ジョンソンと共演した『The Big Hangover』(1950年)だったが、この作品は興行成績も批評家からの評価もよくなかった。また、この映画では成長したテイラーの性的魅力を描写しようとしていたが、その面でも成功したとはいえない作品だった。 テイラーが成人女性を演じた映画で、最初に興行的にヒットしたのがコメディ映画の『花嫁の父』(1950年)である。テイラーはスペンサー・トレイシーが演じるスタンリー・T・バンクスの娘ケイ・バンクス役で、ほかにはジョーン・ベネットらが共演していた。『花嫁の父』の続編として製作されたコメディ映画『可愛い配当 (en:Father's Little Dividend)』(1951年)でテイラーは再びスペンサー・トレイシーと共演した。トレイシーはこの映画について「退屈、退屈極まりない」と評している。『可愛い配当』の興行成績は非常によく、二作続けてコメディ映画でヒットを飛ばしたテイラーだったが、次作の『陽のあたる場所』が、以降のテイラーの女優としてのキャリアを方向付けることとなる。 1949年の終わりにテイラーは、ジョージ・スティーヴンス監督作品『陽のあたる場所』の撮影に入った。この作品が公開されたのは1951年で、テイラーは資産家令嬢のアンジェラ・ヴィッカース役を演じた。共演したのはジョージ・イーストマン役のモンゴメリー・クリフトと、イーストマンの恋人で妊娠しながらも工場で働く貧しいアリス・トリップ役のシェリー・ウィンタースだった。『陽のあたる場所』はセオドア・ドライサーの小説『アメリカの悲劇』を原作としており、「アメリカン・ドリーム」への批判とその悪影響をテーマにしていた。 当時のテイラーはまだ17歳であり、『陽のあたる場所』にこめられた心理的な影響力やテーマ性を理解できてはいなかったが、この作品はテイラーの女優としてのキャリアに極めて重要なものとなった。伝記作家キティ・ケリーは、監督のスティーヴンスがテイラーのことを若く美しいスターだと認識しており、そのことによって「(クリフト演じる)ジョージ・イーストマンが、彼女(テイラー演じるアンジェラ・ヴィッカース)と陽のあたる場所を手に入れるためなら何でもすると思いつめた理由を、観客たちにはっきりと理解させる」効果があったとしている。ケリーは『陽のあたる場所』の撮影現場の見学を許された芸能コラムニストのヘッダ・ホッパーが「『緑園の天使』に出演していた少女が、カメラの前でモンゴメリー・クリフトを誘惑しているシーンを食い入るように見つめていた」と書いている。さらに、このシーンの撮影後にホッパーがテイラーのところへ行って「エリザベス、あんなふうに男を誘惑する手管をいったいいつ覚えたの」と尋ねていたとしている。批評家たちは『陽のあたる場所』を傑作と評価し、映画史に50年以上残る作品だとして高く称賛した。『ニューヨーク・タイムズ紙』のA・H・ワイラーは「裕福で美しいアンジェラを演じたエリザベスの演技は、彼女のキャリア中で最高だった」と書いた。また、『ボックスオフィス誌 (en:Boxoffice)』はその劇評で「ミス・テイラーはアカデミー賞に値する」と断言している。 1950年ごろから、テイラーは自身に振られる配役に対して徐々に不満を持つようになっていった。テイラーが望んでいたのは『裸足の伯爵夫人』でエヴァ・ガードナーが演じたマリア・バルガスや『明日泣く』でスーザン・ヘイワードが演じたリリアン・ロスのような役柄だった。しかしながらMGMは、テイラーがカメオ出演した『Callaway Went Thataway』(1951年)や、『Love Is Better Than Ever』(1952年)、『黒騎士』(1952年)、『en:The Girl Who Had Everything』のような、どちらかというと愚かしく、記憶に残らないような映画への出演しか認めなかった。 1954年に出演した『ラプソディ (en:Rhapsody)』も、テイラーにしてみれば飽き飽きするような恋愛映画で、不満が残る役どころだった。テイラーが演じたルイーズ・デュラン役は、ヴィットリオ・ガスマン演じる気難しいヴァイオリニストと、ジョン・エリクソン演じる真面目な若きピアニストの間で揺れ動く裕福で美しい娘という役どころだった。『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙』は「全編が美しさに満ちた作品で、ミス・テイラーはあらゆる角度から輝いている。……台詞は高尚で出演陣も優れた容姿ではあるが、いかんせん内容に乏しい」と評している。 『ラプソディ』、『巨象の道』と同じく1954年に公開された『騎士ブランメル (en:Beau Brummell)』で、テイラーは凝った衣装に身を包むレディ・パトリシアを演じた。しかしながらこの魅惑的な美女役は、スチュワート・グレンジャーが演じる主役ボー・ブランメルに恋愛風味を加えるだけの美しい添え物に過ぎなかった。『The Big Hangover』で共演したヴァン・ジョンソンと再びコンビを組んだ『雨の朝巴里に死す』(1954年)でテイラーが演じた役はそれまでの作品に比べるといくぶんましな役どころだった。テイラーが演じた役であるヘレン・エルスワース・ウィリスは、アメリカの小説家F・スコット・フィッツジェラルドの妻ゼルダ・セイヤーをモデルにしている。当時のテイラーは1952年に結婚したマイケル・ワイルディングの二人目の子供を妊娠していたが、この作品の撮影に4ヵ月間を費やした。『雨の朝巴里に死す』の興行成績は悪くなかったが、テイラーはより存在感がある役を切望していた。
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