情報・技術ドライブの戦略
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/03 16:00 UTC 版)
「経営戦略論」の記事における「情報・技術ドライブの戦略」の解説
1950年代には既に、ドラッカーは「肉体労働に従事する労働者は減少し、知的労働に従事する労働者が増加する」と予想していた。1984年には、John Nesbitt[要曖昧さ回避]が「未来は情報によって多くがドライブされる」と理論化した。情報を巧みに管理する企業は優位を得るが、情報へのアクセスを容易にする安価なコンピューターの登場によって、「情報フロート (information float) 」はほとんど消えるだろうと論じている。情報フロートとは、他の企業が欲するような、ある企業が保有する情報のことである。 ダニエル・ベル (1985)は、情報技術の社会学的な帰結を検討し、 Gloria SchuckとShoshana Zuboffは、心理学的要因を検討した。Zuboffは、5年間にわたる8つの先進的企業の調査を通じて、「自動化技術 (automating technologies) 」と「情報化技術 (infomating technologies) 」という、重要な区別を行った。彼女は、それぞれが労働者・管理者・組織構造に与える影響について調査した。彼女は、「柔軟な分権構造、ワークチーム、知識共有、知識労働者の重要な役割」などを指摘したドラッカーの予言は概ね正しいことを確認した。Zuboffはまた、地位や階層ではなく知識に基づく管理者の権威という概念も発見した(これもドラッカーによって予言されていたことである)。彼女はこれを「参加型経営 (participative management) 」と呼んだ。 1990年、アリー・デ・グースとロイヤル・ダッチ・シェルで協働していたPeter Sengeは、グースの学習する組織の概念を、拡張・普及させた。基礎となる理論は、企業が情報を収集・分析・利用する能力が、情報時代におけるビジネスの成功に必要であるということである。Sengeは、この能力を高めるためには、組織は以下の様に構造化される必要があると論じた。 人々が、学習能力を継続的に高めることができる 新たな思考パターンが育まれる 集団的野心が奨励されている 人々が全体像を見ることを奨励されている Sengeは、学習する組織の5つの規律を特定した。 個人の責任感、自立、支配 (mastery) ― 我々は、我々こそが運命の支配者であることを受け入れる。我々は自ら決断し、その決断の結果とともに活きる。問題が解決される必要があるときには、あるいは、何らかの機会を有効に生かす必要があるときには、我々は率先して必要なスキルを学習する。 メンタルモデル ― 我々は、我々の行動への微妙な働きを理解するために、我々個人のメンタルモデルを探索しなければならない。 共有されたビジョン ― 将来どうありたいかというビジョンは、全員で議論されコミュニケートされなければならない。それは将来への導きとエネルギーになるだろう。 チーム学習 ― 我々はチームとともに学習する。これは、自己主張から他者理解への精神の転換をともなう。 システム思考 ― 我々は、部分よりも全体を見る。他の4つの規律を融合させる働きをもつこの規律を、Sengeは「第五の規律」と呼んだ。 1990年頃から、多くの研究者が戦略における情報の重要性を指摘した(J.B. Quinn、J. Carlos Jarillo、D.L. Barton、Manuel Castells、J.P. Lieleskin,、Thomas Stewart、K.E. Sveiby,、Gilbert J. Probst、Shapiro and Varian)。 たとえばThomas A. Stewartは、知的資本 (intellectual capital) という概念を用いて、組織の知識への投資を表現した。知的資本は、ヒューマン・キャピタル(労働者の知識)、顧客資本(customer capital;財購入の意志決定を行う顧客の知識)、構造的資本(structural capital;組織それ自体に属する知識)の3つから構成される。 マニュエル・カステルは、グローバル化、ネットワークとしての組織構造、雇用の不安定性、情報格差に特徴づけられる、ネットワーク社会について論じた。 Geoffrey Moore (1991)とR. Frank and P. Cookは、競争の性質の変化を発見した。ハイテク産業では、標準の成立によって独占に近い状態をもたらされる。相互運用性の実現にユーザー間の互換性が必要とされるネットワーク化された産業(たとえば、ワードプロセッサの文書形式)でも、同じ現象が見られる。ある製品が市場を支配すれば、それより遙かに優れた製品であっても、打ち勝つことはできない。Mooreは、E.M. Rogersのイノベーションの普及モデルを利用して、企業がどうすれば支配的な地位を得られるかを示した。 EvansとWursterは、高度な情報コンポーネントを有する産業が、変化しつつあることを示した。彼らは、 エンカルタ(マイクロソフトが販売する電子百科事典)がブリタニカ百科事典を破滅するプロセスを引用した。エンカルタの登場により、ブリタニカ百科事典は売り上げを1990年のピーク時から80%も下落させている。そのエンカルタも、ウィキペディアのような限界費用の小さい協働編纂の百科事典により、2009年に生産打ち切りとなっている。Evansは、必死になって新たなビジネスモデルを捜し求めている音楽産業についても言及している。情報について精通している新興企業は、煩わしい物理的資産によって制約を受けず、競争の様相を変え、市場セグメントを再定義し、中間流通業者の排除をもたらしている。これらの動きの現れの一つが、個人マーケティングである。情報技術は、マーケティング担当者が顧客に個別対応することを可能にした。個人マーケティングが普及すれば、伝統的な市場セグメントの概念を時代遅れのものにするだろう。 技術部門は、例えばアジャイルソフトウェア開発などの、情報関連の戦略を直接的に生み出している。 情報システムへのアクセスは、上級管理者がかつてよりも包括的な戦略的視点を有することを可能にした。最も革新的なシステムの一つが、バランスト・スコアカードである。
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