性犯罪の定義の変遷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/31 02:18 UTC 版)
「スウェーデン漫画判決」の記事における「性犯罪の定義の変遷」の解説
1962年、「刑法」制定。第6章の標題は「道徳に対する犯罪(Sedligghetsbrott)」だった。「規律と道徳損害罪法(Lagen om sårande av tukt och sedlighet)」が存在し、性・宗教などについての表現を制限してきた。 1971年、「規律と道徳損害罪法」が廃止され、実害の無い、単に不道徳な表現を罰するべきだという法律の考え方がなくなった。 1984年、「刑法」改正。第6章の「道徳に対する犯罪(Sedligghetsbrott)」が「性犯罪(Sexualbrott)」に変更された。 1997年、「刑法」第6章第1条、第3条、第6条、第12条の改正が行われた。第1条では強姦の構成要件の拡大が行われ、強姦の成立に必要な条件として、姦淫に加えて「侵害の程度及びその他の事情から強制された姦淫と同程度の性的接触」が文言に追加された。第3条、第6条は用語を性的に中性化した。第12条は、第6章の犯罪の未遂等を処罰する際に、媒合の罪を知っていて、届出や暴露しなかった者の処罰を定めた。 1998年、「性的奉仕の購入を禁止する法律」が制定され、対価を払って一時的な性的結合を行うことを犯罪化したが、対価を受け取って性的奉仕を提供する者は処罰されないとした。売り手の社会的地位の低さに配慮されたと指摘されている。また「性交、姦淫(samlag)」はアナルセックスやオーラルセックスが姦淫類似の性的接触とされ、他人に向かって行うオナニーは姦淫類似に含まれないが、異物や拳を性器に挿入する行為も姦淫類似の行為とされた。 2002年、「刑法」第4条の「性的な目的で行われる人身取引」が改正された。児童の性的侵害に対する保護の増進と、性的統合性の強化、性における自己決定権の強化が図られた。1990年発効の「子どもの権利条約」と、2001年の「人身売買の廃絶と児童の性的搾取及び児童ポルノの廃絶とに向けた欧州共同体委員会」の内容の完全な実現を図ったとされる。 2005年、「刑法」第6章が全面改正された。具体的には以下のようなもの。 性犯罪の用語が「sexual umgange」から「性行為(Sexuall handling)」に変更された。「sexual umgange」では、人の性器が他人の身体の一部に接触することが必須で、動物との接触は含まれていなかったが、判例では着衣の状態での接触も含まれていた。「性交、姦淫(samlag)」以外の性的な意味合いを持つすべての身体的接触・表現を示す適切な用語として、「性行為(Sexuall handling)」で一括で表現した。 性犯罪を「性行為(Sexuall handling)」そのものとして見るのではなく、それを通して、被害者の人格、性的自己決定権、自由などをどこまで「侵害(krankning)」したかに刑罰価値の根拠が求められた。 第6章が以下の内容となった。 強姦:「強姦」は行為者が傷害、暴行、犯罪行為の威嚇をもって他人を強制的に姦淫し、またはその他の姦淫と同程度の性的行為を実行・忍耐させるもの。姦淫は異性間のみに限られ、同性間はその他の類似行為に含められる。夫婦間、婚約者間、同棲者間でも強姦が成立し、強姦の適用範囲が拡大した。 性的強制:強姦を構成しない無援助状態にある者の不適切な性的玩弄が分類される。強姦によって他人に性的行為を実行・忍耐させるもの。加害者、被害者の性別は無関係で、当事者間の関係も意味をもたない。自ら性的行為を行わない者も責任を問われる。 依存的地位にある者の性的玩弄:無力、その他無援助の状態、精神障害にかかっている者を不適切に玩弄することによって、他人との性的接触を行う者を処罰の対象とした。 児童強姦:改正で新設。「15歳未満の児童は性的行為に同意できない」という考えを基本とし、単に姦淫やそれと同等とされる行為に適用される。被害者の性別は無関係で、被害者がイニシアティブをとった場合も罪が成立する。15歳以上~18歳未満の場合は「一定の限界内で性的な自己決定権が認められる」という観点から、行為者と被害者との間に特定の依存関係が存在するときに罪が成立する。「特定の依存関係」とは、行為者の子孫、行為者の教育課にある者、公務所の決定によって行為者の保護と監督の下に置かれている者などがあるが、教師と生徒は含まない。 児童に対する強制猥褻:「児童の性的玩弄」「児童強姦」にも該当しない児童に対する性犯罪を規定するもの。具体的には、加害者が児童に自分の面前でオナニーをさせるような場合。 子孫との姦淫および兄弟姉妹との姦淫:「刑法」制定時の「子孫の肉体的凌辱」「兄弟姉妹への肉体的凌辱」と同じもの。 性的姿態表現への児童の利用:改正で新設。15歳未満の者が姿態表現への協力に同意することが無条件で禁止された。15歳以上~18歳未満の場合は、児童の健康と発達を害する場合に限定して禁止された。 児童の性的行為の購入:18歳未満の児童に例外なく適用される。売春以外の性的な行為の購入も該当し、支払者が第三者でも、児童の性的行為を享有した者は処罰の対象とされる。 猥褻行為:行為者にとって性的な意味が疑いなく認められることが必要条件で、水浴中に裸の子を抱き上げただけなら罪は成立しない。 性的奉仕の購入:ある人が対価を払って一時的な性的結合を他人と持つと罪が成立する。対価を誰が支払うかは無関係。売春だけでなく、対価を得てたまたま一回だけデイ的関係を持っても罪が成立する。 媒合:対価を得て行う一時的な性的行為を促進し、大規模に運営される活動にかかり、多額の利益をもたらすことが基準。 児童ポルノの処罰:「重児童ポルノ罪」の法量刑が4年から6年に引き上げられた。 訴訟法上の問題 この2005年の改正には、2003年のブルガリア事件が影響した。これは14歳の少女が男性2人に強姦された事件で、ブルガリアの裁判所が、加害者が暴力を用いず、被害者も抵抗せず性交に応じたことを理由に刑事責任が問われなかったことを、被害者がブルガリア政府を相手に欧州裁判所に提訴したもの。欧州裁判所は「欧州人権条約に基づく各国のポジティブな義務は、被害者が仮に物理的に抵抗しなかったとしても、その同意を得ずに実行された性的行為に刑罰を定め、起訴する義務を意味する」と認定した。 2018年5月、相互の同意なしに性的行為に及ぶことをレイプと規定する法案が賛成257票、反対38票の票差で可決され、同年7月1日に発効した。同意なしのセックスを犯罪行為と定めた欧州諸国としては10カ国目となる。明確な口頭もしくは身体的な表現でセックス行為に応じる意思表示が必要とし、無言は承認を意味するものとして受け止められないとした。同法の発効後、検察当局は有罪に持ち込むため暴力もしくは威嚇行為が介在していたことを立証する必要がなくなった。
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