必要な条件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 02:17 UTC 版)
ジェット燃料は以下の条件を備えることが求められる。 発熱量が大きい 単位重量当りの発熱量が大きいと、少ない離陸重量でも必要な距離の飛行が行なえる。単位体積当りの発熱量が大きいと、燃料タンクを拡大せずに航続距離が伸ばせる。ジェット燃料の発熱量は「真発熱量」 (Net heat of combustion) と呼ばれ、18,300 - 18,400 BTU/lb (10,170 - 10,220 kcal/kg) 以上と規定されている。 燃焼性が良い 燃焼性が良いとは、燃焼によって燃料の全てがガス化することが最良であり、燃焼後に炭素粒子である「すす」の発生量が少ないということを意味する。すすが燃焼室やタービンブレード、ノズル部分に付着堆積すると局部的に異常高温状態となることがあり、焼損による故障を招くことがある。 すすの元となる芳香族炭化水素の含有が少ない方が燃焼性が良いため、芳香族炭化水素は体積比での含有率が20 - 25 %以下に制限されている。間接的に芳香族炭化水素の含有割合を判定する方法として「煙点」、「輝度数」、「煙輝指数」などがある。 煙点では石油ランプの火芯からすす煙が出始める最短の立上げ長さで計測し、通常は19 - 25 mmとされる。 適度な揮発性がある 揮発性が低過ぎれば寒冷地での始動時や高高度で飛行中の再着火時に点火に困るが、揮発性が高過ぎれば低空飛行中に燃料配管内で気化ガスによって燃料供給が閉塞する「ベイパーロック」 (Vapor lock) が起きやすくなる。 揮発性の計測には「リード蒸気圧」 (Reid vapor pressure) が用いられワイドカット系では蒸気圧が3.0 psi以下に制限されている。 凍結しにくい 寒冷地での駐機中や高高度飛行中に燃料配管系が冷気に曝された場合に、燃料が凍結したり粘度が過剰に高まると燃料フィルターや配管系内部で詰まるなど、燃料供給が不安定となる。 凍結しにくさの尺度として「析出点」(Freezing point) が用いられる。析出点の測定は、燃料を一旦完全に凍結させてから暖めてゆき、炭化水素の氷結晶が完全に無くなる温度を測る。ジェット燃料の析出点は-40から-58 ℃以下である。 ケロシン系はワイドカット系に比べて析出点が高いので問題となりやすい。 腐食性がない 燃料中の水分、酸素、硫黄化合物が燃料供給系やエンジン内部を腐蝕や磨耗させる原因となる。特に硫黄は金属に対して強い腐蝕作用を起こすため、全硫黄分は重量比で0.3 - 0.4 %以下に、チオールは0.001 - 0.003 %以下に制限される。 引火点と発火点が適度に低い 「引火点」とは燃料を加熱してゆき、その蒸気に規定の大きさの火が引火する時の温度である。「発火点」とは自然自己発火点とも呼ばれ、火がない環境で燃料を加熱してゆき、その蒸気が自ら発火する時の温度である。両者は共に高い方が事故発生時などでは安全性が高いといえるが、過度に高すぎればエンジン内部での正常な燃焼に支障が出るため、これらは適度に低いことが求められる。 ワイドカット系は引火点が低いが発火点が高く、ケロシン系は引火点が高いが発火点が低い。 電気伝導度が高い 燃料が高速で燃料配管系内部を流れる時に配管内壁との摩擦によって静電気が生じる。電気伝導度が高ければこの蓄積は最小で済むが、蓄積が大きくなれば静電気の放電による火花が火災を誘発する危険が高まる。 電気伝導度を高める静電気防止剤を燃料中に添加することがある。 化学安定性が高い 燃料中にオレフィン炭化水素 (不飽和炭化水素) が多量に含まれると、これらが時間とともに変化してゆきガム状の塊が生じる事がある。石油精製過程で既に生じているガムは「実在ガム」、燃料貯蔵中に新たに生じるガムは「潜在ガム」と呼ばれ、燃料中のオレフィン炭化水素の割合は体積比で5 %以下に制限されている。 熱安定性が高い 燃料が何らかの理由で高温加熱されると内部に各種の分解生成物が生じる。一般にオレフィン属炭化水素が多いほど分解生成物が多く生じるため、これらの含有割合が制限される理由の1つとなっている。
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