和歌山県でのオオウナギの分布と保全対策
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「富田川のオオウナギ生息地」の記事における「和歌山県でのオオウナギの分布と保全対策」の解説
オオウナギ(大鰻)の生息地として、その流路のうち約18キロメートが国の天然記念物に指定されている富田川は、和歌山県と奈良県の県境に位置する果無山脈を水源とし、白浜町の富田(とんだ)地区で太平洋に注ぐ延長46.0キロメートルの二級河川で、同県の二級河川では唯一ダムの無い河川である。 オオウナギ生息地として最初に国の天然記念物に指定された三つ石、濁り、蟇(ひき)岩の3か所の淵にほど近い十九淵(つづらぶち)では、1930年(昭和5年)の渇水の際、毎日10数匹が水面に現れ見物人で賑わうなど、富田川はオオウナギが多数生息していたが、昭和30年代頃から始まった護岸工事や生活排水の流入、上流域での森林開発なども加わり、生息環境が大きく変わり始めた。 オオウナギは地元では「カニ食い」とも呼ばれるように、ベンケイガニやモクズガニなどの甲殻類を好んで食べ、アユやオイカワ等の川魚、ユスリカやカゲロウ等の水生昆虫、さらに淡水性の貝やカエルに至るまで様々な生物を餌としており、富田川水系生態系の頂点捕食者であるオオウナギが生息するためには、さまざまな生物にとっても棲みやすい環境が必要である。 国の天然記念物に指定された富田川の水域では、1985年(昭和60年)に見つかった体長1.3メートルのオオウナギ以降、1メートルを越す個体は確認されておらず、また文化財保護法によって指定域での捕獲は禁じられている。富田川を含む紀伊半島南部では普通のウナギ漁などで時折見つかり、死亡した大型のオオウナギを剥製や標本にしたり、また指定域以外で捕獲された個体が和歌山県立自然博物館に持ち込まれ飼育や研究の対象になっている。 前述した田辺高等学校や大塔公民館の剥製のような標本は複数存在しており、1922年(大正11年)11月に旧大塔村の向越(むかごし)の富田川で捕獲された全長145センチ、重量8.6キログラムの大型個体は剥製にされ、現田辺市立鮎川小学校に保存されている。また、1971年(昭和46年)1月には紀勢本線紀伊富田駅近くの富田川に架かる富田橋の上流で、瀕死の状態のオオウナギが浮いているのが発見され、同駅駅員によって捕らえられた。このオオウナギは体長151.2センチメートル、体重10.5キログラム、胴回り37.1センチメートルもあり、その後しばらくの間、紀伊富田駅改札口の横にホルマリン漬けにされ展示されていた。 和歌山県内を流れる複数の河川では、河口近くを中心にオオウナギの生息が確認されているが、2007年(平成19年)9月30日には河口から遠く離れた、田辺市本宮町渡瀬(わたぜ)の四村川(よむらがわ)で、鮎漁で仕掛けた簗に、全長136センチ、体重8.2キログラムの大型個体が掛かった。四村川は熊野川の支流のひとつで、捕獲された渡瀬地区は新宮市の熊野川河口から41.2キロメートル上流に位置し、かなり上流にも大型個体が生息していることが分かった。また、1メートルを越す大型個体は1986年(昭和61年)に那智勝浦町の太田川で捕獲された全長159センチメートルの個体以来21年ぶりであった。 このほかにも潮岬に近い紀伊半島最南端の串本町の側溝に棲む個体や、みなべ町の南部川や印南町の切目川などで生息が確認され、2014年(平成26年)2月12日には同県北部の海南市下津町を流れる小原川で、体長1メートル、重さ3.2キロの大型個体が捕獲されるなど、和歌山県内では散発的に生息が確認されているが、国の天然記念物に指定されている富田川での生息確認事例は減少している。 最初に天然記念物に指定された3か所の淵付近の富田川に紀勢自動車道の橋梁が架けられることになり、国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所により2009年(平成21年)1月から3月にかけ生息状況および生息環境の調査が実施された。調査は三つ石の淵のすぐ上流の富田川に架かる白鷺橋(国道42号庄川口交差点)から下流方向へ約1キロメートルの範囲で実施され、オオウナギの巣穴や、底生生物、付着藻類、底質が調査される過程で、通常のウナギ(ニホンウナギ)とは特徴が若干異なる1匹の個体が採集されたが、この個体は全長約9センチメートルと小さく判別が困難であったため、和歌山県立自然博物館に同定を依頼した結果、オオウナギの幼魚であることが判明し、わずかではあるが富田川でオオウナギが生育していることが確認された。紀南河川国道事務所では生息地の保全対策について、文化庁との協議や、専門家らを交えた環境保全対策の検討を重ね、指定地を渡河する区間の上富田インターチェンジから南紀白浜インターチェンジ間は2015年(平成27年)7月12日に供用が開始された。和歌山県が作成したレッドデータブックによれば、和歌山県内に生息するオオウナギは富田川の生息地に限らず準絶滅危惧種(NT) にカテゴライズされ、保護監視の対象とされている。
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