元本西遊記とは? わかりやすく解説

元本西遊記

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 15:55 UTC 版)

西遊記の成立史」の記事における「元本西遊記」の解説

13世紀後半モンゴル帝国元朝成立した頃には、これまでの西天取経エピソード群は、一つまとまった物語西遊記」として構成されることとなった完成した書物の形として現存はしていないものの、この時期成立した推測される西遊記物語を「元本西遊記」と呼ぶ。この「元本西遊記」は『西遊記』原型であり、作品規模こそ小さかったが、現行『西遊記』主要な登場人物は、すでにほぼ登場してたらしいまとまった話としては、戯曲系と小説系の物語存在してたようだが、いずれも散佚して現存しないため全体詳細不明である。しかし前者戯曲演劇系統は、明末選曲集『清音』に呉昌齢撰の「唐三蔵西天取経」劇として、一部収録されている。また後者小説系統は、高麗通訳官朝鮮半島将来したものが『通事諺解』および、李氏朝鮮期の『老集覧』という中国語会話書に、それぞれ一部引用されている。 呉昌齢の唐三蔵取経劇は、なぜか主人公三蔵法師法名玄奘ではなく「了縁」となっている。おそらく聖者としての玄奘の名を汚さないようにするために改名したものであろう。陳了縁の生い立ちについて、父親陳光蘂といい、赤児の頃に両親水賊襲われて江に流され金山寺平安長老拾われ育てられたという、いわゆる江流和尚伝説後述)が語られている点が注目される。 また『通事諺解』(1677年刊)は、崔世珍1473年 - 1542年)が改訂した通事』と『通事集覧(老集覧)』を合わせたもので、『通事下巻に車遅国のくだり(現行『西遊記』では第45回)についてかなり詳しく述べた注釈8本が載せられている。『通事』の成立年代至正7年1347年)よりやや後と推定されており、そこに記載され文章も元本西遊記の形跡残していると考えられる。この注釈から、元本西遊記の姿をある程度復元することが可能となっている。 前代までの物語から大きく変化しているのは、主人公三蔵法師から斉天大聖「孫吾空」(孫行者とも)に代わったことである。物語序盤にも、現行の『西遊記』同様に斉天大聖天界騒がすエピソード語られていたようである。その造形には、福建の白伝の系譜にある妖斉天大聖伝説や、密教大力金剛菩薩像などの影響うかがえる。また宋代登場した深沙神は、モンゴル時代色目人僧侶ラマ教チベット仏教)の護法神モデルにして第二弟子である「沙和尚」に変化した。さらに第三弟子として、密教系の摩利支天菩薩乗る車を引く豚をモデル生まれた精「八戒」が初登場している。これら新し弟子たちや、登場する妖怪たちは、元朝高官であるモンゴル人チベット人信仰する密教関連するもの多く、そのため宮廷権力者たちの人気集めた高麗から来た外交使者も、大都北京)を訪問した際に、中国語会話に役立つ実用みやげとして買っていったものが、上記の『通事諺解』などに残ったものである。 『通事諺解』の註釈には三蔵取経の途上で受ける12厄難羅列してある箇所がある。それによれば1.師陀国界猛虎毒蛇逢う、2.黒熊精、3.黄風怪、4.地湧夫人、5.蜘蛛精、6.獅子怪、7.多目怪、8.紅孩児怪、9.釣洞、10.火炎山、11.薄屎洞、12.女人国である。このほかに第88話として上述のように車遅国について語られるため、全部13災難となるが、これらの順序現行の『西遊記』とは大きく異なる。順番通り記載されていないか、あるいは『西遊記』成立の過程変化したかのどちらか思われる。なお取経の旅にかかった年月はわずか6年とされている。 このように通事諺解』から推測できる元本西遊記は、三蔵悟空悟浄八戒主要な面々がそろい、大鬧天宮から西天取経につながる筋を持つ、後の『西遊記』大きく変わらない内容盛り込まれていたようである。太田辰夫磯部彰らは、後述の『銷釈真空宝巻』や楊劇西遊記などの資料照合し、元本西遊記の復元試みている。字数にして30,000程度『封神演義』原型となった武王伐紂平話』と同程度規模だったと推測される

※この「元本西遊記」の解説は、「西遊記の成立史」の解説の一部です。
「元本西遊記」を含む「西遊記の成立史」の記事については、「西遊記の成立史」の概要を参照ください。

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