牛魔王・鉄扇公主・紅孩児
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「西遊記の成立史」の記事における「牛魔王・鉄扇公主・紅孩児」の解説
『西遊記』に登場する牛魔王は、強力な智力・法力で、諸妖の中でも卓越した人気を持つ。斉天大聖とは義兄弟であり、妻は鉄扇公主で、二人の間には紅孩児(聖嬰大王、のち観音に帰依して善財童子)と称した子供がいる。しかし『西遊記』の成立過程を見ると、牛魔王・鉄扇公主・紅孩児の家族は、それぞれ別々に西天取経物語へ加入したと見られ、また名前や親子関係などに混乱が見られる。 明代に成立した『脈望館鈔校本古今雑劇』に収める「二郎神醉射鎖魔鏡」という元雑劇には九首牛魔羅王が、二郎神や哪吒と戦う話がある。『捜神大全』の巻7「哪吒太子」条に、太子が退治した諸妖の中に「牛魔王」と記されるのはこれを指したものである。この牛魔王が西天取経物語に登場するのは『真空宝巻』に載せる元本西遊記からで、「羅刹女は鉄扇子にて甘露を降下し、流沙河に紅孩児・地勇夫人・牛魔王が現われ…」とある。 牛魔王の来歴の候補としては、チベット仏教に古くから仏教に敵対する妖牛の伝説があり、それが実在のランダルマ王(丑のダルマの意)と結びついた可能性がある。ランダルマは仏教弾圧政策を行って吐蕃王国を滅亡に導き、僧侶に暗殺された君主で、その後も跳舞(チャム)で僧侶がランダルマを倒す場面が繰り返し演じられたという。この「仏敵たる丑の王を倒す僧侶」の伝説がチベット仏教を通じて、元本西遊記に採り入れられ、「牛魔王を倒す三蔵一行」に変化した可能性もある。 鉄扇公主は別名を羅刹女といい、火焔山の炎を消すことが出来る芭蕉扇を持つとされる。『朴通事』には火炎山の名が見えるが、鉄扇公主や羅刹女、芭蕉扇の名はない。楊劇第5本では鉄扇公主は、千斤もある鉄扇子を使うとされる。『真空宝巻』では羅刹女は鉄扇子を持つものの、紅孩児・牛魔王とは切り離されて別の土地にいる。一方紅孩児は『朴通事』では第8厄として名が現れ、楊劇第5本では鬼子母の子の愛奴児の別名とされるなど混乱している(鬼子母は『詩話』第9章に見えるが、紅孩児や愛奴児の名はない)。『真空宝巻』では紅孩児は地湧夫人と並べられている。これらから太田辰夫は、元本西遊記の段階では紅孩児は地湧夫人の子であったと推測する。地湧夫人は現行『西遊記』では別名を姹女といい、正体は金鼻白毛老鼠の精で、李天王に命を助けられて以来父と仰いで拝した。紅孩児とは関係がなくなっている。
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