ベルニナ線とは? わかりやすく解説

ベルニナ線

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/28 03:50 UTC 版)

ベルニナ線
ビアンコ湖とベルニナ・エクスプレス
基本情報
起点 サンモリッツ (スイス)
終点 ティラーノ (イタリア)
開業 1908年(部分開業)
1910年(全線開通)
1913年(通年運転開始)
所有者 レーティッシュ鉄道
運営者 レーティッシュ鉄道
路線諸元
路線距離 60.688 km
軌間 1,000 mm
線路数 単線
電化方式 直流1000V 架空電車線方式
最大勾配 72パーミル
最小曲線半径 45 m
路線図
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ベルニナ線(ベルニナせん、Berninalinie英語: Bernina Line)は、スイスグラウビュンデン州を中心に384 kmの路線網を保有するレーティッシュ鉄道の区間の一部。エンガディン地方サンモリッツと、イタリアソンドリオ県にあるティラーノ間の高低差1824 mを、約2時間で結ぶ。

概要

ベルニナ鉄道本線として、1910年に全線開業した。最大勾配72パーミルの路線でありながら、ラック式鉄道ではなく、全線とも通常のレールのみを用いた粘着式鉄道である。最高地点はオスピツィオ・ベルニナ駅[1]の2,253m。

美しいカラマツの森や滝、4000m級のベルニナ山群の名峰、雄大な氷河、山上湖など、アルプスの景観が車窓から広がる。ドナウ川ポー川分水界となっている山上湖ラーゴ・ビアンコや、ブルージオ付近にあるループ橋ポスキアーヴォ谷英語版の中心地、ポスキアーヴォなど、沿線には数多くの見どころが凝縮されている。 通常の列車に加え、スイスを代表する人気の絶景列車、ベルニナ・エクスプレスもこの区間を走る。サンモリッツ - ティラーノ間に加え、クール - ティラーノ間、ダヴォス - ティラーノ間を結ぶベルニナ・エクスプレスも運行している。

アルプスの自然景観を壊すことなく切り開いた鉄道技術と沿線の美しい景観は、アルブラ線とともに「レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観」として、2008年に世界遺産に登録された。

歴史

1905年に創業したベルニナ鉄道株式会社は1906年に営業免許を取得。1908年7月1日、ポントレジーナ - モルテラッチ 間および ポスキアーヴォ - ティラーノ間が部分開業した。

これを皮切りに延伸していき、1910年7月5日に全線開業した。当初はポスキアーヴォ以南をのぞき夏季のみの営業であったが、1913-14年の冬季から全線の通年営業を開始した。

しかしながら経営難に陥った同社は1943年1月1日にレーティッシュ鉄道に吸収され、以降はベルニナ線として存続することとなった。

各区間の開業日
区間 距離
km
開業日 備考
サンモリッツ ツェレリーナ・スタッツ 2.0 1909年 7月01日 夏季運行
ツェレリーナ・スタッツ ポントレジーナ 3.8 1908年 8月18日
ポントレジーナ モルテラッチ 6.4 1908年 7月01日
モルテラッチ ベルニナ・ハウザー[注釈 1] 3.6 1908年 8月18日
ベルニナ・ハウザー ベルニナ・ホスピッツ[注釈 2] 6.6 1909年 7月01日
ベルニナ・ホスピッツ ポスキアーヴォ 21.3 1910年 7月05日
ポスキアーヴォ ティラーノ 17.0 1908年 7月01日 通年運行

沿線概況

ベルニナ鉄道が開業させたサンモリッツからベルニナの谷を登り、アルプ・グリュム駅でエンガディン地方を抜けてイタリア語圏に入り、ポスキアーヴォの谷イタリア語版をイタリアのティラーノまで下る。終点のティラーノではイタリア鉄道(FS)と接続する。最高高度2253mは粘着式鉄道としてはヨーロッパ最高高度であり、高度差1824mを最急勾配72パーミル、最急曲線半径45mで越える山岳路線で、ポントレジーナ駅以降の標高が約1800mを超える区間は森林限界を超える。

途中の車窓からは3箇所の氷河が見られる。モルテラッチュ駅付近ではこの線の名前の由来ともなっているベルニナ・アルプスの主峰ピッツ・ベルニナ(標高4049 m )とモルテラッチュ氷河を、オスピツィオ・ベルニナ駅付近ではカンブレナ氷河とその氷河湖で発電用のダム湖でもあるラーゴ・ビアンコ、対になるレイ・ネイル[2]を、アルプ・グリュム駅付近ではパリュ氷河を車窓から見ることができる。

アルプ・グリュム駅からポスキアーヴォ駅にかけては10箇所のヘアピンカーブと連続勾配によって直線距離で約6km程度の間に約1070mと大きく高度を下げている。

ブルージオ駅とカンパッチオ駅間には半径50-70m、勾配72パーミルで360度を回るループ区間、そしてその中心となる石造のブルージオ橋があり沿線の名所のひとつとなっている。

カンポコローニョ駅付近には引込線があり、ここで材木が積み込まれた貨車は定期旅客列車に併結され、いわゆる混合列車としてティラーノに向かう。

カンポコローニョ駅とティラーノ駅の間でスイスとイタリアの国境を越える。ちなみに2008年以降、基本的に出入国審査自体は不要となっていたが、2022年現在においてはCovid-19蔓延対策として防疫が行われている[3]。同時に、イタリア国境手前のカンポコローニョ駅でベルニナ急行を臨時停車させて乗降可能とする特別対応も実施されている[4]。Covid-19流行の影響で国境が閉鎖されていた頃は、旅客列車はカンポコローニョ駅で折り返し、貨物および混合列車にあっては特例で貨物営業に限りティラーノ駅まで乗り入れていた。[5]

ポスキアーヴォ駅付近とイタリア国内に入った後のティラーノ市内の一部区間は併用軌道となる。

駅一覧

ティラーノ駅以外はすべてスイス領内。距離はサンモリッツ駅基準であるが、線形改良による距離の増減は反映されていないため実測の距離とは異なる[注釈 3]

日本語表記 公式表記 距離
km[6]
地区
(レギオン)
自治体
(カントン)
備考
サンモリッツ駅 St. Moritz 00.0 マローヤ サンモリッツ アルブラ線接続
ツェレリーナ・スタッツ[注釈 4] Celerina Staz 02.0 ツェレリーナ ツェレリーナ駅とは異なる
プント・ムライユ・スタッツ[注釈 4] Punt Muragl Staz 03.5 プント・ムライユ駅とは異なる
ムオタス・ムライユ行ケーブルカー接続
ポントレジーナ駅 Pontresina 05.8 ポントレジーナ 連絡線に接続
スロバス駅 Surovas 07.3
モルテラッチ駅[7] Morteratsch 12.2 付近の車窓から見える同名の氷河が有名
ベルニーナ・スオート駅 Bernina Suot[注釈 5] 15.7 旧名 ベルニナ・ハウザー
ベルニーナ・ディアヴォレッツァ駅[7] Bernina Diavolezza 16.8 ディアヴォレッツァ行ロープウェイ接続
ベルニーナ・ラガルプ駅 Bernina Lagalb 17.9 ピーツラガルプ英語版行ロープウェイ接続
オスピツィオ・ベルニナ駅[1] Ospizio_Bernina[注釈 6] 22.3 ベルニナ ポスキアーヴォ 旧名 ベルニナ・ホスピッツ、標高最高地点
アルプ・グリュム駅[1] Alp Grüm 27.1 パリュ氷河英語版最寄り駅
カヴァグリア駅 Cavaglia 33.1
カデラ駅 Cadera 38.2
プリヴィラスコ停車場 Privilasco 42.0 2017年廃止
ポスキアーヴォ駅 Poschiavo 43.6
リ・クート駅 Li Curt 45.3
レ・プレーゼ駅 Le_Prese 48.0
ミララーゴ駅 Miralago 50.8
ブルージオ駅英語版 [7] Brusio 53.9 ブルージオ英語版
カンパッチオ駅 Campascio 56.2
カンポコローニョ駅 Campocologno 57.6
スイス / イタリア国境 58.1 これより ロンバルディア州イタリア
ティラーノ駅 Tirano 60.7 ソンドリオ県ティラーノ RFI ティラーノ駅接続

関連項目

注釈

  1. ^ 現・ベルニーナ・スオート駅
  2. ^ 現・オスピツィオ・ベルニナ駅
  3. ^ 日本の鉄道における営業キロのような扱いで、公称の営業距離は開業時のものが引き続き使用されている。しかし実際の運用では支障が出るため、増減のあった地点の沿線に距離補正値を記した標識を掲示し、誤差を吸収している。
  4. ^ a b スタッツ(Staz)はロマンシュ語で駅を意味する。
  5. ^ 以前の公式表記はドイツ語のBerninahäuser。現在の表記になった時期・理由は不明。Suot はロマンシュ語で麓の意味。
  6. ^ 以前の公式表記はドイツ語のBerninahospiz。現在のイタリア語表記になった時期・理由は不明。 なお、ロマンシュ語にてOspizioは休息所、hospiz はホスピスを意味する。

脚注

  1. ^ a b c ラーゴ・ビアンコ(ビアンコ湖)”. スイス政府観光局. 2022年1月27日閲覧。
  2. ^ それぞれ白い湖、黒い湖の意味
  3. ^ Italian nationals returning to Italy and foreigners in Italy”. イタリア外務省. 2022年1月30日閲覧。[リンク切れ]
  4. ^ Information Coronavirus” (英語). レーティッシュ鉄道. 2022年1月30日閲覧。[リンク切れ]
  5. ^ ★ 4K 🇨🇭St. Moritz - 🇮🇹Tirano, early Spring cab ride (Bernina Pass, Switzerland) [04.2020]”. lorirocks777 (2021年2月27日). 2024年4月20日閲覧。木材貨物輸送のため、特例でティラーノ駅まで乗入れが許可された列車の前面展望。
  6. ^ Eisenbahnatlas Schweiz. Cologne: Schweers + Wall. (2012). pp. 38, 51, 81. ISBN 978-3-89494-130-7 
  7. ^ a b c ベルニナ・エクスプレス”. スイス政府観光局. 2022年1月27日閲覧。
  8. ^ いいちこの発売元・三和酒類の公式サイト上にあるCM Theaterで当時放映されたCMが閲覧可能となっている。

出典

外部リンク


ベルニナ線

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 10:12 UTC 版)

レーティッシュ鉄道」の記事における「ベルニナ線」の解説

詳細は「ベルニナ線」を参照 路線長:60.7km 開通年:サンモリッツ - チェレリーナ(2.0km):1909年7月1日夏季運行) チェレリーナ - ポントレジーナ(3.8km):1908年8月18日夏季運行ポントレジーナ - モルテラッチュ(6.4km):1908年7月1日夏季運行) モルテラッチュ - ベルニナ・ハウザー(3.6km):1908年8月18日夏季運行) ベルニナ・ハウザー - ベルニナ・ホスピッツ(6.6km):1909年7月1日夏季運行) ベルニナ・ホスピッツ - ポスキアーヴォ(21.3km):1910年7月5日夏季運行ポスキアーヴォ - ティラーノ(17.0km):1908年7月1日通年運行全線通年運行開始:1913-14年冬 レーティッシュ鉄道合併1943年1月1日 電気方式直流750V(1935年まで) 直流1000V(1935年以降) 最急勾配70パーミル 最小曲線半径:45m 標高:429.3-2253.2m 隧道11箇所 橋梁11箇所 ベルニナ鉄道開業させたサンモリッツからベルニナの谷を登り、アルプ・グリュム駅でエンガディン地方抜けてイタリア語圏入りポスキアーヴォの谷をイタリアティラーノまで下る路線で、ベルニナ急行運行区間一つであり、終点ティラーノではトレニタリア接続する。最高高度2253mは通常の鉄道路線としてはヨーロッパ高高度であり、高度差1824mを最急勾配70パーミル、最急曲線半径45mで越え山岳路線で、ポントレジーナ駅以降標高が約1800mを超える区間森林限界超え途中車窓からは3箇所氷河見られる。 モルテラッチュ駅付近ではこの線の名前の由来ともなっているベルニナ・アルプスの主峰標高4049mのピッツ・ベルニナとモルテラッチュ氷河を、オスピッツオ・ベルニナ駅付近ではカンブレナ氷河とその氷河湖発電用ダム湖でもあるラーゴ・ビアンコ対になるレイ・ネイルを、アルプ・グリュム駅付近ではパリュー氷河車窓から見ることができる。 アルプ・グリュム駅からポスキアーヴォ駅にかけては10箇所ヘアピンカーブ連続勾配によって直線距離で約6km程度の間に約1070mと大きく高度を下げている。 ブルージオ駅とカンパッチオ駅間には半径50-70m、勾配70パーミル360度を回る石造ブルージオ橋があり沿線名所のひとつとなっている。 カンポコローニョ駅付近には引込線があり、ここで材木積み込まれ貨車定期旅客列車併結され、いわゆる混合列車としてティラーノに向かう。 カンポコローニョ駅とティラーノ駅英語版)駅間でスイスイタリア国境越えるが、シェンゲン協定に基き、イミグレーション実施されない税関検査申告必要な場合のみ、ティラーノ駅行われるポスキアーヴォ駅付近イタリア国内入った後のティラーノ市内では併用軌道となる。 箱根登山鉄道登山鉄道線は海外視察者からの情報や、建設当時の同鉄道技師長がベルニナ線を視察調査した結果などを基に建設されており、このことが縁で1979年レーティッシュ鉄道箱根登山鉄道姉妹鉄道となっている。ベルニナ線の主要3駅には箱根登山鉄道から寄贈され駅名板設置されているほか、ABe4/4 54号機が「Hakone」と命名されている。2014年にはベルニナ線100周年記念デビューしたレーティッシュ鉄道新型車両愛称ならって箱根登山鉄道新型車両が「アレグラ号」と命名された。 ベルニナ峠を下るベルニナ急行 森林限界上を行く列車 冬のオスピッツォ・ベルニナ付近ベルニナ急行 冬のオスピッツォ・ベルニナ付近混合列車 ラーゴ・ビアンコ付近 モルテラッチュ氷河 アルプ・グリュム駅とパリュー氷河 アルプ・グリュム駅とヘアピンカーブ アルプ・グリュム付近左側スノーシェッド覆われつづら折り線路がベルニナ線 ポスキアーヴォ湖 ポスキアーヴォ駅(英語版) ブルージオ駅(英語版)とその周辺 ブルージオ橋 ブルージオ橋俯瞰 カンポコローニョ駅(英語版ティラーノ市内併用軌道 ティラーノシンボルであるマドンナ・ディ・ティラーノ巡礼教会ドイツ語版駅前広場から見たティラーノ駅英語版

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