シダレザクラ緊急調査事業と結果概要
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 14:41 UTC 版)
「角館のシダレザクラ」の記事における「シダレザクラ緊急調査事業と結果概要」の解説
先述したように観光客の急激な増加にともない、角館をとりまく様々な環境が変化していく中で、シダレザクラの生育環境も大きく変わっていった。具体的には、武家屋敷通りの路盤強度確保のための道路の嵩上げや、同時に行われたシダレザクラの根回りの盛土、また側溝の改良や下水道整備等による根回り周辺の掘削などにより、一部のシダレザクラの樹勢が衰弱し始めた。このことに危機感を持った角館町は、大学の教員、サクラの専門家、地元の代表者などから構成されるメンバーによって調査及び対策の検討が行われた。 天然記念物指定時には153本であった指定樹のシダレザクラは、この調査の段階で6本減って147本になっており、そのうちの1本は1981年(昭和56年)の台風により倒伏したことが記録に残っていたが、その他の5本に関しては何らかの理由により枯死、あるいは伐採されていた。残存する147本の指定樹について、個々の詳細な生育状況や土壌の調査が実施されることとなり、大学教員や樹木医、関係機関の専門家らで構成される「保存管理計画策定委員会」が組織され、その調査をもとに衰退状況を数値化し5段階で区分したものが次の表である。なお、この調査では檜木内川堤のソメイヨシノについても同様の調査が行われ、参考としてその衰退度調査結果も比較して示す。 角館のシダレザクラおよび檜木内川堤ソメイヨシノ衰退度調査/1999年度から2000年度調査 衰退度区分角館のシダレザクラ檜木内川堤のソメイヨシノ 評 価本数比率本数比率衰退度1 0本 0% 29本 7.0% 健全(殆どが若木) 衰退度2 80本 54.4% 154本 37.7% 衰退は見られるが概ね健全 衰退度3 57本 38.8% 209本 51.1% 衰弱は中程度で治療を要する 衰退度4 10本 6.8% 17本 4.2% 明らかに異常が見られ治療を要する 衰退度5 0本 0% 0本 0% 枯死又は生育の見込みの少ないもの 計147本100%409本100% .mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}} 1728年(享保13年)に作成された『仙北郡角館絵図』。武家屋敷は青緑色。社寺は白色、町人住区はピンク色に色分けされている。秋田藩を通じて幕府へ報告するために作成されたという。 角館武家屋敷通り周辺の空中写真。2018年(平成30年)6月19日撮影。享保年間と町割(道路形状)がほとんど変わっていないことと、武家屋敷通り各戸の植生が豊かな様子が分かる。国土交通省 国土地理院 地図・空中写真閲覧サービスの空中写真を基に作成。 このような結果となり、檜木内川堤のソメイヨシノと比較として、若い樹齢の木が無いため衰弱度区分1は無く半分以上が区分2であった。一般的にソメイヨシノと比べて長寿であるエドヒガン系のシダレザクラの状態は好結果であり、実施調査でも腐朽した部位を持つ個体は極めて少なかった。その一方で衰弱度4とされた10本は、モミやイチョウ、マツなどの高木が近接する個体であるため日当たりが良くなく、高木によって太陽光が遮られており、植物学用語で「被陰(ひいん)または被圧」と呼ばれる状態によって衰弱したと考えられた。 しかし、これら樹高の高い木々はシダレザクラとともに角館の美観を構成する一角を担う景観樹でもあり、重伝建に選定されて以降、これらの庭木も保護樹木として保全の対象とされてきたため慎重に扱う必要がある。また、土壌に関する環境も樹木毎に異なり、被陰にかかわる影響と根回りの土壌を樹木毎個別に考察するため、指定樹147本のシダレザクラは1本ずつナンバリングされ、さらに詳細な生育環境調査が行われた。 角館のシダレザクラ衰退度毎の生育状況詳細/区分ごとの平均値 衰退度区分/5段階1(健全)-5(衰退)個体数樹高単位メートル胸高直径単位センチメートル樹冠面積単位平方メートル被陰度/5段階1(明)- 5(暗)花の量/3段階1(少)-3(多)シダレ度/5段階1(小)-5(大)衰退度1 -- -- -- -- -- -- -- 衰退度2 80本 12.0 60.3 53.1 1.5 1.7 3.1 衰退度3 57本 11.0 56.4 50.1 1.9 1.1 2.5 衰退度4 10本 8.8 64.2 20.3 2.3 0.9 2.1 衰退度5 -- -- -- -- -- -- -- 角館のシダレザクラ被陰度と生育状況詳細/区分ごとの平均値 被陰度区分/5段階1(明)-5(暗)個体数樹高単位メートル胸高直径単位センチメートル樹冠面積単位平方メートル衰退度/5段階1(健全)- 5(衰退)花の量/3段階1(少)-3(多)シダレ度/5段階1(小)-5(大)被陰度1 64本 10.5 62.9 73.6 2.4 1.7 3.0 被陰度2 33本 11.7 56.2 69.4 2.4 1.3 2.8 被陰度3 24本 11.6 57.8 73.2 2.7 1.3 2.7 被陰度4 9本 12.7 50.7 57.9 2.7 1.0 2.8 被陰度5 17本 13.4 56.3 75.8 2.9 1.0 2.3 これらの調査結果をまとめると、指定樹147本の平均樹高は11.4メートル、平均胸高直径は59.0センチメートルであったが、その数値には個体差が大きくあり、樹高は5.1メートルから19メートルまで、胸高直径は28センチメートルから117センチメートルと一様ではなく、国指定の申請時に行われた1973年(昭和48年)の平均値と比較すると、直径は平均約9センチメートル増加しているのに対し、樹高は平均で約0.9メートル低くなっており、かつて樹高が高かった個体ほど樹高が低下していることが判明した。これは枯損した樹幹の最上部分が切断された個体が多かったことを示しており、詳細に調査した被陰との関連性から、著しく被陰の影響を受けている個体ほど衰退度が高く、同時に「枝垂れ」や「花の量」も少ないことが明らかにされた。 枝張りについては、主幹から四方へ張り出した平均値は4.7メートル、平均面積は80.9平方メートルであり、主幹の太い樹木ほど枝張りが広いという一般的な樹木の特徴は当てはまらず、むしろ樹木個体固有の生育環境に大きく左右されることが分かった。やはり被陰による影響が大きいと考えられ、遮蔽物の少ない道路側に面した指定樹ほど大きくなる傾向がある。黒板塀を乗り越えて道路側へ張り出して枝垂れるシダレザクラ特有の生態や樹形が、角館のシダレザクラの場合、美観等の景観面だけでなく、シダレザクラ自体の生育面にとってもプラス要因になっており、道路側に面した個体は「枝垂れ」や「花の量」も概ね良好であった。 一方、外観だけだは分かり難い地中の根については、全ての樹木に対して根回り周辺を掘削して確認するわけにもいかないため、7か所を選定し試掘を行い土壌を調査した。国の天然記念物に指定されたエリア内の武家屋敷通り一帯は、全体的に人間生活の影響を受けた土壌が多く、特に表層土壌は盛土など人為的な改変が行われてきた歴史があるため、角館では特定の場所を定めて土壌の特徴を定義づけることは困難であった。ただ、全般的には砂質を主体とする共通点が認められ、水はけのよい透水性を備えた土壌でサクラの生育環境としては問題ないものと推察された。
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