カナダアーム2
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カナダアーム2(英: Canadarm 2)は、国際宇宙ステーション (ISS) に搭載されているロボットシステムである。実際にはカナダアーム2はモービルサービスシステム (MSS) のひとつの構成要素である。
カナダアーム2は、ISSの周囲で多目的実験モジュールやトラスを組み立てたり、実験装置、曝露交換機器の交換や移動を行ったり、宇宙飛行士が宇宙空間で船外活動 (EVA) するのを支援したり、子アームであるSPDM「デクスター」(後述)の移動や作業を支援するなど、ISSの組立と整備において重要な役割を持っている。特別な訓練を受けた宇宙飛行士が、カナダアーム2の様々なシステムを操作してこれらの作業を行う。
MSS
MSSは、腕にあたる宇宙ステーションリモートマニピュレーターシステム(英: Space Station Remote Manipulator System, SSRMS)と呼ばれる部分と、モービルベースシステム(英: Mobile Remote Servicer Base System, MBS)、そしてデクスターとも呼ばれる部分(英: Special Purpose Dexterous Manipulator, SPDM)で構成される。MSSは統合トラス構造の上のレールを、MBSを載せたアメリカが開発したモービルトランスポーター(英: Mobile Transporter, MT)で移動することができる。
MSSは、カナダ宇宙庁がISS計画に参加するために、MDAスペースミッション社(以前はMDロボティクス、SPARエアロスペースと呼ばれていた)により設計製造された。
カナダアーム2

カナダアーム2は2001年4月にSTS-100で打ち上げられた。スペースシャトル用ロボットアームカナダアームの次世代型で、より大型で、より進歩している。カナダアーム2の重量は1,800kg、直径は35cmあり、7つの電動関節を全て伸ばすと全長は17.6mになる。アームは最大で116,000kgの大型ペイロードを動かしたり、スペースシャトルとのドッキングを補助することができる。正式には「宇宙ステーション用ロボットアーム(英: Space Station Remote Manipulator System, SSRMS)と呼ばれており、ちょうど尺取り虫のように、ISSの端から端までの多くの部分へ、自分で移動することができる。この移動先は、ISSの各所に設置される電力データグラップルフィクスチャ(英: Power Data Grapple Fixture, PDGF)に限られる。PDGFは、アーム両端のエンドエフェクタ(英: Latching End Effector, LEE)を通じて電力、信号、映像を送受できる。アームは、MT/MBSを利用してISSのトラス(レールが引かれている場所のみであり、先端までは行くことはできない)に沿って移動することもできる。
アームを操作するクルーは、ロボットアーム操作盤(英: Robotic Work Station, RWS)の3台(さらに補助のラップトップディスプレイも多数利用)の液晶ディスプレイを使って自分の作業状況を見る。RWSは2台あり、キューポラとデスティニーに各1台が置かれている。キューポラ到着まではRWSは2台ともデスティニーに置かれていた[2]。RWSには回転ハンドコントローラーと移動ハンドコントローラーという2組のジョイスティック、表示操作盤、ノートパソコンが備えられている。
モービルベースシステム

モービルベースシステム (MBS) は2002年6月のSTS-111で、モービルトランスポーター (MT) は2002年4月のSTS-110でISSに追加された。これらはISSのトラス上のレールを滑るように移動する。カナダアーム2がMBSに接続すると、トラス上を作業場所まで移動することができる。MTの最高速度は秒速1インチである[3]。
MBSの本来の名称は「MRSベースシステム」で、ここでMRSとはモバイルリモートサービサー(英: Mobile Remote Servicer)のことである。
デクスター
特殊目的ロボットアーム(英: Special Purpose Dexterous Manipulator, SPDM)は「デクスター」とも呼ばれ、小さな2本の腕と交換用の複数の工具、TVカメラ、照明などを持っており、従来は宇宙飛行士が宇宙遊泳で行っていた交換修理作業の一部を肩代わりすることができる。デクスターは、STS-123でISSに運ばれ、軌道上で組み立てられた。2011年に、曝露機器の移動作業と故障した電気部品の交換修理作業に使われ、初めて実用的に使用されるようになった。デクスターの操作は、ISS滞在クルーの作業負荷を減らすために、通常は地上から行われている。
ISSのその他のロボットアーム
ISSには、ロシアセグメント専用のロボットアームとなる欧州ロボットアームの設置が予定されているほか、きぼうには船外実験プラットホームなどでの作業のために、独自のロボットアームが設置されている。
脚注
- ^ (1)初期状態、エンドエフィクタAを基点に動作している(2)離れた場所にあるPDGFをエンドエフィクタBで保持し、電力・制御回路を切り替える(3)エンドエフィクタAを解放し、以降はエンドエフィクタBを基点に動作する
- ^ キューポラからはロボットアームを直接目視しながら作業することが出来るが、デスティニーからのようにビデオ映像と関節角のデータを基にしたCG表示のみでも操作可能
- ^ “The Slowest and Fastest Train in the Universe”. NASA. 2008年5月31日閲覧。
関連項目
- シャトル・リモート・マニピュレータ・システム(SRMS、カナダアーム) - かつてスペースシャトルで使われていたロボットアーム
- ストレラ - ISSで稼働中のクレーン
- 欧州ロボットアーム (ERA) - ISSで稼働中のロボットアーム
外部リンク
カナダアーム2
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「モバイルサービスシステム」の記事における「カナダアーム2」の解説
正式には宇宙ステーションリモートマニピュレーターシステム(SSRMS)として知られている。2001年4月にSTS-100で使用されたこの第2世代のアームは、スペースシャトルの元のカナダアームのより大きく、より高度なバージョンである。 カナダアーム2は、完全に伸ばされたときに、17.6メートル (58 ft)で、7つの電動ジョイント(中央に「肘」ヒンジ、「手首/肩」の両端に3つの回転ジョイント)がある。質量は1,800キログラム (4,000 lb)および35センチメートル (14 in)で、チタン製である。116,000キログラム (256,000 lb)大きなペイロードを処理でき、スペースシャトルのドッキングを支援することもできた。それは自己再配置可能であり、 シャクガのような動きで宇宙ステーションの多くの部分に到達するために逆さまに動くことができます。この動きでは、ステーション上の電力データグラップルフィクスチャ(英語: Power Data Grapple Fixtures(PDGF))の数によってのみ制限されます。ステーション周辺に配置されたPDGFは、2つのラッチングエンドエフェクタ(英語: Latching End Effectors(LEE))のいずれかを介して、電力、データ、およびビデオをアームに提供します。アームは、モバイルベースシステムを使用して、宇宙ステーションのトラスの全長を移動することもできる。 アームは、ステーション内を移動するだけでなく、グラップルフィクスチャ(英語版)を使用して任意のオブジェクトを移動できる。ステーションの建設では、アームを使用して大きなセグメントを所定の位置に移動した。また、スペースXドラゴン 、 シグナス宇宙船、およびカナダアーム2が宇宙船の捕獲と停泊に使用する標準のグラップルフィクスチャを備えた日本のH-IIトランスファービークル(HTV)などのパイロットされていない船の捕獲にも使用できる。アームは、使用後に宇宙船を離陸および解放するためにも使用される。 機内のオペレーターは、3つのロボットワークステーション(RWS)LCD画面を見て、自分の操作方法を確認できる。MSSには2つのRWSユニットがあります。1つはデスティニーモジュールにあり、もう一つはキューポラにある。一度に1つのRWSのみがMSSを制御する。RWSには、2セットの制御ジョイスティックがある。1つは回転ハンドコントローラー(RHC)、もう1つは並進ハンドコントローラー(THC)。これに加えて、ディスプレイおよびコントロールパネル(DCP)とポータブルコンピューターシステム(PCS)ラップトップがある。 近年、ロボット操作の大部分は、クリストファーC.クラフトジュニアミッションコントロールセンター(英語版)の地上のフライトコントローラー、またはカナダ宇宙庁からリモートでコマンドされている。オペレーターは、遅いペースではあるが、機内の乗務員オペレーターが行う場合よりも柔軟に目的を達成するためにシフトで作業することができる。 宇宙飛行士のオペレーターは、訪問車両の捕獲やロボット工学がサポートする船外活動などのタイムクリティカルな操作に使用される。2021年5月12日より少し前に、カナダアーム2は、サーマルブランケットとブームの1つに損傷を与える小さなスペースデブリに見舞われた。その動作は影響を受けていないように見えた。 カナダアーム2は、アクシアムオービタルセグメント(英語版)モジュールをISSに停泊させるのにも役立ち、2020年代後半にISSが廃止された後も、アクシアムスペースステーションでの運用を継続する。
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