倒立振子とは? わかりやすく解説

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とうりつ‐ふりこ〔タウリツ‐〕【倒立振(り)子】

読み方:とうりつふりこ

の上部におもりをつけ、下部支点として支えた振り子下部倒れないようにばねで支える。地震計利用


倒立振子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/27 07:50 UTC 版)

単純なロボティクス系、台車駆動型倒立振子。1976年。

倒立振子(とうりつしんし : inverted pendulum)とは、支点よりも重心が高い位置にある振り子をいう。写真に示すように、支点を台車に載せて実装する、台車駆動型倒立振子がよく知られている[1]。ほとんどの応用例において振り子はある回転軸まわりにのみ運動するよう固定されており、自由度は1に制限されている。振り子は吊り下げられた状態が安定であり、したがって倒立振子は本質的に不安定であるため倒立状態を保つためには常に能動的に制御する必要がある。このためには支軸に直接トルクを加えたり、支点を水平方向もしくは鉛直方向に移動させることにより振り子の錘の回転速度を変化させることにより総トルクを変化させたりしてフィードバック系を構築する。支点を動かす型の倒立振子の一番簡単な例は、箒を手の上に立たせる系である。倒立振子は動力学制御論における古典的な問題であり、制御戦略の試験用ベンチマークとして用いられる。また、パーソナルモビリティ分野において二輪倒立振子(例: セグウェイ)や自立安定一輪車(例: ホンダ・U3-X)などの形式で応用されつつある。

別の種類の倒立振子として、高層建築に用いられる傾斜計が挙げられる。建築物の基部にワイヤの一端を固定し、他端につけた浮きを建築物の最上部に油で浮かべ、浮きの平衡位置の変化を測定することで傾斜を検出する[2][3]

概要

倒立振子は動力学および制御論における古典的な問題であり、制御アルゴリズム(PID制御状態空間表示ニューラルネットワークファジィ制御遺伝的アルゴリズムなど)の試験用ベンチマークとして広く用いられている。この問題はリンクの追加や台車への移動指令、台車をシーソーの上に載せるなどの様々な拡張が可能である。また、ロケットやミサイルは空気抵抗の力の中心が重心よりも前側にあるため空気力学的に不安定であり、その誘導制御問題と倒立振子問題は関連している[4]。このような問題を理解するため、単純なロボット台車の上に載せた倒立振子が用いられることが多い。手の上に箒を立てる遊びや、自律平衡型の輸送機械であるセグウェイなどもこの問題の解である。

フィードバックに頼らず倒立振子を安定化する別の方法として、支点を上下に高速に振動させる方法がある。このような装置をカピッツァの振り子英語版と呼ぶ。支点を(加速度と振幅の意味で)十分に強く振動させることにより、直感には強く反するが倒立振子に加えられた擾乱から回復することが可能となる。支点が単振動する場合は、振り子の動きはマシュー方程式により記述することができる。

運動方程式

倒立振子の運動方程式は、倒立振子に課せられる拘束によって変化する。倒立振子の構成には様々なものがありうるため、それらを記述する運動方程式も数多く存在する。

支点固定型

振り子の支点が空間的に固定されている場合、運動方程式は非倒立振子英語版のものと同一となる。次に示す方程式は運動に抗する摩擦力がなく、棒は質量のない剛体と見做すことができ、平面内に運動が制限されているという仮定をおいた場合の運動方程式である。

台車上の倒立振子を表わす模式図。棒は質量を持たないものとする。台車の質量と棒の端点の質量はそれぞれ M および m とする。棒の長さは とする。

台車駆動型倒立振子は図のように、質量 m の質点を長さ の棒の先に付け、逆側を水平に動ける台につけた構成である。台車は線形運動英語版しかしないものとし、運動を起こさせたり妨げたりするような力がはたらくものとする。

安定化の要点

倒立振子を安定化するための要点は定性的に三つのステップにまとめることができる。

  1. もし傾き角 θ が右向きならば台車は右に加速する必要があり、逆もまたなりたつ。
  2. 軌条中心からの相対台車位置 x を安定させるには、ヌル角度(制御系がゼロにしようとする角度誤差)を位置で変調すればよい。具体的にはヌル角度を θ + kx とする。ただし、k は小さくとる。これにより、台車が軌条中心から外れているなら棒は中心に向けてわずかに傾こうとするので、台車は中心向きに加速する。軌条中心では棒が鉛直に立つことで安定となる。傾きセンサのオフセットや軌条の傾きなどの不安定要素は安定位置のオフセットとして表われる。さらにオフセットを追加すると位置制御ができる。
  3. クレーンで荷を運ぶときのように、運動する支点に吊り下げられた非倒立振子の応答には振り子の角振動数 ωp = g/ にピークがある。制御不能な振動を防ぐため、ωp に近い支点運動の周波数スペクトルを抑制する必要がある。倒立振子でも、安定化のために同じようなフィルタが必要となる。

ヌル角度変調戦略の結果として、位置フィードバックは正のフィードバックとなり、突然右に動くよう指令すると台車はまず左へ動いてから右へ傾いた振り子を再び平衡にするため右へと移動する。倒立振子の不安定性と、正の位置フィードバックによる不安定性との相互作用により系は安定となっており、これを数学的に解析することは興味深く奥の深い問題となっている。

ワイングラスを載せた台車の単純な安定化制御系

ラグランジュ方程式

ラグランジュ方程式から運動方程式を導出することもできる。前掲の図のように、θ(t) を長さ の振り子の直立位置からの変位角とし、作用する力は重力および x 方向への外力 F とする。 x(t) を台車の位置と定義すると、系のラグランジアン L = TV は以下のように書ける。

振動する台に載せられた倒立振子のプロット。左のプロットは遅い振動に対する振り子の応答を、二つ目のプロットは速い振動に対する応答を示す。

倒立振子の種類

倒立振子を安定させることは広く取り組まれている工学的課題である[5]。台車駆動型倒立振子にも、棒を載せただけのものから振り子が複数の節に分かれているものまで様々な変種がある。その他にも、倒立振子の棒もしくは節分けされた棒を回転部品の端にとりつける種類のものがある。台車型と回転型のいずれの場合でも、倒立振子は平面内でしか運動しない。平衡位置にある倒立振子を維持するのが課題である場合もあれば、自律的に平衡位置を達成することが求められる場合もある。また、二輪倒立振子という別のプラットフォームもある。二輪倒立振子では一点での回転が可能であり、格段に高い操作性を実現できる[6]。その他にも、一点上での平衡をとるものもある。コマ一輪車、ボール上の倒立振子はすべて一点上で平衡をとる。上で説明したように、鉛直に振動する台によっても倒立振子を安定化することができる。

倒立振子の例

倒立振子には人造のものも自然のものも含めて様々な例がある。

最も身近な倒立振子はヒトであるといわれる。直立した体を持つヒトは、常に平衡を保つための調整を行なっていなければ立つことも歩くことも走ることもできない。

単純な例として、箒や定規を手の上で直立させる遊びが挙げられる。

倒立振子は様々な装置に組込まれており、また特異的な工学的問題として研究されている[6]。倒立振子は本質的に不安定なので擾乱に対して計測可能な応答を示すため、初期の地震計の設計における中心的要素として採用されていた[7]

倒立振子模型はいくつかのパーソナルモビリティにも採用されている。二輪車椅子やその他の二輪モーター車両により高い移動性を確保することができる。

関連項目

出典

  1. ^ C.A. Hamilton Union College Senior Project 1966
  2. ^ Inverted & Hanging Pendulum Systems”. Soil Instruments. 2016年11月19日閲覧。
  3. ^ 浮き式傾斜計の鋼管傾斜計測への適用について」(PDF)『土木学会第58回年次学術講演会』議事録、2003年9月。
  4. ^ http://exploration.grc.nasa.gov/education/rocket/rktstab.html
  5. ^ http://robotics.ee.uwa.edu.au/theses/2003-Balance-Ooi.pdf
  6. ^ a b http://csuchico-dspace.calstate.edu/bitstream/handle/10211.4/145/4%2022%2009%20Jose%20Miranda.pdf?sequence=1 Resource not found. [リンク切れ]
  7. ^ http://earthquake.usgs.gov/learn/topics/seismology/history/part12.php Not Found0. [リンク切れ]

関連文献

外部リンク




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