農作業ロボット
別名:農業用ロボット、農作業用ロボット
人間の代わりに農作業を自動で行ったり、人間が行う農作業を補助したりする機能を持つ農業用機械の総称。
GPSによる測位を利用して、農業用機械の操舵補助や自動操舵を行う「GPSガイダンス」システムを備えたトラクターやコンバインなどは、農作業ロボットの代表例とされている。その他、果樹園において自律的に成熟果実を探索して収穫作業を行う摘果ロボットや、農薬散布を自動で行う無人ヘリコプターおよび無人航空機、農作業の負担を減らすアシストスーツなども農作業ロボットに含まれる。
農作業ロボットの導入により、農作業の省力化・効率化が実現するともに、作業過程で得られたデータを集積してデータベース化することにより、さらなる作業精度の向上が可能になるといわれている。また、従来熟練した技術が必要とされていた農作業が容易になることで、若年層の農業への参加が促進されることも期待されている。
農業用ロボット
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/11 05:33 UTC 版)




農業用ロボット(のうぎょうようロボット、英: Agricultural robot(英語版) )は、農業[注釈 1]に従事するロボットのことを指す。
概要
1970年代に自動車工場などの製造現場では産業用ロボットが普及し、農業分野においては農業用ロボットの概念は存在したものの、田植機や自脱型コンバインは農業機械であり、ロボットと呼べるものではなかった。天候の影響を受ける屋外で多種多様な作物を扱う農業用ロボットは技術的ハードルが高く、実用化の目処が立たなかった。その後、1980年代に入り、マイクロコンピュータの性能がムーアの法則に則り指数関数的に向上することで画像処理能力の向上が進み実現への道筋が見え始めたが[1]、1990年代以降、遠隔操作式の無線操縦ヘリコプターの導入は進んだものの、自律型のロボットの導入は遅々として進んでいなかった。
近年では深層学習によるパターンの識別などで性能が向上して作物の病気の判別や収穫時期に適した果実の収穫や高精度衛星測位や無人航空機との連携などで徐々に実用化されつつある[2][3][4]。
以前は植物工場のように厳格に環境が管理された屋内での使用に限定されていたが、近年では屋外の露地栽培への適用も進みつつある[5]。
農業は介護と並び、自動化の普及の余地のある分野の一つであり、少子高齢化により、農業への従事者が減りつつある中、人材不足を補うための切り札としても期待される[6][7]。
市場規模
ウィンターグリーン・リサーチ社は2020年までに農業ロボットの市場の規模が163億ドルに達すると予想した[8][9]。実際には2022年時点で81億8403万ドル[10]、2023年時点で134億5000万ドルであった[11]。2030年の市場規模予想は、データブリッジマーケットリサーチ社が835億6383万ドル[10]、360iリサーチ社が434億ドルとしている[11]。
日本国内の市場規模は、スフェリカルインサイト社の市場評価で2億4289万ドルであり、同社は2032年までに9億8873万ドルに達すると予想している[12]。
代表的な農業用ロボット
- 耕耘ロボット
- 防除ロボット
- 収穫ロボット - カメラやセンサーにより農作物の大きさや色を判別して収穫時期を判断し、熟れている農作物を自動的に収穫する。人間より速く収穫できる、昼夜問わず収穫ができるなどの利点がある。自走式、吊り下げ式、ドローン式がある[13]。
- 栽培見回りロボット[17]
- 自律移動台車ロボット[17]
- 選果ロボット、パック詰めロボット[20]
- 農業用ドローン[22] - 農薬・肥料散布やリモートセンシングに使用。
- (中国)DJI Agriculture社(en:DJI)のAgras T30。
- XAG Japan社のXAGシリーズ。
- (株)マゼックスの飛助 シリーズ[23][24]。
- アシストスーツ - 農作業の身体的負担を軽減するウェアラブルロボット。
- Innophys(イノフィス)社のMuscle Suit Every。
- Cyberdyne(サイバーダイン)社のHAL-LBシリーズ[25]。
- 自動抑草ロボット - AIを活用し、雑草を特定・除去。
- 水田用自動抑草ロボット
- 畜産用ロボット
- 酪農用ロボット
代表的な農業用ロボットの企業
- アイナックシステム - 2008年5月創業。いちご自動収穫ロボット「ロボつみ」を開発[31][32]。
- AGRIST(アグリスト) - 2019年創業。100年先も続く持続可能な農業を目指し、テクノロジーで農業課題を解決する農業DXベンチャー[33]。
- アグロボット(スペイン) - いちごを収穫するロボットを開発[34]。
- Inaho(イナホ) - 2017年設立。自動野菜収穫ロボットのサービスを展開。農家の高齢化や担い手・人手不足解消に向けた「スマート農業」を提案しており、国内初の自動野菜収穫ロボットに、農作業に従事する事業者の注目を集める[35]。
- ウォリー(フランス) - 自走してワイン用のぶどうを収穫と同時に剪定もするロボットを開発[34]。
- Saga Robotics(サガ・ロボティックス)(ノルウェー) - 2016年創業。ノルウェーと英国に拠点を構え、低価格・高品質な農業用自律型紫外線照射ロボット「Thorvald(トルヴァル、トラヴァル)」を開発する農業テクノロジー企業。農家にハードウェアを販売するのではなく、Thorvaldを活用した「サービスとしてのロボット」を提供する(RaaSについては後述)。カビ防止剤や殺虫剤の使用を抑制し、生産性の向上にも寄与する[36][37][38]。
- ジェイブリッジ・ロボティクス(米国) - 自律走行車システムの開発[34]。
- スマートロボティクス - 2004年設立。自動運転配送ロボットや農業用収穫ロボットの開発の他、ロボット技術導入コンサルティングなどを手がける[39]。
- Small Robot Company(スモールロボットカンパニー)(英国) - 2017年設立。農作物の栽培を小型ロボットによって自動化することを目指す[26]。
- ハーヴェスト・オートメーション(米国) - 農場や温室内での鉢植えを運搬して設定した通りに並べるロボットを開発[34]。
- フューチャアグリ - 2013年4月1日設立。「栽培見回りロボット」や「自律移動台車ロボット」を開発[40]。
- ブルー・リバー・テクノロジーズ(米国) - コンピュータ・ビジョン技術を使用して生育し始めたレタスのかたち、間隔を認識して間引くロボットを開発[34]。
RaaSの導入
RaaS(Robot as a ServiceまたはRobotics as a Service)は、製造したロボットを販売するのではなく、サービスとして提供するビジネスモデルで、農業分野でも導入が進む[41]。特に高額なロボット機器の導入をためらう農家にとって、テクノロジーアクセスの民主化を促進する重要なトレンドである。
- 定義: RaaSは、ロボット、制御システム、リモートモニタリング、アップデートの提供を含むサブスクリプションサービス。初期費用を抑え、月額料金で利用可能(例: プラスオートメーションでは月25万円から提供[42])。
- 利点: 初期投資の削減: 従来のロボット購入では数百万円~数千万円が必要だったが、RaaSではゼロ初期費用も可能。
- 運用コストの管理: 月額固定料金または使用量ベースの料金で、予算管理が容易。
- 柔軟性: ピークシーズンやオフシーズンに応じてロボットの台数を調整可能。
- メンテナンス保証: システム管理によるサポートで、農家が自前で管理する必要なし。
- 農業分野での適用: AGRIST(アグリスト)のピーマン収穫ロボット「L」では、初期費用150万円に加え、収穫量の10%を月額料金として徴収するモデルが採用されている[16]。これは小規模農家にとって導入のハードルを下げ、RaaSの普及を促進している。
- 市場動向: グローバルではRaaS市場は2023年に1,800億ドル(約25兆3,100億円)、2028年には4,000億ドル(約56兆2,600億円)に成長が見込まれ、年平均成長率(CAGR)は17.4%[43]。農業分野でも同様の成長が期待される。
脚注
注釈
出典
- ^ 伊藤信孝、「海外における農業用ロボットの開発動向」 『農業機械学会誌』 1985年 47巻 2号 p.242-246, doi:10.11357/jsam1937.47.242
- ^ “農業の未来変える切り札ロボット、頭脳は5000円の「ラズパイ」だった!”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “フェルディナント・ヤマグチ氏、自動車評論家から農家に転身? クボタの農業IoT化の最前線に迫る。- 日経テクノロジーオンライン Special”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “農機のロボット化で日本の農業問題を解決したい”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “作物の危険を農家よりも早く察知するイスラエルの農業用ロボットシステム「Prospera」が話題に”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “農業ロボット元年、農業界と工業界が抱える本当の課題”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “「工業」の知見をどこまで引き込めるか”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “農業ロボット市場は、2020年までに163億ドル規模に”. Robonews.net. 2024年10月21日閲覧。
- ^ Frank Tobe (2014年1月30日). “Agricultural robot market anticipated to reach 16.3billion by 2020”. The Robot Report. WTWH Media LLC.. 2024年10月21日閲覧。
- ^ a b “世界の農業ロボット市場 – 2030 年までの業界動向と予測”. DataBridge. 2024年10月21日閲覧。
- ^ a b “農業用ロボット市場:タイプ別、用途別-2024-2030年の世界予測”. グローバルインフォメーション. 2024年10月21日閲覧。
- ^ “日本農業ロボット市場”. Spherical Insights. 2024年10月21日閲覧。
- ^ “収穫ロボットとは?収穫ロボットの種類やできることについて解説”. 先端農業マガジン (2020年8月21日). 2025年5月13日閲覧。
- ^ “デンソー、自動車技術を“食”に。日本最大級の「トマト工場」”. Impress Watch (2022年7月13日). 2025年5月13日閲覧。
- ^ “inahoのアスパラガス自動収穫ロボットの仕組みとは?──inaho株式会社(前編)”. SMART AGRI (2019年2月20日). 2025年5月13日閲覧。
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- ^ “低価格・高品質な農業用自律型モジュール式ロボットThorvaldを開発するSaga Robotics社について解説”. 先端農業マガジン (2021年1月18日). 2025年6月1日閲覧。
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- ^ “NEWS RELEASE|F-LINEの食品 TC に「RaaS 2.0」を活用”. プラスオートメーション株式会社 (2025 年 4 月 23 日). 2025年5月20日閲覧。
- ^ “ロボットのサービス化「RaaS」を徹底図解、人員50%削減? 大変革する5業界の最新動向”. ビジネス+IT(SBクリエイティブ) (2023年6月12日). 2025年5月20日閲覧。
参考資料
- 唐橋需、「農業用ロボットへの期待」 『農業機械学会誌』 1995年 57巻 6号 p.145-150, doi:10.11357/jsam1937.57.6_145
- 飯田訓久、「農業用ロボットのための油圧マニピュレータとハンドの研究」 京都大学 博士論文 論農博第2122号 1997年, hdl:2433/78083
- 有馬誠一, 湯木正一, 山下淳, 加藤岳史、「イチゴ栽培におけるマルチオペレーションロボット : 収穫・防除ロボットの開発(農業用ロボット・メカトロニクス)」 『ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集』 2004巻 セッションID:2P2-L2-14, p.205-206, doi:10.1299/jsmermd.2004.205_4
- 「農業用ロボットの実用化に向けての先行研究」(PDF)。
- 菅野重樹, 三治信一朗. "農業ロボットの研究事例と普及への課題 (特集 農業用ロボットの現状と今後の展開)." ロボット 201 (2011): 1-7.
- 農業用ロボットの実用化に向けての先行研究
- 農業用ロボットについての世界の最新状況
- 「次世代農業ロボットの開発を目指して」(PDF)『近畿大学次世代基盤技術研究所報告』第1巻、2010年、51−56頁。
- 近藤直、門田充司、野口伸『農業ロボット I: 基礎と理論』コロナ社。 ISBN 4339052159。
- 『農業ロボット II: 機構と事例』コロナ社、2006年6月。 ISBN 4339052167。
- 『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活』講談社。 ISBN 9784062729796。
- 「農業用ロボット」(PDF)『ロボット』第177号、2007年7月。
- 「農業用ロボットの現状と今後の展開」(PDF)『ロボット』第201号、2011年7月。
- 「農作業の自動化、ロボット化」(PDF)『ロボット』第224号、2015年5月。
- (PDF)『ROBOCON Magazine』、オーム社、2016年11月。
- 『農業ビジネスマガジン “強い農業”を実現するための情報誌』第12巻、イカロス出版、2016WINTER、 ISBN 9784802201230。
- 『農業ビジネスマガジン “強い農業”を実現するための情報誌』第16巻、イカロス出版、2017WINTER、 ISBN 9784802202909。
関連項目
外部リンク
- 農業用ロボットのページへのリンク