刈払機とは? わかりやすく解説

刈払機

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/20 07:25 UTC 版)

両手ハンドル式刈払機
刈払機、神奈川県にて

刈払機(かりはらいき、苅払機)とは、草や小径木を刈払うための機械のこと。草刈機(くさかりき)またはブッシュとも呼ばれることがあるが、この場合は草刈りに力点を置いているので、刈払機とは全く同義ではない。草刈り専用機では、山林の下草刈りを行うほどの能力がない。

構造は原動機シャフト、回転からなり、操作者は、シャフトに固定されたハンドルを操作して刈払いを行う。引用写真の右手部分の黒いレバーがスロットルになっており、これを調節することでエンジンの回転数(刃の回転数)を調節する。エンジン式では、ドライブシャフトとの間に遠心式のクラッチがあり、始動・アイドル時などの歯の無用な回転を防ぎ、草噛みなどによる歯の停止にも備えている。

誰でも使用出来るが、操作に当たっては刈払機取扱作業者資格を有することが望ましい。なお、林業造園業など日本で業務として刈払機を用いる場合には、安全衛生教育を受講していない場合、労働安全衛生法違反となる。

動力

家庭の小作業には電動機水田の畦や道路脇などの草刈りには小型エンジンを動力とした刈払機が用いられる。エンジン式の場合、重量を軽減し、始動性を確保するため、長らく2ストロークエンジンが用いられてきたが、近年では環境保護の観点から、発生する排気ガス中の有害物質がより少ない4ストロークエンジンのもの(特にホンダマキタ新ダイワ工業)も増加している。また静音性から、ニカド蓄電池リチウムイオン二次電池を電源とした電動草刈機も発売されているが[注 1]、刈払能力と連続作業時間は制限される。

また、エンジン式には、リチウムイオン電池を用いたセルフスターターを搭載するものも存在する(ハスクバーナ・ゼノアのエンジン刈払機の一部)。

構造による区分

刈払機の外見的構造から見た区分:

  • 背負式刈払機 - 背中部分にエンジンを背負う。
  • 両手ハンドル式刈払機 - 写真のようなハンドルが付いた機種。平地での雑草刈り。
  • 片手ハンドル式刈払機 - コンパクトな小さめのハンドルが付いた機種。傾斜地・山地などでの雑草刈り。

背負い式以外では、着脱式のハンドルを交換する事で、作業姿勢や操作感を変えることができる。

回転鋸(刃)

ナイロン紐製の芝刈り用から、1cmを超える灌木用の超硬度合金を埋め込んだ回転歯まで、用途や対象別に多岐にわたる。 主な種類としては、以下の回転歯がある。

  • ナイロンカッター - 主として芝草用。英語では"string trimmer"。回転盤に太めのナイロンが複数取り付けられており、高速回転によって、を鋭く叩きつけるのと同じ原理で紐に切断力を与え、草を「叩き」刈る。紐は先端部から徐々に磨耗して行くので、中心部にスプリング付きのリールを内蔵し、リールカバーを地面に接触させることで消耗分のナイロン紐を繰り出す機能もある。金属刃に比べ、対象物が固いもの(太さや硬さのある草や細い樹木、若竹やフェンスなど)に当たると摩耗が早くなったり、ちぎれたりすることもあるが、軽量かつ高速で草を粉砕するため、(刈った雑草を回収しない方法もあるので)効率が良い。柔らかいナイロンを使用するため、人体や樹木に接触したときの安全性も高い。一方で、チップソー使用時よりはるかに高速回転で作業するため、跳ね上げた小石等により住宅や自動車のガラスを破壊したり、人体(特に眼球)に当たるリスクはチップソーより高い。また、エンジン式であれば26cc以上の排気量を有する刈払機が推奨される。これは低速域で使用し続けると作業効率の低下だけでなく、遠心式クラッチの滑りが多発し、高温になったクラッチが周囲の部品を融解させてしまうことがあるからである(冷却装置のプラスチック部分に焦げ跡がついている場合は、この現象が発生したことを示している)。さらに、長期使用による部品の摩耗が原因で重傷事故が起こった例もあり、一定の注意は必要である。1971年にアメリカ・テキサス州ヒューストン在住のジョージ・バラス(George Ballas 1925-2011)が考案したもので、刃物を用いる方式よりも扱いやすく、短期間で広く普及した。なお、ナイロンコード自体も細かくなって周囲の環境に拡散するため、雨などで河川から海洋に流れ出た場合、プラスチックによる海洋汚染問題も危惧される。
  • 4枚刃・8枚刃 - 草刈り用。金属製。一定時間ごとに磨り減った刃を、やすりやディスクサンダーで研ぐ必要がある。
  • チップソー - 草刈り・山林の下刈り・小枝の切断。先端部に合金チップ(バナジウム鋼)が埋め込まれている。一般的な磨き刃に比べて、先端部の刃先が非常に硬いため、摩耗した場合には細かいダイヤモンド粒子が埋め込まれたやすりで研ぐ必要がある。
  • 丸のこ刃 - 草刈り・山林の下刈り・小枝に加え、歯数が多いため、潅木(低木)の切断にも適する。一定時間ごとに磨り減った刃を、やすりで研ぐ必要がある。

取り扱い上の注意点

刈払機で草刈をする男性

回転刃が非常に高速で回転するため、刈払い作業には細心の注意を要する。農業機械による負傷事故のうち、刈払機による作業中の事故が、比較的多く発生している。また、刈払機を使う農家の9割が、事故につながりかねないヒヤリ・ハットを体験しているという調査結果が報告されている[1]

安全のためには、(回転刃が作業者から見て左回転の場合)左へ振るときに草を刈り、右へ戻すときには刈らないようにする必要がある。これは、高速回転している刃の右側が固い草や木の茎に接触し、回転力により刃が押し戻されて、作業者に接触する事故(キックバック)を避けるためである。(ナイロンコード使用時は通常、キックバックは発生しない)

作業の際は、本来であれば刃の手元側に、シャフトを介して防護カバーを装着し作業をする事が法律で義務付けられているが、刈った雑草類がシャフトとカバーの間に挟まって、取り除く手間が増え作業効率が落ちる事を厭うあまり、実際にはこの防護カバーを外したままで刈払い作業を行なう者が後を絶たず、事故の発生要因のひとつとなっている。[要出典]

実際の使用の際は、肩紐で本体を吊った状態で作業を行なうのが鉄則である。前述のキックバック事故を抑制するには、肩から吊っただけでは不足で、最低でも肩と腰の2本のベルトで身体に固定する必要がある。また、刃に跳ね上げられた砂利が眼に当たると失明する危険もあり、前述の保護カバーを正しく装着したうえで、飛来物用のゴーグルフェイスシールドを使用しなければならない。さらに排気ガスの吸引を防止するため、マスクを使用する。また、刃に接触して弾き出される石などの飛来物による二次被害が予想される場合は、もう一人の作業員が飛来防止カバーで防護するなどの対策が必要である。

さらに、長時間作業の場合は特に、防振手袋、耳栓も使用すべきである。

改造・目的外使用

2022年までに、草刈機を簡易な船外機に改造した製品がインターネット上で販売されるようになった。この改造は、船外機に必要な耐水性や耐食性等など機能を備えていないため事故を招く可能性もあり、海上保安庁が注意喚起を行っている[2]

メーカー

ロボット草刈機

草刈機では自律走行式のものも登場している。これには例えば以下がある:

抑草ロボット

抑草ロボットは、雑草が生える前に防ぐロボットで、国内では2012年にアイガモロボの開発が始まった。2019年に有機米デザイン株式会社が設立され(2024年4月1日「(株)NEWGREEN」へ社名変更[7])、3年間の実証実験を経て、2023年1月に井関農機株式会社から販売が開始された[8]

海外では、(米国)Ground Control Robotics社のムカデ型ロボットがジョージア州で試験中、(英国)Small Robot Company社の「Dick」は2021年発売予定で、電流で雑草を枯死させる。

製品と種類

抑草ロボットには、水田向けのアイガモロボ(GPS自動航行)、複雑な地形向けのムカデ型ロボット、電流で雑草を処理する「Dick」などがある。

  • 自動抑草ロボット「グラプレス」(フィールド開発製)
太陽光発電関連を幅広く手がけるロボットベンチャーであるフィールド開発(宇都宮市)が開発し、2019年春の販売開始を予定。従来の方法ではさまざまなリスクがあったが、雑草に強い圧力をかけ続けることで雑草の伸びを抑えようという新しい手法が特徴[9]
  • Dick((英国)Small Robot Company(スモールロボットカンパニー)製)
農業用小型ロボットの研究開発に取り組む英国の『スモール・ロボット・カンパニー』は、電流を活用した除草技術を有するルート・ウェーブ社と提携し、世界で初めて、化学物質を使用しない精密除草ロボットの開発を進める[10]
  • 水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」
農研機構、有機米デザイン株式会社(現「NEWGREEN」)、東京農工大学井関農機株式会社が共同で開発し、実証試験を全国36ヵ所で行った[11]。仕組みはロボットが水田を縦横無尽に走り回り水を濁らせることで、雑草の光合成が妨げられ生育を抑制させるというもの。改良型の「アイガモロボ2」が2025年3月に発売となる[12]
  • ムカデ型抑草ロボット((米国)Ground Control Robotics(グラウンドコントロールロボティクス)製)
ジョージア州アトランタを拠点とするロボットベンチャー「グラウンド・コントロール・ロボティクス」が、ムカデに着想を得て開発。高度な演算処理に頼ることなくスムーズな動作を実現している[13]

応用と利点

主に水田や果樹園で使われ、労働力削減や除草剤不要で環境負荷を下げることが期待される。ただし、初期投資が高額で、技術的課題(地形対応や識別精度)もある。

脚注

注釈

  1. ^ マキタ京セラインダストリアルツールズでは100V電源を用いるものも発売している。刈払能力はエンジン式とほぼ同等だが、作業ができるのはコードが届く範囲に限られる。

出典

  1. ^ 日本農業新聞、2009年11月2日。久留米大学医学部、末永隆次郎講師による調査。
  2. ^ 草刈り機を改造した船外機が故障…オールも折れ漂流の憂き目に 通報場所に急行も姿なく【敦賀海保日誌】”. 福井新聞オンライン (2022年5月13日). 2022年5月16日閲覧。
  3. ^ ホンダ、スマホとリンクするロボット草刈機「Grass Miimo」 Impress 2021年7月29日
  4. ^ ホンダ、電動ロボット芝刈機/草刈機「Miimo」改良モデルを発売 Impress 2024年7月30日
  5. ^ 和同産業が開発、GPS搭載「ロボット草刈り機」上位機種の機能 - ニュースイッチ 日刊工業新聞社 2024年5月22日
  6. ^ ロボット芝刈り機をスマホで遠隔操作。国内初の芝生管理自動化実験 Impress 2018年12月7日
  7. ^ 有機米デザイン(株) から (株)NEWGREEN へ社名変更 「日本の農業を世界のグリーン市場とつなぐ」 新たな体制・戦略を構築”. PR TIMES (2024年4月1日). 2025年6月7日閲覧。
  8. ^ 雑草対策の救世主「アイガモロボ」が本格始動! 水田以外での新たな活用事例も”. マイナビ農業(マイナビ) (2024年5月1日). 2025年6月7日閲覧。
  9. ^ PVロボット最前線 ロボットが「草を踏んで」抑制、太陽光の雑草対策に新手法 「けもの道」にヒント、自律走行時の転圧で一定の草丈に”. 日経クロステック (2019年1月10日). 2025年5月13日閲覧。
  10. ^ 世界初! 除草剤不要の除草ロボットが登場! 電流で雑草を枯死させる技術とは”. AGRI JOURNAL (2020年3月2日). 2025年6月7日閲覧。
  11. ^ (研究成果)水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ」の抑草効果を実証 - 水稲有機栽培の省力的雑草防除技術として期待”. 農研機構(NARO) (2024年1月23日). 2025年5月13日閲覧。
  12. ^ 「アイガモロボ」2 価格は税込27.5万円、2025年3月に販売開始”. 農林水産.com (2024年12月12日). 2025年6月7日閲覧。
  13. ^ ムカデ型のロボットが農園の雑草駆除に大活躍”. カラパイア (2025年5月22日). 2025年5月28日閲覧。

関連項目


刈払機(草刈機)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/24 05:40 UTC 版)

日工タナカエンジニアリング」の記事における「刈払機(草刈機)」の解説

同社主力製品 TBCシリーズ、パワーメイト・シリーズ、20ccから32ccまでのシリンダー容量の2サイクルガソリンエンジンを使用TUMシリーズというセルモーター付きの刈払機も製造している。

※この「刈払機(草刈機)」の解説は、「日工タナカエンジニアリング」の解説の一部です。
「刈払機(草刈機)」を含む「日工タナカエンジニアリング」の記事については、「日工タナカエンジニアリング」の概要を参照ください。

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