第一紀 (トールキン)
(アングバンドの包囲 から転送)
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第一紀(だいいっき、First Age; FA)は、J・R・R・トールキンの小説『指輪物語』及び『シルマリルの物語』の世界に出てくる歴史の時代区分の一つである。『シルマリルの物語』の「クウェンタ・シルマリッリオン」の話の大半はこの第一紀に入る。
概要
第一紀は、クイヴィエーネンの畔でエルフが目覚めてから[1][2]、モルゴスがヴァリノールの軍に敗れ、虚空へ追放されるまでの時代である。第一紀は上古(Elder Days)とも呼ばれる。
第一紀はおよそ4902年続き、トールキンの三つの時代の中で一番長い[3]。なお俗に言う太陽の第一紀という言葉は、即ち第一紀そのものを指すわけではない。クリストファー・トールキン曰く、父(J・R・R・トールキン)は"宝玉戦争"という言葉を第一紀最後の6世紀間に対して屡々用いていたようだ[4]、と書き記している。
中つ国でのエルフ達の影響力は強く、人間達はこの時代に目覚めて出現したばかりであり、まだ弱い存在であった。
トールキンは、主にベレリアンドに生じた出来事について記述した。アングバンド軍と邪悪な人間に対して、シンダール、ノルドールおよびエダイン三家が戦った一連の戦いを中心にかかれている。その戦争は中つ国にモルゴスが帰還した直後に始まった。ベレリアンドにはアマンへは行かなかったエルフがいたが、彼らは単に攻められたから応戦していただけで、モルゴスと関わりを持とうとはしていなかった。一方、ノルドール、特にフェアノールの息子たちは、モルゴスを破るためにやって来た。
第一紀の主な合戦は次のとおり。
- 諸力の戦い(諸神の戦い)は、目覚めたエルフ達をメルコール(後のモルゴス)の手から守るため、ヴァラールが再び中つ国の覇権を取り戻さんと、メルコールに挑んだ戦い。長い戦いの末にメルコールは敗北し、虜囚の身となった。この結果中つ国の地形は激変し、地殻が隆起したり大海が広く深くなるなどした。メルコールの第一の地下要塞ウトゥムノを含めた北方の大地は徹底的に破壊されたが、第二の要塞アングバンドは不完全な破壊に留まった。
- 最初の戦いは、シルマリルを奪って逃亡したモルゴスが中つ国に帰還して、配下のオークを中つ国に住むシンダールに差し向けたことで起きた。これが中つ国におけるモルゴスとエルダールの最初の戦いである。ノルドールが中つ国に来る以前の出来事であり、エルダール側の勝利に終わるが被害は甚大であり、この事からシンダールの上級王シンゴルは妻メリアンの力でドリアスを魔法帯で囲んだ。
- ダゴール=ヌイン=ギリアス(星々の下の合戦、太陽の昇る前の戦いのためこう名づけられた)はノルドールの到着のすぐ後に戦われた。ヒスルムのノルドールの野営地を攻撃するために、モルゴスはアングバンドから襲撃部隊を派遣したが、エルフはそれを撃退した。フェアノールがバルログの首領ゴスモグに殺された。この戦いは、ベレリアンドの戦いの第二の合戦と考えられている。
- ダゴール・アグラレブ(赫々たる勝利の合戦)はノルドールの帰還の約75年後に起こった。モルゴスは再びノルドールを攻撃し、そしてまた成功しなかった。ノルドールは非常に大胆になり、アングバンドを包囲した。しかしながら、アングバンドの北側がエレド・エングリンの北側にあり接近できなかったので、その包囲は限られた有効性しかなかった。
- ダゴール・ブラゴルラハ(俄かに焔流るる合戦)は、モルゴスがアングバンドから火の川を注いで、包囲するノルドール軍を壊滅させて始まった。ノルドールは最後には防いだが、その被害は甚大だった。例えば、アルド=ガレンの緑の平原は、火の川によって永久に荒廃させられ、今やアンファウグリス(息の根を止める灰土の地)と呼ばれた。またエダインが居住していたドルソニオンの高地は荒れ果ててしまった。
- ニアナイス・アルノイディアド(涙尽きざる合戦)はノルドールが始めた最初の戦いだった。エルフ、エダイン、およびフェアノールの息子と同盟したボールおよびウルファングの家から構成されていた。エルフおよび同盟軍はアングバンドにとても近くまで前進したが、モルゴスの策略がかれらの戦闘計画を混乱させ、ウルファングの裏切りが判明した。「涙尽きざる合戦」の名は、エルフの勝利の最後の可能性が破壊されたことに由来する。ヒスルムの土地は失われ、フェアノールの息子たちの大部分はばらばらになり、ベレリアンドの人口が激減した。モルゴスのオークはアンファウグリスの中心に多くのエルフおよび人間の死者の山を築いた。
- 怒りの戦いは、エアレンディルがヴァリノールに航海し、かれらが見捨てた人々を助けるようにヴァラールを説得した後、起こった。ヴァラールは、マイアールとヴァンヤールとヴァリノールにとどまったノルドールで構成された軍隊を召集した。テレリはベレリアンドのノルドールがなした古の攻撃により、援助を拒絶したが、かれらの有名な船でヴァラールの軍隊を送ることは承諾した。この戦いは接戦だった。しかし、ヴァラールは勝利した。モルゴスは捕らえられアルダから投げだされたが、かれの国とベレリアンドの大部分は戦いの熱の中で破壊され海の下に沈められた。
脚注
- ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 51頁
- ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.11 The War of the Jewels』1994年 Harper Collins, 342頁
- ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.12 The Peoples of Middle-earth』1996年 Harper Collins, 172頁
- ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.11 The War of the Jewels』1994年 Harper Collins, FOREWORD部分のIX頁
アングバンドの包囲
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このアングバンドの包囲は400年に渡って続いた。しかしこの包囲は完全なものではなかった。なぜならサンゴロドリムの城塞は、湾曲する鉄山脈から突き出るように築かれていたので、両側をこの山脈に守られていたため、これを超えて包囲することはノルドールには不可能であった。それに鉄山脈の北は常冬の雪と氷の大地であったからである。このためモルゴスは後背部には憂いはなく、彼の手下はアングバンドの大門ではなく北方側の秘密の入口から出入りしてベレリアンドに侵入した。またモルゴスは配下のオークに命じて、西方から来たエルフの中で生け捕りに出来るものがいたら、生きたままアングバンドに捕らえることにした。そうした捕虜の中には、モルゴスの面前で黒々とした恐怖に落ち込み威圧され、彼の思い通りになる者たちもいた。そうしてモルゴスはフェアノールの誓いや同族殺害のことなど様々なことを知ることが出来た。 モルゴスは、このフェアノールに率いられたノルドール族による同族殺害に、さらに嘘の尾鰭をつけ毒を含んだ噂としてシンダール族の間に流した。シンダールは用心が足らず、言われた言葉をそのまま受け取ったため、モルゴスは彼らに狙いを絞ったのである。キーアダンは賢者であったためこれらの噂は悪意によるものと看て取ったが、出所はモルゴスではなくノルドールの諸王家の間での妬みによるものと勘違いした。彼は自分が聞いたことをドリアスのシンゴル王に伝えた。シンゴルは激怒して、その場にいたフィナルフィンの息子たちをなじった。フィナルフィン一党は同族殺害に加わっていないものの、フィンロドは黙して語らなかった。それを釈明するとなれば、他のノルドール族を非難することになるからである。しかし弟アングロドは耐えられず、また以前ドリアスに使者として赴き帰ってきた際、カランシアに言われたことが遺恨となり、その場で真実を語りフェアノールの息子たちを非難した。この結果シンゴルは、フィナルフィンの子たちは縁者として以前通り扱い、また、フィンゴルフィン一党とは彼らがヘルカラクセでの苦しみで、罪を贖ったとして親交を保つことにした。しかしフェアノール一党への怒りは収まらず、彼らの言葉(即ちクウェンヤ)をベレリアンドで使うことを一切禁じた。このためノルドールも日常的にシンダール語を使わざるを得ず、クウェンヤは伝承の言葉として生き続けることとなった。 ダゴール・アグラレブから100年後モルゴスはフィンゴルフィンに奇襲を仕掛けた。彼は鉄山脈の北方からオークを送り出し、そこから西へ大きく迂回して南下し、ヒスルムに押し入るつもりだった。が、そこに至る前にフィンゴン率いる部隊に襲われ、オークの殆どは海へと追い落とされた。これによりモルゴスはオークだけではノルドールを滅ぼすことは不可能だと悟り、別の方法を模索することとなった。 その再び100年後、北方の火竜(ウルローキ)の祖グラウルングがアングバンドの大門から出撃してきた。この時の彼はまだ若竜で、成竜の半分にも達していなかった。しかしそれでもエルフ諸侯を仰天させるには十分だった。彼らは竜から逃げだし、グラウルングはアルド=ガレンを蹂躙した。しかしフィンゴンが一団の弓騎兵でこれを追い包囲すると、一斉に矢を浴びせかけた。グラウルングは身を完全に鱗で鎧うほど成長してなかったため、飛んでくる矢に耐えられず、アングバンドに逃げ帰った。この勲でフィンゴンは大いに名を高めた。モルゴスは早過ぎるグラウルングの出撃に大きく機嫌を損じたと言われている。そしてこの後200年に渡り長い平和が続き、ベレリアンドのエルフ達は繁栄することとなる。 ノルドールがベレリアンドに来て300年以上経った平和な時代に、ナルゴスロンドの王となったフィンロドはシリオンの東に旅をし、青の山脈(エレド・ルイン)の山並みに向かった。夕闇の訪れる頃、彼はそこでベレリアンドにやってきた人間、ベオルらの一族と出会った。彼らはそこで親交を結びフィンロドを主君としフィナルフィン王家に忠誠を尽くすこととなり、アムロドとアムラスの国に住む場所を定めた。しかしオッシリアンドのエルフらは人間を嫌い彼らを冷遇した。そのため次にやって来たハラディンの一族は北上してカランシアの収めるサルゲリオンに定住した。カランシアは人間の存在を殆ど歯牙にもかけていなかったからである。マラハ(Marach)の一族が最後にやって来たが、彼らは背が高く好戦的な輩だったので、オッシリアンドのエルフ達も手が出せなかった。しかしマラハの一族はベオルの一族と友好関係にあったため、そちらの近くへと移り住んでいった。人間の来訪はエルフにとっても興味深いことで、フィンロド以外の様々なエルフ達が人間のもとを訪れた。しかしシンゴル王は人間の来訪を歓迎せず、ドリアスは人間に対しては閉ざされたままであった。そして<第二の民>という意味であるエダインという言葉が彼らに使われ、後にエダインはエルフの友である三氏族についてのみ使われることとなる。フィンゴルフィンはノルドールの上級王として彼らを歓迎したため、多くの人間の若者がエルダールの王侯貴族に使えた。その中のマラハ(Malach)は14年間ヒスルムに定住しアラダンの名を与えられた。そして約50年後には何万という人間が西方のノルドール三王家の土地に入った。ベオルの一族はドルソニオンに来てフィナルフィン王家の土地に定住した。マラハの一族は後にはハドルの一族と呼ばれるようになり、ドル=ローミンに定住することとなる。またハラディンの一族は後にオークに襲われたことで、ハレスという名の女性に導かれてブレシルの森へと移っていった。しかし人間の間には不平分子もいて、エルダールを恐れかつ彼らに使えるのを良しとしないものも多かった。西の地に光明があると聞いて来てみれば、実際は暗黒の王とエルフたちの戦争の真っ最中であったため、それを厭うてエレド・ルインを再び超えてエリアドールに戻っていくものや、遥か南の方へと去っていった者たちも多くいた。こうした者達を除いて、エルダールのもとに集った人間たちは知識と技能を教授され、その智慧と技は勝っていき、ついにはエレド・ルインの東に住み、エルダールに会ったことも教えを受けたことのない、他の全ての人類を凌駕するに至ったのである。 この頃隠れ王国ゴンドリンはアマンのエルフの都ティリオンにも比す程の美しい都となった。しかしゴンドリンの中でも、最も美しいものはトゥアゴン王の娘イドリルであった。環状山脈の中ではゴンドリンの民も増え栄えていったが、200年ほど経つとトゥアゴン王の妹アレゼルはゴンドリンに倦み、広大な大地と森林に強く心を惹かれるようになった。そして彼女は王の許しを得ると、昔の友人フェアノールの息子ケレゴルムに会いに行こうとした。しかしそこへ行くにはドリアスを通らねばならず、彼女はフィナルフィン王家の者ではなかったため通行は許されなかった。そこでアレゼルは無謀にもナン・ドゥンゴルセブの危険地帯を通過しようとした。そこは昔バルログらから逃れたウンゴリアントが一時期棲み着いていた場所で、今も彼女の子孫の大蜘蛛達が徘徊する所であった。ここで大蜘蛛に襲われたアレゼルは護衛のものとはぐれてしまったが、運良く窮地を脱しケレゴルムとクルフィンの住んでいた場所に到着した。しかし折り悪く、二人は留守であった。そのため二人が帰ってくるまでそこに留まっていたが、ある時遠くまで馬を進めすぎた時、<暗闇エルフ>と呼ばれるシンゴル王の縁者エオルに見つかり、彼女に魅入られ我が物にしたいと思ったエオルは、魔法を用いて彼女を自分の住まいに引き寄せた。アレゼルはそのままそこに留まった。二人は結婚したからである。アレゼルにとっては意外なことにこの婚姻は不本意なものではなかったようで、そこでの生活もそれなりに気に入っていたようであった。そして4年後に二人の間に子が生まれる。この子はアレゼルから密かにクウェンヤでローミオンと名付けられ、エオルは息子が12歳になったのを機にマイグリンと名付けた。マイグリンは外見は母方のノルドール族に似ていたものの、内面は父方の性格を濃く受け継いでいた。しかしマイグリンは父よりも母を慕っており、母からノルドールの話を聞かされてはそれに憧れていた。マイグリンは父に母方の同族と会ってみたいと言ってみたが、エオルはノルドール族を嫌っていたため許されなかった。またアレゼルの方も縁者に再び会いたいという気持ちが募ってきた。やがて長の年月が経ち、ある時ドワーフ達の祝宴に呼ばれてエオルが出かけた際、マイグリンとアレゼルは脱走を図った。二日後に帰ってきたエオルはこれを知ると直ちに追いかけ、必死になって二人を探した。そして運の悪いことにアレゼルとマイグリンが乗り捨てた馬の嘶きから、エオルは隠れ王国に通ずる秘密の通路を探しだすことに成功し、ゴンドリンに連行されてきた。エオルはマイグリンを連れて出て行く権利を主張したがそれは聞き入れられなかった。隠れ王国に通ずる道を知ってしまったからである。トゥアゴン王はエオルにここに永久に留まるか死を選ぶか迫った。エオルは後者を選ぶと同時に、隠し持っていた投槍をマイグリンに投じたが、アレゼルが息子の盾になった。大した傷は追わなかったものの、この槍には毒が塗られていたため、アレゼルは命を落とした。それ故エオルは切り立った絶壁から投げ落とされ処刑された。しかしこのマイグリンが後にゴンドリンの破滅のもととなるとはこの時誰も予想し得なかった。
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