ISO 9000
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ISO 9000の歴史
品質マネジメントシステムの始まり
品質が現代的な意味で重要になったのは、流れ作業による大量生産が始まった20世紀に入ってからのことである。それまでは熟練工が個々の部品をそれぞれが組み合うように修正しながら組み立てていたが[16]、流れ作業による大量生産では作業員は決められた作業に集中して遂行する方法がとりいれられた。例えば、ヘンリー・フォードの時代のフォードでは、原材料や工具の受領、設備のメンテナンス、品質管理などは、組み立て作業とは独立して、専門のグループが行うような組織が編成された[17]。このような流れ作業による大量生産を実現するもっとも重要なポイントは、ベルトコンベアではなく、完全で一貫した部品の互換性である[18]。その理由として、どの部品もそのままで互いに組み合わなければそもそも流れ作業が成り立たないからである。品質管理が重要になったのはそのためである。
製品・部品の個々の特性を個別に管理するだけでなく、品質マネジメントシステムとして、品質を管理・維持する仕組みを整える考え方は、最初は軍の資材調達で取り入れられている。1959年には、アメリカ軍がサプライヤーに対する要求としてMIL-Q-9858 「品質マネジメントプログラム」を作成した。これはアメリカ海軍のMIL-Q-21549やアメリカ空軍のAF1523を基に作られたもので、その後の1963年に、MIL-Q-9858Aに改定された。続いてNATOでも1968年にAQAP-1が制定された。
非軍事的分野での品質マネジメントシステム
軍事分野以外では、例えば、原子力エネルギーの分野で1971年にANSI N45.2 「原子力発電所に関する品質保証プログラムの要求事項」が制定された。これは原子力発電所の設計・建設における品質保証プログラムを計画・実施する際の要求事項をまとめたものである[19]。これは1977年にANSI 45.2-1977 「原子力機器に関する品質保証プログラムの要求事項」として、広く原子力産業の設備に適用できるように改められた。
1974年、イギリスでは英国規格協会(BSI)が産業界からの要望に応えてBS 5179「品質保証システムの運用と評価の指針」を発表した。そして、このBS 5179の制定に刺激されて各業界がそれぞれ独自の指針を作成し始めるようになった。 この状態は1977年に全国経済開発局のレポート「技術産業における規格と仕様で報告され、同時に統一規格の作成が勧告された[20]。この勧告を受けて作成され、1979年に制定された規格がBS 5709「品質システム」である。BS 5709は3部構成をなしており、第一部は「設計・製造・据付のための仕様」、第二部は「製造・据付のための仕様」、第三部は「最終検査および試験のための仕様」となっていた。
ISO 9000シリーズの制定と改訂
一方、ISOでも品質管理システム規格の制定のためにISO/TC176技術委員会が1979年に組織される[21]。 まず最初に、ISO 8402:1986「品質-用語」が制定された。これがISO 9000シリーズの始まりである。ISO 9001「品質システム-設計・開発、製造、据付における品質保証のためのモデル」、ISO 9002「品質システム-製造、据付における品質保証のためのモデル」、ISO 9003「品質システム-最終検査及び試験における品質保証のためのモデル」、ISO 9004「品質マネジメントおよび品質システムの要素-指針」はそれぞれ1987年に制定された。これらはBS 5709を基に作成されたものである。ISO 9001、ISO 9002、ISO 9003は、BS 5709の第一部、第二部、第三部にそれぞれ対応する。ISO 9004は、1981年にBS 5709に付け加えられた第四部から第六部をまとめたものに相当する[22]。
その後、ISO 9000シリーズは1994年に改定された。これはISO 9000シリーズの示す品質マネジメントシステムの導入のしやすさを狙うと同時に、時代に合わせた考え方を取り入れたものであった。
2000年にISO 9000シリーズは大幅に改定され、この2000年版のISO 9000シリーズが2013年現在のISO 9000シリーズの元になっている。それまでのISO 8402とISO 9000-1は統合され、新しくISO 9000「品質マネジメントシステム-基本と用語」とされた。事業所の性格に合わせて分けられていたISO 9001、ISO 9002、ISO 9003はまとめられてISO 9001「品質マネジメントシステム-要求事項」となり、ISO 11011は、ISO 19011として、品質マネジメントシステム以外のマネジメントシステムにも適用できる規格となった。ISO 9004については、番号は変わらないが内容が改定された。
2008年にもISO 9001の改定があったが、これは語句をわかりやすく改めたり、環境マネジメント規格であるISO14001との兼ね合いを考えて用語を変えたり、パラグラフの順番を変えるなどの軽微な変更にとどまっている[23]。2013年現在、このISO 9001:2008が現行の規格である。
1994年版 | 2000年版 | 2015年現在の版 |
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ISO 8402 | ISO 9000 | ISO 9000:2015 Quality management systems — Fundamentals and vocabulary
品質マネジメントシステム-基礎と用語 |
ISO 9000-1 | ||
ISO 9001 | ISO 9001 | ISO 9001:2015 Quality management systems — Requirements 品質マネジメントシステム-要求事項 |
ISO 9002 | ||
ISO 9003 | ||
ISO 9004-1,2,3,4 | ISO 9004 品質マネジメントシステム-パフォーマンス向上のための指針 |
ISO 9004:2009 組織の持続的成功のための管理方法-品質マネジメントアプローチ(2016年に改訂予定) |
ISO 10011 | ISO 19011 | ISO 19011:2011 マネジメントシステム監査の指針 |
注釈
- ^ ISO/TC176技術委員会が作成したものをISO 9000ファミリーと考えるのであれば、ここに挙げた4つにとどまらない。ISO/TC 176 - Quality management and quality assuranceを参照のこと。
- ^ 規格ではなく、仕様と名付けられている
出典
- ^ "3.6.1 対象(object)... 認識できるもの又は考えられるもの全て。 例 製品 ... サービス ... 組織 ... システム" JIS Q 9000:2015
- ^ "“本来備わっている”とは,あるものに内在していること,特に,永久不変の特性として内在していることを意味する。"
- ^ "3.10.1 特性 ... 特性には,次に示すように様々な種類がある ... 感覚的(例 嗅覚,触覚,味覚 ..." JIS Q 9000:2015.
- ^ "3.6.4 要求事項 ... 明示されている,通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている,ニーズ又は期待。" JIS Q 9000:2015.
- ^ Hoyle、p.7
- ^ 久米、p.37
- ^ ISO 9000:2005, 3.4.2
- ^ Kiliński、pp.13-14.
- ^ "3.3.11 活動(activity)... 明確にされた作業の最小の対象" JIS Q9000:2015
- ^ "活動の中には,あらかじめ定められ,組織の目標についての理解によって決まるものがあるが,他方で,あらかじめ定められておらず,外部からの刺激に応じてその性質及び実行を決定するものもある。" JIS Q9000:2015
- ^ "3.4.1 プロセス(process) インプットを使用して意図した結果を生み出す,相互に関連する又は相互に作用する一連の活動。" JIS Q9000:2015
- ^ "活動を,首尾一貫したシステムとして機能する相互に関連するプロセスであると理解し" JIS Q9000:2015
- ^ "プロセスでは,インプットを用いてアウトプットを出すための相互に関連する活動が行われる。" JIS Q9000:2015
- ^ "プロセスアプローチ 活動及び関連する資源が一つのプロセスとして運営管理されるとき,望まれる結果がより効率よく達成される。" JIS Q9000:2006
- ^ '組織内で用いられるプロセス ... を体系的に明確にし,運営管理することを“プロセスアプローチ”と呼ぶ。' JIS Q9000:2006
- ^ J. P. Womack, et al. p.26.
- ^ Tidd J., Bessant J., Web resources, p.2.
- ^ J. P. Womack, et al. p.25.
- ^ REGURATORY GUIDE 1.28, p.1.
- ^ Carter, p.3.
- ^ ISO/TC 176 Quality management and quality assurance
- ^ Carter, p.4.
- ^ 『ISO9001の2008年改訂について』
- ^ ISO 9000 - Quality management
- ^ Hamrol, pp.176-177.
- ^ a b E. Noveh, P23.
- ^ F. Buttle, p.945.
- ^ E. NAVEH, et al., p.24.
- ^ ISO/TC 176/SC 2N 376
- ^ a b ISO 9000:2005 0.2.
- ^ Hoyle、p.22.
- ^ Hoyle、pp.22-23.
- ^ ISO 9000:2005, 0.1.
- ^ a b ISO 9004:2009 Introduction.
- ^ ISO 9001:2008, 0.3.
- ^ a b ISO 19011:2011 Introduction
- ^ Hoyle, p.101
- ^ QS-9000:1994 Introduction.
ISO 9000と同じ種類の言葉
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