ISO 9000 旧ISO 9001、ISO 9002、ISO 9003および現行のISO 9001

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ISO 9000

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/27 06:00 UTC 版)

旧ISO 9001、ISO 9002、ISO 9003および現行のISO 9001

特徴

2000年の改定前のISO 9001、ISO 9002、ISO 9003と2000年の改定以後のISO 9001(以下、特に発行年をつけて区別しない限り、これらをまとめてISO 9001とする)がISO 9000シリーズの中核をなす規格で、これらの規格が品質マネジメントシステムのモデルを提供する。このモデルを実現していると認定にされた事業所が、いわゆるISO 9001認定事業所である。

ISO 9001は多くの企業に取り入られ、ISO 9001:2008は170カ国以上にわたる百万を超える企業が導入している[24]。このようにISO 9001が広く受け入れられるようになった理由としては次のような理由が挙げられる[25]

  • 包括的であること: 効果的な品質マネジメントシステムを作り上げるために必要な要素がすべて網羅されている。
  • 柔軟性があること: 品質管理に使用する具体的な方法・ツールは各事業体の選択にまかされている。
  • 普遍性があること: さまざまな製品(商品・サービス)を市場に供給する事業体に適用できる。
  • 組織的なサポートがあること:広く認知された団体が規格に変更を加えたり、第三者認証を行ったり、認定事業体のリストを保管したりしている。
  • 客観的であること: 品質マネジメントシステムのモデルへの適合度の結果は広く知られている解釈がもとになっている。

ISO 9000の示す品質マネジメントモデルを導入することでの、個々の企業や事業体の活動への効果については議論になることもあるが、それでも顧客はISO 9001の認証をサプライヤーに要請し続けている[26]。特にEUの様に非関税障壁めいて、ISO 9001の認証が事実上市場で活動するための条件になっているというビジネス環境が理由で、ISO 9001の認証を目指すというのは、事業体がISO 9001の認証を得る動機の一つである。業界によっては必ずしもISO 9001の認証が必要なところばかりではないが、新規顧客の獲得、従来の顧客の維持、ISO 9001の品質マネジメントモデルを導入している事実をセールスポイントにするといったマーケティング上の利益を期待してISO 9001の認証を得る場合もある[27]。ISO 9001の品質マネジメントモデルを導入することで、不良率の減少、コストの削減、返品率の低下などというようなオペレーションの成績に対する効果も期待できる[26]。ただし、実際のところ、ISO 9001の認証そのものは、競争力の強化などを必ずしも約束するものではなく、それはISO 9001の品質マネジメントモデルをいかに運用するかにかかっている[28]

八つの品質マネジメント原則

ISO 9001:2000 (およびISO 9001:2008-以下同様) は八つの品質マネジメント原則[29]を基礎としており、経営者はこれらの原則を組織の実績を向上させるために使用することができる[30]

顧客重視 (Customer focus)
事業体の市場で占める位置というものは、ひとえに顧客をどれだけ獲得するかにかかっている。そのため、顧客の期待をできる限りよく理解することが必要である。顧客とはプロセスの成果としての製品 (無形の製品も含む) を受け取る人や組織のことであり、利益の追求が目的でない組織についても、顧客を定義することができる。
リーダーシップ (Leadership)
リーダーは組織の中にあって組織の目標と進むべき道を指し示す存在である。また、組織の人々が組織の目標を達成するために必要な環境を整えることもリーダーの役目である。リーダーシップだけで品質マネジメントを成功させることはできないが、他の7つの原則を適用して組織が何をしようとして、どこに向かっているのかというヴィジョンを、リーダーシップによって組織の構成員に共有させることになる[31]
人々の参画 (Involvement of people)
組織のもっとも重要な要素は人である。組織の人々の能力や知識を最大限に発揮させるよう努力しなければならない。これはできる限り開かれた経営を行うことにも通じる。経営側が何を考えているのか全く分からないというような閉鎖的な仕組みは、組織の構成員にある種の不信感を与えるからである[32]
プロセスアプローチ (Process approach)
プロセスアプローチとは、例えばその事業体への情報・材料・エネルギー等のインプットに付加価値をつけて製品としてアウトプットするというプロセスに注目して、このプロセスを管理するという考え方である。そうではなくて、決められた手順を通りにやれば要求品質は達成されるはずであるから、自分は手順を守ることに専念して、その成果物を次のグループに渡せばよいというやり方があるとすれば、それはプロセスアプローチではない。プロセスの成果とプロセスに影響を及ぼす要素を直接管理するのがプロセスアプローチである。プロセスが主体であるから、当然それにかかわる各部署・グループ同士が効率よく柔軟に連携しなければプロセスを一体のものとして管理できない。
マネジメントへのシステムアプローチ (System approach to management)
ここでいうシステムとは、互いに関係があり、そして互いに影響しあう要素の集まりのことである。例えば、原材料から製品を作るというプロセスは、原材料受入プロセスから最終検査プロセスまで様々な要素プロセスに分けることができ、それぞれが関係しあっている。また、製品を作り出すにあたっては、機器保全の仕組み、勤怠管理の仕組みなど、様々な要素が多かれ少なかれ関係している。要素同士はお互いに影響しあい、ある要素に手を加えると、その影響はほかの要素にも及ぶ。品質マネジメントには、そのようなシステムを管理(マネジメント)しているという視点が必要である。
継続的改善 (Continuous improvement)
常により良い結果を探し求めることが必要である。良い結果とは、例えば、製品のばらつきをより少なくする、やり方をより効率的に (費用や手間の少ない方法に) するなどのことである。
意思決定への事実に基づくアプローチ (Factual approach to decision making)
客観的な事実を基に意思決定をするべきである。感じや印象で意思決定をするべきではない。客観的な事実を基に意思決定するには、まず客観的事実を認識する仕組みが必要になる。典型的な方法の一つは、記録を取りそれをきちんと保管する、というものである。
供給者との互恵関係 (Mutually beneficial supplier relationships)
顧客重視の原則から、事業体としては顧客の動向を探るとこばかりに目を向けがちになる。顧客の存在の上にビジネスが成り立っているのは事実だが、一方で部品や材料が供給者から供給されていることの上に事業がなりたっていることもまた事実である。品質だけについて見ても、供給者からの部品や材料の品質がそのまま、その事業体の製品の品質に結びついている。

ISO 9001:2000の構成

ISO 9001:2001 の品質マネジメントシステムモデル

ISO 9001:2000(およびISO 9001:2008-以下同様)は、以下のように構成されている。

〇章 序文
ISO 9001 にはシステムアプローチが適用されていることを強調する。同時にISO 9001 とISO 9004 との関係を説明し、また、他のマネジメントシステム (ISO 9001:2008 で具体的に挙げられているのは、環境マネジメントシステム規格である ISO 14001:2005) と統合して運用することができることを述べる。
一章-三章 適用範囲、関連規格、用語と定義
ISO 9001 は顧客の要求を満たす製品を供給し、顧客の満足度を強化することを目的とする組織に必要な要求事項を定めたもので、組織の形態、大きさ、製品の種別を問わず広く適用できるようにつくられていることを説明する。用語は ISO 9000 に定義されていることが述べられている。
四章 品質マネジメントシステム
組織は品質マネジメントシステムを確立し、文書化し、実際に運用し、維持し、継続的な改善を行っていかなければならないことを述べる。また、品質マニュアルを作成することを規定し、それを含めた文書や記録の管理方法に対する要求事項を規定する。
五章 経営者の責任
経営者は品質マネジメントシステムの導入と強化を責任をもってかかわりあっていることを示さなければならないことを規定する。具体的には、例えば顧客の要求がきちんと特定されており、製品が顧客の満足に結びついているよう組織を活動させるのは経営者の義務である。品質方針や品質目標もそれが適切に作られるようにすることも経営者の義務である。社内での様々な権限や責任を規定したり、社内のコミュニケーションの仕組み作りにも経営者は責任をもつ。また、経営者は定期的に組織の品質マネジメントシステムを点検しなけれはならない。
六章 資源の運用管理
資源とは、従業員や機械・設備、建物などのことである。まず、目的通りに製品を作るためにどのような資源が必要なのかを決める必要がある。従業員に適切な教育・トレーニングを行うこと、適切な労働環境を整えること、設備や建物 (インフラストラクチャー) を適切な状態に保つべきであることなどを規定する。
七章 製品実現
ISO 9001:2000では、製品を具体的に実際のものとすることを、計画、顧客との関係、設計・開発、購買、製造、測定機器の点検という六つのフェーズに分けて、それぞれのフェーズに必要な要求事項とを規定している。顧客との関係では、顧客から明示的・暗黙的に示された要求事項、法的な要求事項などを明確にすることや、顧客とのコミュニケーションの方法を確立することを求めている。
八章 測定、分析及び改善
顧客の満足度を調査したり、製品が要求仕様通りにできているかどうかを確かめたり、また品質マネジメントシステムのプロセス自身を確認することを求めている。収集したデータの分析から、このような確認・測定に必要な情報を手に入れるべきであるとしている。また、不具合は是正し、起こりうる問題を防止し、常に品質マネジメントシステムの改善に努めることを求めている。

つまり、経営者の責任において、顧客の存在を重要課題として企業活動の方針に取り込み、その方針を実現するために経営資源を調え、顧客の要求事項を具体的に製品として実現させ顧客に供給する。そして、それが本当に顧客の要求事項を実現し、顧客満足を得ているかどうかを測定・分析し、その結果を経営者にフィードバックする。同時に測定・分析の結果は品質マネジメントシステムの改善に役立てる、というのかISO 9001が示す品質マネジメントシステムのモデルである。


注釈

  1. ^ ISO/TC176技術委員会が作成したものをISO 9000ファミリーと考えるのであれば、ここに挙げた4つにとどまらない。ISO/TC 176 - Quality management and quality assuranceを参照のこと。
  2. ^ 規格ではなく、仕様と名付けられている

出典

  1. ^ "3.6.1 対象(object)... 認識できるもの又は考えられるもの全て。 例 製品 ... サービス ... 組織 ... システム" JIS Q 9000:2015
  2. ^ "“本来備わっている”とは,あるものに内在していること,特に,永久不変の特性として内在していることを意味する。"
  3. ^ "3.10.1 特性 ... 特性には,次に示すように様々な種類がある ... 感覚的(例 嗅覚,触覚,味覚 ..." JIS Q 9000:2015.
  4. ^ "3.6.4 要求事項 ... 明示されている,通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている,ニーズ又は期待。" JIS Q 9000:2015.
  5. ^ Hoyle、p.7
  6. ^ 久米、p.37
  7. ^ ISO 9000:2005, 3.4.2
  8. ^ Kiliński、pp.13-14.
  9. ^ "3.3.11 活動(activity)... 明確にされた作業の最小の対象" JIS Q9000:2015
  10. ^ "活動の中には,あらかじめ定められ,組織の目標についての理解によって決まるものがあるが,他方で,あらかじめ定められておらず,外部からの刺激に応じてその性質及び実行を決定するものもある。" JIS Q9000:2015
  11. ^ "3.4.1 プロセス(process) インプットを使用して意図した結果を生み出す,相互に関連する又は相互に作用する一連の活動。" JIS Q9000:2015
  12. ^ "活動を,首尾一貫したシステムとして機能する相互に関連するプロセスであると理解し" JIS Q9000:2015
  13. ^ "プロセスでは,インプットを用いてアウトプットを出すための相互に関連する活動が行われる。" JIS Q9000:2015
  14. ^ "プロセスアプローチ  活動及び関連する資源が一つのプロセスとして運営管理されるとき,望まれる結果がより効率よく達成される。" JIS Q9000:2006
  15. ^ '組織内で用いられるプロセス ... を体系的に明確にし,運営管理することを“プロセスアプローチ”と呼ぶ。' JIS Q9000:2006
  16. ^ J. P. Womack, et al. p.26.
  17. ^ Tidd J., Bessant J., Web resources, p.2.
  18. ^ J. P. Womack, et al. p.25.
  19. ^ REGURATORY GUIDE 1.28, p.1.
  20. ^ Carter, p.3.
  21. ^ ISO/TC 176 Quality management and quality assurance
  22. ^ Carter, p.4.
  23. ^ 『ISO9001の2008年改訂について』
  24. ^ ISO 9000 - Quality management
  25. ^ Hamrol, pp.176-177.
  26. ^ a b E. Noveh, P23.
  27. ^ F. Buttle, p.945.
  28. ^ E. NAVEH, et al., p.24.
  29. ^ ISO/TC 176/SC 2N 376
  30. ^ a b ISO 9000:2005 0.2.
  31. ^ Hoyle、p.22.
  32. ^ Hoyle、pp.22-23.
  33. ^ ISO 9000:2005, 0.1.
  34. ^ a b ISO 9004:2009 Introduction.
  35. ^ ISO 9001:2008, 0.3.
  36. ^ a b ISO 19011:2011 Introduction
  37. ^ Hoyle, p.101
  38. ^ QS-9000:1994 Introduction.


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