軽減税率 軽減税率の概要

軽減税率

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/24 15:03 UTC 版)

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概要

消費税制度において、2019年に公明党が「低所得者対策目的として軽減税率導入を要求し」、軽減税率反対だった政府・自民党が要求を飲んだことで導入された。しかし、消費税の仕組みは消費する金額が高ければ高いほど、税金として支払う額が増えるので、軽減税率導入によって支出金額が高い人ほど金額的に得になっている。更には官民における税務の煩雑化、「一部の対象品目」に係る決定経緯の不透明さとミートゥー症候群(各業界による陳情合戦)、一度導入すると軽減税率適応対象の利権化で廃止困難、また税収減少するので単一税率課税後の再分配の方がC効率性が高いために批判の声が多い[誰?]欧州では推進派の主張していた逆進性緩和のために軽減税率を導入したのではなく、各国が付加価値税導入時の反対論に妥協して、一部の品目について付加価値税導入以前の低い税率を残したことが軽減税率の誕生である。しかし、軽減税率のために生じる事務コストは、当初の予想を大幅に超え、軽減税率による税収減を税金で賄うため、標準税率が高騰し続けている。さらに業界ごとの軽減税率を求める政治圧力増大によって、欧州連合(EU)の規制も及ばず、各国の対象品目は拡大している。上記のように標準税率が高いため軽減税率をあるのではなく、軽減税率があることで標準税率が引き上げられてきたのである[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11]

実状と単一税率による再分配との比較

軽減税率の実状として、標準税率のみの場合に対して、納税コストや煩雑さや、より高価なモノを買う高所得の消費者ほど払う消費税金額が減少する(税収が減る)[12]ことで本来の目的でもある低所得への分配が減らされる制度という指摘があり、欧州でも軽減税率を廃止して標準税率一律にしようという動きがある[12][13][14]

高所得者ほど恩恵をより大きく受ける

軽減税率は「低所得者の負担の軽減」という名目で政策導入が検討されているが、実際には「高所得者ほど軽減税率の恩恵をより大きく受ける」ことになり、低所得者対策として有効でないことなどから、多くの経済学者は軽減税率の導入に反対している[6]

これは「すべての国民に一律で軽減措置を行うことで、高所得者も軽減措置を受ける」ためで、食品などの生活必需品とされる品物においても、高所得者は低所得者に比べ多くの金額を支出していることから、より多くのVAT軽減措置を受け、より大きく恩恵を受けることになるためだ[15]。また軽減税率導入の結果として本来国が得る税収を減らすことにもなる[6]

OECDは食料やエネルギー製品などの品目へ軽減税率を適用することは、これによって最も恩恵を得るのは高所得家計であるため「低所得家計への支援策として劣った手段である」と勧告し、さらに欠点として、不正機会の発生や、行政コスト・法順守コストの高さを挙げている[15]。ヨーロッパ連合は消費税を加盟国の共通税制と定めており、加盟国に導入が義務付けられている。加盟国に軽減税率については規定がないが、消費税の標準税率を15%以上に義務付けている。加盟国ではデンマークのみが軽減税率の導入をしていない。代替措置として、広範なベーシック・インカムを設けている。軽減税率を導入しない国は軽減税率で税収を減らすよりも同じ税率で効率的に集めて財源確保する方が効率的とから一律税率にしている。さらに、一度軽減税率を導入して例外をつくるとme tooシンドロームと呼ばれる軽減税率適用を次から次に求める事態が起きるため、それを防ぐ効果もある[14][16][17][18]

また、財務省が消費税率10%への引き上げ時に導入する軽減税率制度の家計への効果を試算したところ、負担軽減額は収入が多い世帯ほど大きくなり、民間試算と同様の傾向が表れた[7]

制度の複雑化による様々な負担

軽減税率により消費税を複雑化することにより、税額控除、事務負担、税務執行による様々な仕事が増え多くの運用コストが発生することになるという指摘もある[15]。導入時において具体的な仕組み作りや税率可変できるシステムの導入が課題とされている。また、事業者による仕入れ業務も変化を求められており、複数税率に対応するため「インボイス方式」(適格請求書等保存方式)が2023年(令和5年)10月以後導入される予定になっている[19]

税収減少による財政悪化の懸念

2014年に日本の内閣府が示した中長期財政試算では、消費税の軽減税率導入に伴う代替財源が確保されていないことが影響し赤字額が増える見込みとなっている。消費税率10%への引き上げ時に導入する軽減税率では1兆円規模の減税となる見通しで、このうち6,000億円程度は財源のメドが立っていないため2020年度の赤字額が増える見込みとなり、軽減税率導入による財政悪化が懸念されている[20]

2019年2月5日、「軽減税率」導入で見込まれる歳入減をめぐり財務省がまとめた財源確保策の詳細が明らかになり、たばこ税の引き上げなどで年間計1兆810億円程度を確保できると試算したが、軽減税率による減収見込みは1兆890億円程度とされ、約80億円が不足する計算となった。新たな財政確保策は検討しない[1]

各国の軽減税率の区分と問題

欧州諸国では多くの国で消費税に軽減税率が導入されている。しかし、税制の専門家などでは欧州諸国の軽減税率は失敗の経験として、軽減税率導入は否定的に捉えられている[15][14]

欧州諸国における軽減税率は、経済困窮者への配慮などといった福祉政策的な観点によって作られた制度ではない[10]。1960年頃の欧州では分野により税制が大きく異なるものが多数あり、それらの統一を図ろうとしたものの各所からの抵抗や反発の結果、政治的妥協として消費税に複数の税率が適応される事態となったことがその経緯だ。

2015年、EU加盟国28カ国中21カ国で軽減税率が適用されている。区分けや税率は各国で違いがある[21]。例えば、カナダでは「ドーナツ5個以内」は「外食」とみなし消費税6%を課税し、「ドーナツ6個以上」は「その場では食べられない」とみなされ「食料品」となり、消費税は非課税となる(2013年1月時点)[22]ドイツではハンバーガーを食べる場所により変わり、店内で食べると「外食」とみなし消費税19%を課税し、「テイクアウト」にすると「食料品」とみなし、消費税を7%に減税している(2013年1月時点)[22]

なお、日本で、マクドナルドやバーガーキング、ケンタッキー・フライド・チキン、牛丼の松屋・すき家などのファストフードでは、税込同額の設定をしている例がある。同様の制度は、フランスやスペインにおいても見られる。

欧米諸国では各業界団体が軽減税率の適用を求める問題や軽減税率導入によって税収が減り、社会保障費を賄うためには予算不足なために将来的な基本消費税率が高くなっている[23]

日本では、軽減税率制度の導入に向けて国税庁が個別の対応事例を作成している[24]。それによれば、例えば、「アルコール1%以上のみりん」は酒税法で規定する「酒類」に該当するので軽減税率の対象外であるが、アルコール1%未満の「"みりん風"調味料」は飲食料品になるため、軽減税率が適用される。


  1. ^ a b 軽減税率導入、財源80億円不足=減収穴埋め策判明-消費増税:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 時事通信社 (2019年2月5日). 2019年2月6日閲覧。[リンク切れ]
  2. ^ 食料品等に対する軽減税率の導入問題 髙田具視(税務大学校研究部教授)(国税庁HP)
  3. ^ ■軽減税率制度は全ての事業者の皆さんに関係します(政府広報オンライン)
  4. ^ 消費税の軽減税率制度等に関する資料(財務省HP)
  5. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2015年12月12日). “【軽減税率】ウチだって必需品だ! トイレットペーパー、灯油、防寒の衣料品…陳情バトルやまず” (日本語). SankeiBiz. 2020年12月11日閲覧。
  6. ^ a b c 軽減税率はなぜ人気なのか?
  7. ^ a b “軽減税率、高年収ほど恩恵” (日本語). 共同通信 (共同通信社). (2019年3月1日). https://this.kiji.is/474224679655064673 2019年3月3日閲覧。 
  8. ^ a b c d “政治裁定:軽減税率/上(その2止) 財務省、重ねた誤算 - 毎日新聞” (日本語). 毎日新聞. https://mainichi.jp/articles/20151213/ddm/003/010/062000c 2018年10月4日閲覧。 
  9. ^ a b 問題だらけの軽減税率 〜天下り先確保、野放しの脱税、そして増税…得をするのは金持ちだけ
  10. ^ a b 「軽減税率は先進国の常識」の大ウソ!欧州の「失敗」を繰り返さないために…
  11. ^ 今なぜ軽減税率なのか? | NIRA 総合研究開発機構”. www.nira.or.jp. 2020年12月11日閲覧。
  12. ^ a b 日本の場合毎年一兆円の税収減が予測されている
  13. ^ サラリーマン増税の「真犯人」は消費税軽減税率だ 週刊diamond
  14. ^ a b c 軽減税率を導入すべきか - みずほ総合研究所
  15. ^ a b c d OECD Economic Surveys: Japan 2015, OECD, (2015-04), Assesment and recommendations, doi:10.1787/eco_surveys-jpn-2015-en, ISBN 9789264232389 
  16. ^ VATの還付制度:EU | 貿易・投資相談Q&A - 国・地域別に見る - ジェトロ”. www.jetro.go.jp. 2019年7月3日閲覧。
  17. ^ a b c 『諸外国の付加価値税 : 2008年版』,鎌倉治子,2008年
  18. ^ a b c d 消費税の軽減税率とC 効率性 - みずほ総合研究所
  19. ^ a b 株式会社エクス コラム 「インボイス方式導入による影響」 2017年11月24日閲覧
  20. ^ 日本経済新聞「基礎的財政赤字、6兆円台半ばに拡大 軽減税率で」
  21. ^ 主要国の付加価値税の概要 財務省
  22. ^ a b 経済・マネー 【金融スクープ】消費増税各国が苦心する軽減税率の“珍”線引き zakzak 2013年1月16日(2013年1月13日時点のインターネットアーカイブ
  23. ^ 日本型軽減税率制度 - みずほ総合研究所
  24. ^ 消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)|国税庁” (日本語). www.nta.go.jp. 2018年11月10日閲覧。
  25. ^ すべての国内消費に標準税率で課税された場合に得られる仮定での税収に対する実際の税収の比率
  26. ^ 軽減税率・自民と公明「大モメ」の全真相!`
  27. ^ a b c まるで「クイズ」のような軽減税率の線引き”. 東洋経済ONLINE. 東洋経済新報社 (2016年2月22日). 2019年3月17日閲覧。
  28. ^ 堀江貴文氏、軽減税率をめぐる公明党の狙いを指摘「聖教新聞守るため」”. livedoorNews. livedoor (2015年12月19日). 2015年12月22日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2016年10月21日閲覧。
  29. ^ “新聞に軽減税率を適用する必要はない” (日本語). HuffPost Japan. (2015年10月16日). https://m.huffingtonpost.jp/hajime-yamada/newspaper_b_8309212.html 2018年10月4日閲覧。 
  30. ^ “消費増税と新聞の軽減税率 朝日社説の変節ぶり(THE PAGE) - Yahoo!ニュース” (日本語). Yahoo!ニュース. https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160519-00000006-wordleaf-soci 2018年10月4日閲覧。 
  31. ^ 「進次郎が訴えてもメディアはスルー…「新聞軽減税率」はなぜタブーか”. gendai.ismedia.jp. 週刊現代. 2020年8月28日閲覧。
  32. ^ a b c d e f 税率引き上げより怖い消費税の「インボイス制度」”. 大和総研グループ. 大和総研グループ (2018年12月12日). 2019年6月22日閲覧。
  33. ^ 税制調査会 2014年度 - 内閣府” (日本語). 内閣府ホームページ. 2019年3月22日閲覧。
  34. ^ 日本のキャッシュレス化に向けた課題-日本のキャッシュレス化について考える(3):研究員の眼 夏野剛公式twitterアカウント 2018年1月11日






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