慢性疲労症候群 医療機関の対応

慢性疲労症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/22 08:04 UTC 版)

医療機関の対応

現在、CFSの診察を積極的に行っている医師はごく少数である。また、医師の間でCFSの認識は薄く、専門医でなければこの病気の可能性を見いだせなかったり、的確に診断できない場合がある。精神疾患等に誤診される場合があり、患者は多くの病院を訪れ(ドクターショッピング)、長年の後CFSの診断を受けることが多い。それでもここ数年は、政府の疲労プロジェクト・日本国外の研究報告によってCFSの研究が進んだこと、各メディアが取り上げるようになったことなどによって、認識が広まってきている。また、アメリカ政府が公的にCFSを認めたこともあり、今後の認知は深まると考えられる。

なお日本国内では,大阪市立大学付属病院疲労クリニカルセンターが慢性疲労症候群の解明と治療に取り組んでいたが,現在2019年段階では当外来では一般の方の初診の受付は、行っておりませんと明記されている。ナカトミファティーグケアクリニック[53](ナカトミファティーグケアクリニックの院長である中富康仁氏は大阪市立大学付属病院疲労クリニカルセンターの担当医を兼務している)にて鑑別診断等実施のうえ、慢性疲労症候群と診断された方で診察をご希望される方は本院専門外来での診察を受付けておりますとされており,これを知らない患者にとっては誤解(他の医療機関からの紹介状では受け付けてもらえない場合がある)と負担となっている。[54] 

経過

発症

突然にインフルエンザのような症状を呈し発症するか、疲労やストレス等の蓄積で発症し徐々に悪化するケースも多くある。

突然の発症

突然にCFSを発症し、ある日・ある時間に発症するということを覚えている患者もいる。

しばしば、他の病気と一緒に、または、他の病気によって引き起こされる。インフルエンザや気管支炎などへの感染、アレルゲン(ペンキ・新しいペット・建設物の埃)への曝露後、CFSの症状が現れるようになる。組み替え型のB型肝炎ワクチンがCFSの発症原因の一つではないかという説もある。

徐々な発症

いくつかのケースでは、ゆっくりとしたペースで(何年にも渡るケースがある)進行する。こうした患者は、発症時にはCFSに気が付きにくい。ストレスや過労からだと思い、しばらくすれば治ると思ってしまうが、長く症状が続くので治療を求めるようになるようである。

予後

一般的に、予後は良くない。発症が突然である場合、数年である程度症状が改善することもある。完治は希であり、数十年もの期間症状が続くケースも多く、寝たきりの状態が続いている患者も多い。早期治療を受けたケースでは予後が良いが、治療を受けずに自然治癒することはあまりない[55]。激しい運動・ストレス・他の病気などにより症状は悪化しやすい。免疫が落ちていることが多いため感染症に罹患しやすく、エイズ患者にしかならないような病気も合併する例があり注意が必要である。また、CFS患者は、平均寿命が短いという報告がなされている。心不全自殺などが主な理由だとされる。2005年11月に32歳で死亡したイギリス人女性に対して厳格な検死鑑定が行われ、CFSにより脱水症状を起こし尿を産生することができず死亡したとされた[56]。これにより2006年6月13日、イギリスにおける初の公的なCFSによる死とされた[56][注 2]。彼女の脊髄には炎症が発見された。

歴史

CFSは比較的新しい疾病概念であるが、古代医学の巨人ガレノス(西暦130~201年)の著書の中にもCFSの病態のように思われる記述が残っている[57]。18世紀にも裕福層に多く同様の病態の患者がいた記録が残っており、著名人の中でも、フローレンス・ナイチンゲール[58]チャールズ・ダーウィン等も同様の病状のようであったようだという記録が残っている。

1930年代から1950年代にかけて、世界各国60ヶ所以上で発症例が報告された。主な国はアメリカ・イギリス・オーストラリア・アイスランド・ドイツである。当時はCFSという概念がなく、発症した病院名や地域の名をとり、ロイヤルフリー病・アイスランド病などと呼ばれ、異形ポリオ・集団ヒステリーなどではないかと推察されていた。

1930年代後半に、筋痛性脳脊髄炎(Myalgic Encephalomyelitis)という名で免疫・神経学的な研究がなされ、WHOによりCFSは、中枢神経系の病気であると、1969年に分類されている。そして、1992、1993年には、"ME(筋痛性脳脊髄炎)"と"CFS(慢性疲労症候群)" 両疾病概念は、WHOの国際疾病分類 ICD-10 G93.3 PVFS(感染症後疲労症候群)にまとめられた。

1984年には、アメリカ・ネバダ州にある人口約2万人のインクラインで、人口の約1%にあたる約200名が強い疲労などを訴えた(ネバダ・ミステリー)。アメリカ疾病予防管理センターが調査に乗り出し、病名を慢性疲労症候群 (Chronic Fatigue Syndrome) とした。1988年には診断基準も作成された。当初、未知のウイルスの関連が考えられていたが、現在は否定されている。 ただ、一部の症例ではウイルスや他の病原体が原因となっている可能性があると報告されている。

日本ではあまり関心を持たれてはいなかったが、1991年に、厚生省のCFS調査研究班が発足。1993年には、日本における診断基準を満たす患者が、474例報告された。以後、阪大を中心に、CFSの研究・診察が行われた。2005年には、大阪市立大学医学部に疲労クリニカルセンターが設立された。一般的な疲労を含み、CFSの研究・診察を行っている。ただし先に医療機関の対応の項で述べたように,大阪市立大学医学部疲労クリニカルセンターが外来患者をすべて受けいれ治験等を行っているわけではないことに留意する必要がある。

諸外国でも研究が進められ、生理学的な異常が多く報告されるようになっている。2001年には、イギリスの保健省首席医務官が、すべての医師はCFSを深刻な病気とみなし治療するように指導した[59]。アメリカ・ヨーロッパ諸国・韓国等でも同様の動きがある。だが、医師の間ではCFSが身体的疾患か精神疾患か、またそもそもCFSという疾患が存在するのかといった議論が絶えない。しかし、徐々にではあるが世界の医療従事者の中でも認知が深まりつつある。

2006年には、アメリカ疾病予防管理センターが、C3(CFS Computational Challenge)[60][61]と題された、ゲノム学者・分子生物学者・数学者・エンジニア等で行った大々的な研究結果を報告し、CFSが存在すること、精神疾患であることを否定し身体的な病気であると宣言をした[62]。これに合わせアメリカ国内で、Get informed. Get diagnosed. Get help. [63][64]と題された認知キャンペーンを400万ドルをかけて開始し、アメリカ疾病予防管理センター長も、CFSを深刻な病として扱うことを訴えた[65][66]。病名の変更もアメリカで議論され、変更される予定である。2007年度、イギリス政府が再び、医師に真剣に治療するように指導し、新しい治療ガイドライン[67]を発布した。

日本においては、厚生労働省CFS研究班が廃止され未だ政府によりCFSを医療従事者に診察・治療を行う指導は行っていない。

啓発デー

5月12日は、慢性疲労症候群世界啓発デーとして知られている[68][69]。この日、慢性疲労症候群の患者や関係者が、一般の人々、政策決定者、医療従事者などに、慢性疲労症候群の症状、診断、治療について啓発し、この複雑な疾患への理解を求める。日本においても開催される[70][71]。実際にはこの啓発デーは、線維筋痛症化学物質過敏症といった疾患と合同で開催されており、"May 12th International Awareness Day"と称されている[72]。大規模なライトアップイベントで知られる[73]

5月12日はフローレンス・ナイチンゲールの誕生日であり、彼女がクリミア戦争後に慢性免疫神経系疾患のような病態になったことから、この日が選ばれた[58][74]

啓発デーにおいて、慢性疲労症候群の象徴色はであり、アウェアネス・リボンとしてブルーリボンが用いられる。


注釈

  1. ^ この研究は、Anthony Komaroff氏らが選んだ、その年の「ME/CFS研究における10個の重要な前進(10 IMPORTANT ADVANCES IN ME/CFS)」の1つに選ばれている[11][12]
  2. ^ ただし、アメリカやオーストラリアではそれ以前にME/CFSが公的な死因として既に認められていた[56]

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