ティワナク ティワナク期および関連する現代先住民の遺伝的系統

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ティワナク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/14 03:35 UTC 版)

ティワナク期および関連する現代先住民の遺伝的系統

ティワナク遺跡がある同地には、現在アイマラ族と呼ばれる人々が住んでいる。しかし、アイマラ族とティワナク文化を担った人たちとの関係は、科学的にはまだ証明されていない。ティワナク社会を担っていた人々については、アイマラ説、プキーナ語族説など様々な説があるが、確定されていない。

近年、ウイルス学や分子遺伝学の研究がすすみ、ティワナク期の人骨の分析が行われている。日本もこの調査に参加している。

日本の愛知県がんセンター研究所疫学部の田島和夫教授を代表とする、科学研究費補助金(国際学術研究)(研究課題番号 07041171,09041195)に基づく、「南米先住民族の人類遺伝学的研究(Anthropo-genetics on Paleo-mongoloid in South America)」が平成7年度から10年度にかけて行われた。

園田俊郎、田島和雄、故宝来聡らは、チリのアタカマ砂漠出土のミイラ(ティワナク期)からヒトヘモグロビンβ鎖遺伝子、およびHTLV-I(ヒトT細胞好性白血病ウイルス)遺伝子(pX領域の158bp)の抽出に成功している。両遺伝子についてはクローニングすることで、塩基配列を決定し、ヒトヘモグロビンβ鎖遺伝子についてはまったく変位が見られず、HTLV-IのプロウイルスpX領域158bpの遺伝子では現存する先住民で2つの型(日本人型と1塩基の変異型)に大別され、ミイラのそれは日本人ウイルスと同型であった、という[24]。さらにミイラの骨組織から採取したミトコンドリア遺伝子塩基配列から現存する先住民族とミイラが類似した分布様式を示すことを明らかにした。

また、日本におけるミトコンドリアDNA研究の第一人者であった総合研究大学院大学の故宝来聡助教授やチリの人類学者ルイス・カルティエールらが、日本本土や沖縄アイヌ、他のアジア諸国のDNA、および、南米先住民(チリ、ボリビア、コロンビアブラジルなどに現存する6部族178人)、ティワナク期のミイラの骨標本56体分について、DNAの分析を行っている。

特に、南米の先住民および古代人骨の合計234人分の420bpの塩基配列を比較したところ、77の異なるタイプが見られた。現存する先住民における集団間の塩基配列の偏位は相対的に大きくなるが、ミイラ間ではその隔たりが極めて小さくなるという。これら集団間の系統樹分析によると、ミイラの場合、4個の単系統に分類されるが、大別すると南ペルー群と北チリ群に2分される[25]

チリのアタカマ砂漠出土標本(ティワナク期)から採取したDNAは、現在のアイマラ先住民に系統的には最も近く、ペルーのティワナク関連人骨では現存するケチュアに近く、チリ出土のティワナク関連人骨は、チリ出土のインカ関連人骨サンプルのDNAに近いという結果が出ている。

また、チリの研究者Francisco Rothhammerによれば、ボリビアのティワナク遺跡から出土した18体のサンプルのうち、これらのミトコンドリアDNAは13のタイプにわかれ、それらを現存するアイマラやケチュア、アマゾン地域のDNAと比較したところ、アイマラはアタカマ砂漠出土ミイラのDNAに近く、ティワナクはアマゾン地域の先住民のDNAに近いという。ティワナク人骨のDNAは、系統樹によれば、アイマラとはやや離れており、むしろケチュアに近いという[26]。 ただし、これについては、研究者自身が、そのサンプル数が少ないという問題点があることにも触れている。

考古学的に見れば、アタカマ砂漠の人骨が果たして、ボリビアのティワナクそのものに住んでいた民族集団と同じ系統かどうかは疑問が残っているが(DNA研究でもチリ共和国のアタカマ砂漠の遺跡出土人骨から得たDNAと、ボリビア多民族国・ティワナク遺跡出土人骨から得たDNAでは系統樹から見ればやや離れている)、その問題に迫る非常に重要な結果となっている。

考古学的遺物の様式や分布から、ティワナクは一集団による政治体制ではなく、複数の民族集団による政治体制であったとするモデルもあるが、ウイルス学遺伝学からの結果は、それを裏付ける形となっている。

ただし、注意しなければならないのは、必ずしも遺伝的・形質的形態と文化(考古学的な物質文化)は、同じではないということである。ある文化を共有する集団内部でも、周囲の集団との(一部における)通婚をとおして、遺伝的・形質的差異が生じうることも考慮しなければならない。日本人でも、細かく見れば、遺伝的・形質的差異があり、地域ごとにかなり異なっているというのが、よい例である。


  1. ^ 例えば、Albarracin-JordanやClaudia Riveraなど
  2. ^ かつてはPonce Sanginesなどのボリビア人研究者が唱えていた。
  3. ^ Benett, Ponce, Kolataなどがこの立場をとった。
  4. ^ Kolata; Janusekなど
  5. ^ 複数のボリヴィア人考古学者からの主執筆者への私信による
  6. ^ "Tiwanaku and its :Hinterland" Vol.2. Smithsonian Institution Press, Washington and London.A.Kolata ed.2003
  7. ^ Ponce Sanginés 1976(1972):62
  8. ^ Kolata&Mathews 1988 cited in Janusek 1994:64
  9. ^ アメリカ人考古学者Alan Kolata 1991:1996 などの立場
  10. ^ アメリカ人考古学者C.Ericksonやカナダ人考古学者D.Grafamなどの立場
  11. ^ ボリビア人考古学者 Albarracin-Jordan1996
  12. ^ 英語レイズドフィールドスペイン語でカメリョーネス
  13. ^ Kolata 1986
  14. ^ Kolata 1991
  15. ^ Kolata 1993; 1996
  16. ^ a b c ibids.
  17. ^ Erickson 1988
  18. ^ a b Erickson 1993
  19. ^ Albarracin-Jordan1996
  20. ^ a b Kolata 1991; 1996
  21. ^ Erickson 1999
  22. ^ Magiligan and Goldstein 2001
  23. ^ Swartley 2000;Bandy 2004
  24. ^ 園田 他 1999:17(科学研究費補助金研究成果報告書 所収)
  25. ^ 宝来 他1999:29,前掲書 所収
  26. ^ Rothammer et al. 2003
  27. ^ a b c d e Nakajima 2004
  28. ^ a b c Bandy 2004;Nakajima 2004
  29. ^ PIWA 1992:55
  30. ^ ただし、あくまで計算上の数値(Swartley 2000,Nakajima 2004)
  31. ^ Swartley 2000; Bandy 2004; Nakajima 2004






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