カポジ肉腫
【概要】 略称KS。血管やリンパ管の内側を裏うちしている細胞(=内皮細胞)から起こる悪性腫瘍。腫瘍組織からHHV-8が証明されており、発癌に関わっている。また免疫不全と関連があり日和見腫瘍と考えられる。
【疫学】 HHV-8の感染様式と関連している。ヨーロッパの局地の老人やアフリカの小児に見られ、臓器移植を受けたあと(平均17ヶ月)で稀に発生していた。アメリカでも日本でも血友病のエイズでは1%以下の発生率。アメリカでは1985年ゲイを中心にしたエイズの半数がKSであったが、背景が変わった10年後では18%に減った。さらにHAART時代以後は先進国での発生率減少が著しいがアフリカでは増加している。
【症状】 皮膚・粘膜に原発し、次第に全身に転移する。出血斑のような外見、平坦から盛り上がり癒合し潰瘍を作ることがある。美容的な問題が大きい。リンパ浮腫を伴う咽頭や下肢・足底では疼痛がある。剖検時は7割以上の症例で消化管、呼吸器、リンパ節への転移がみられる。進行した免疫不全、内臓転移、発熱・盗汗・体重減少の全身症状を伴うものは予後が不良である。

カポジ肉腫の治療
【治療】 治療は局所的な(1)放射線療法、(2)液体窒素による凍結療法。(3)ビンブラスチンの局注、(4)αインターフェロン(保険摘要なし)がある。全身や内臓に転移したものには、(5)抗癌剤:リポ化ドキソルビシン(Doxil:ドキシル:エイズ治療薬研究班より入手)、エトポシド、パクリタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、ドキソルビシンなどを単独あるいは併用で使用する。
【予後】 治療前のCD4数が400以上のもの、数が少なく増加傾向が緩徐なもの、全身症状がないものは治療への反応性も良い。HAART以前は抗癌剤による完全寛解は1~4%、部分寛解は10~40%で再発も多く、平均生存期間は18ケ月であった。ドキシルとブレオマイシンの併用療法では、完全寛解5.8%、部分寛解52.8%であった。
《参照》 日和見腫瘍、 ABV、 ビンクリスチン、 ビンブラスチン、 ブレオマイシン、 アドリアマイシン、 リポソーマルドキソルビシン、 パクリタキセル、 インターフェロン

カポジ肉腫の診断
【診断】 (1) 確定診断:生検組織による病理診断である。(2) 臨床的診断:肉眼的には皮膚または粘膜に、1)特徴のある紅斑あるいは、2)すみれ色の斑状の病変をみとめること。ただし、これまでカポジ肉腫を見る機会の少なかった医師は推測で診断しない。(3)病変の広がりについては、レントゲン、内視鏡(生検は必ずしも必要ではない)、CT検査、ガリウム・シンチグラフィーなど。
【詳しく】 一般に病気の広がりとその速度が臨床的な悪性度を決めており、CD4細胞数が少なく(<200)他の日和見疾患の既往があるほど悪い。広がりとしては皮膚病変、口腔病変、消化管病変、肺病変、リンパ節、リンパ浮腫、全身症状(発熱、寝汗、10%以上の体重減少、下痢)があるほど予後不良である。

カポジ肉腫
(Kaposi's sarcoma から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/02 07:45 UTC 版)
カポジ肉腫(―にくしゅ、英: Kaposi's sarcoma)は、ヘルペスウイルス科のウイルスの一種によって引き起こされる肉腫。エイズ患者の末期に発症することで知られている。
歴史
- 1872年に皮膚病変肉腫としてハンガリーの医師モーリッツ・カポジ (w:Móric Kaposi) が報告した。これ以降、この病気は珍しい皮膚癌の一つとして位置付けられていた。
- 1994年にエイズ患者からヒトヘルペスウイルス8が発見される[1]。
原因
免疫力の極度に低下したヒトの血管内皮細胞に、ヒトヘルペスウイルス8(HHV-8:human herpesvirus 8、別名:カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス (KSHV:Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus))が日和見感染し、発がんさせることによって発症する(このウイルスは他にも一連の症候群を引き起こす)。病理学上は血管新生物の1つに分類されている(ICD-O コード 9140/3)。
カポジ肉腫を発症するのは、主に地中海系またはユダヤ系の高齢の男性、アフリカの一部地方出身の小児と若い男性、臓器移植を受けて免疫抑制剤を投与されている患者、そしてエイズ患者である。
臨床像
高齢の男性が発症する場合は、爪先や脚に紫色や濃い茶色の、数センチ大の単独の斑点ができる。斑点は出血しやすくなり、潰瘍化する。この場合のカポジ肉腫はほとんど転移せず、致命的にはならないのが特徴。
しかし、エイズ患者が発症するカポジ肉腫は悪性化しやすい。この場合は全身のどこにでもでき、数ヶ月以内に広がる。皮膚の他に口の中、リンパ節や内臓にもできる。特に消化管にできた場合、下痢と出血を引き起こす。
治療
カポジ肉腫が皮膚に少数できている場合は、手術または液体窒素で凍結させて除去する。多数できている場合は放射線療法を行う。肉腫の数が少なく、他の症状が全く出ていない場合は、症状が広がるまでは治療を受けないという選択も存在する。
悪性のカポジ肉腫患者で、体の免疫システムが正常な場合は、インターフェロンの投与や化学療法を行う。
それに対して免疫抑制剤の投与を受けている患者の場合、投与を中止すると腫瘍が消える場合がある。しかし免疫抑制剤の投与を継続しなければならない患者の場合、化学療法と放射線療法を行うが、投与していない患者と比べると予後はよくない。
エイズ患者が発症したカポジ肉腫は、HAART療法により患者の免疫機能が回復するにしたがい退縮へむかう。患者によっては肉腫の完全な消滅や長期間にわたる寛解も期待できる。
脚注
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