A級戦犯分祀案
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 15:42 UTC 版)
A級戦犯合祀に対しては、A級戦犯の国際的および国内的な扱い、靖国神社による合祀の妥当性、合祀取消としての「分祀」の可能性や是非、靖国神社側の自主的な対応の可能性、国から靖国神社への要求の可能性、などが議論となっている。 A級戦犯の扱い 詳細は「A級戦犯#主権回復後の赦免」を参照 いわゆるA級戦犯は、極東国際軍事裁判で戦争犯罪人と判決確定し、その後日本政府はサンフランシスコ講和条約 を結び、その第11条において「日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し」とあり、国際的(日本を含む)には戦争犯罪人であることは確定している。その発効後1952年6月以降、条約の第11条に基づいて極東国際軍事裁判に参加した全ての国の政府と交渉し、国会決議等により服役中の受刑者に対する恩赦と刑の執行終了・釈放の合意を形成し、生存していたA級戦犯者10名を含め全員を恩赦により刑の執行を終了し釈放した。但し刑期満了者は恩赦・減刑のしようがなく、靖国神社に合祀されている14名のうち死刑により刑の執行が満了している者7名(うち松井はB級戦争犯罪として)、収監中に死亡した者7名については死亡により権利能力を喪失したため恩赦・減刑の対象にはなり得ない(恩赦・減刑とは無罪とすることと異なる為)。1952年、恩給法改正では受刑者本人の恩給支給期間に拘禁期間を通算すると規定され、戦犯拘禁中の死者はすべて「法務死」とされた。1978年(昭和53年)秋、靖国神社にいわゆるA級戦犯が「昭和殉難者」として合祀された。翌1979年4月19日に新聞各紙が合祀を一斉に報道した。また2005年10月25日の衆議院において、当時の小泉内閣は、政府は第二次大戦終結後の極東国際軍事裁判所やその他の連合国戦争犯罪法廷の判決により、A級・B級・C級の戦争犯罪人として有罪判決を受けた軍人、軍属らが死刑や禁固刑などを受けたことについて、「我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない」と回答し、戦犯の名誉回復については「名誉」および「回復」の内容が明確ではないという理由で回答を避けた。上記経緯の解釈として、以下を含めた議論が続いている。 極東国際軍事裁判や判決は公正であったか。いずれにしても戦争責任は無いのか。 サンフランシスコ講和条約は、裁判全体を受諾したのか、単に判決結果のみを受諾したのか。 恩給法改正は、単なる遺族救済なのか、本人が名誉回復されたのか。 昭和天皇はA級戦犯合祀に不快感を抱いたかどうか(富田メモの解釈)。 この国際的な意味での戦争犯罪人であることと、国内的には法務死とされていること、この齟齬が国内外でのA級戦犯合祀に対する認識の差になっている側面がある(但しA級戦犯であった者でもその後国内外で活躍した者もいる)。その側面の解決の方法として提案されているものである。 A級戦犯合祀を不当または不適当とする立場からは、「合祀取消」による現状復旧案として分祀または廃祀案がある。 靖国神社の意見 靖国神社側はA級戦犯分祀案について「神道では分祀では分離できない、神はひとつになっており選別もできない」として、神道における分祀(分霊)とは、全国に同じ名前を冠する神社があちらこちらにあるように、ある神社から勧請されて同じ神霊をお分けする事であり、元の祭神と同一のものがまた別に出来上がること(いわゆるコピー)なので「分離」にはならない。また、一旦合祀した個々の神霊を遷すことはありえない。仮に全遺族が分祀に賛成しても分祀出来ないと答えている。 他の意見 1979年、春の例大祭で総理大臣大平正芳は参拝し、「A級戦犯あるいは大東亜戦争というものに対する審判は歴史がいたすであろう」と答えた。 戦後の靖国神社は一民間の宗教法人であり、どのような考え方で祭祀を行っても自由であり、国家や政治が介入して分祀を迫ることは、政教分離の原則に反しできない。1986年には神道政治連盟が分祀要請は憲法違反として抗議した。 哲学者の高橋哲哉は靖国神社は他の神社と異なるし、分祀の拒否は「日本の神社神道の古来の伝統ではない」として、分祀は不可能ではなく、靖国神社と遺族がそれを了承すれば済むと主張している。ただし、高橋はA級戦犯の分祀は戦争責任問題を矮小化するものであり、A級戦犯をスケープゴートにすることは昭和天皇が免責された東京裁判と構図が瓜二つであるとも批判している。また高橋は、野中広務内閣官房長官(当時)が1999年8月に「誰かが戦争の責任を負わなくてはならない」という発言についても戦争責任問題を矮小化する発言であり、その場の状況に流されて発言したことは御都合主義として批判している。また毎日新聞は分祀とは「祀る対象から外す」ことであり、可能だと主張している。 2006年に韓国の聯合ニュースは、仮にA級戦犯を外す事ができても、政治問題化が解消しないならば、意味が無いと主張した。 2015年8月に、靖国神社は共同通信社の質問に対して「自衛官が戦死しても靖国神社に祀ることはしない」と回答した。
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