2ストロークエンジンの場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/01/15 05:44 UTC 版)
「ポート加工」の記事における「2ストロークエンジンの場合」の解説
2ストロークエンジンの場合はシリンダー内壁のポートの位置や形状によりエンジンの出力特性が大きく左右される為、2ストロークエンジンのポート加工は4ストロークエンジンのポート加工で述べられた全ての課題に加えて次の事項について個別に検討を行わねばならない。 掃気の品質確保 2ストロークエンジンはピストン下降によるクランクケース圧力を利用した1行程の掃気行程によって、シリンダー内の燃焼ガスと混合気が一気に入れ替えられる為、出来るだけ燃焼ガスを残さず新鮮な混合気でシリンダーが満たされるように、掃気ポートと排気ポートの位置関係は極めて慎重に決定されなければならない。 パワーバンドの幅 2ストロークエンジンは波動物理学に大きく依存している為、最大出力が発揮出来るパワーバンドは狭い傾向がある。ポート加工によりパワーバンドを変更する際には、余りにも高出力を狙いすぎて出力特性がピーキーになりすぎないように注意しなければならない。 ポートタイミングとポート持続時間 2ストロークエンジンはポペットバルブが存在しない代わりに、シリンダー内壁のどの位置にポートが存在するかによって吸気と排気のタイミングが決定される。また、ポートの開いている大きさによって開口時間と開口面積が左右される。ポートの形状が同一ながらもシリンダーのより高所に位置する場合や、ポートの位置と横幅が同一で縦幅のみが長い場合は、ポートタイミングが変更され開口時間と開口面積の両方が増大する。ポートの位置と縦幅が同一で横幅のみが広くなった場合は、ポートタイミングと開口時間に変化はないが開口面積のみ増大する事になる。 ポートタイミングの変化は2ストロークエンジンの出力特性そのものを大きく変化させる為、ポート加工を行う際にはシリンダー縦軸側の切削は横軸方向の切削に比べてより注意深く行われなければならない。 体積効率 4ストロークエンジンにもヘルムホルツ共鳴などのパルスや圧力による吸排気への影響があるが、2ストロークエンジンの場合は4ストロークとは比較にならない程これらの圧力やパルスによる体積効率への影響が大きい為、インテークマニホールド及びインテークチャンバーの設計や、エキゾーストチャンバーの形状や容量の選択も非常に重要となる。 勿論、吸気・排気ポート共にチャンバーからの反射波の影響を最大限利用出来るようにポートタイミングを決定しなければならない。 シリンダーの熱流量 2ストロークエンジンのシリンダー内部の熱の流れは吸排気ポートのレイアウトに完全に依存している。空冷式の場合は外気によるシリンダーの直接冷却の他に混合気による冷却が非常に大きな比重を占める事にもなる。しかし、シリンダーの側面に開けられたポート周辺は時として外気によるシリンダーの冷却を阻害する場合があり、極端に大きなポートを開ける事でシリンダーやピストンに部分的なオーバーヒートが発生する場合もある。 水冷式の場合はこれを防ぐ為にポートの周囲にウォータージャケットが通るように設計される事が多い。その為ポートの後加工がウォータージャケットによって大きく制限される場合がある。 ポートの大きさとピストンリングの耐久性の問題 ピストンリングは出来るだけ機械的なストレスを受ける事を避け、ピストン冷却を助ける為に常時シリンダー内壁に密着している事が望ましいが、2ストロークエンジンのシリンダーの吸排気ポートはピストンリングがシリンダー内壁から浮き上がり、ポート下端に接触する際に4ストロークエンジンでは起こりえない余計な衝撃が加えられる事も意味する為、本来余り好ましい構造とは言えない。 さらにポート加工によりポートを拡大した場合にはピストンリングに掛かる負荷は更に大きくなり、横方向に広いポートは時としてリングがポートに引っ掛かる事態を招き、リングの寿命を大きく縮める事にも繋がりかねない。 また、ピストンリングには必ず1カ所切り欠きが存在し、ピストンに複数本セットする場合には各リングの切り欠きを180度ずつずらして圧縮漏れを最低限に留める事が基本である為、シリンダー内に複数のポートを設ける場合にはリングの切り欠きの位置関係も考慮した上でポート位置を選択しなければならない。 ポートの大きさとピストンスカートの耐久性の問題 ピストンは自身の冷却の為にシリンダー内壁に常に接触しなければならない上、クランクの回転運動により常にシリンダーの横方向に強い応力が掛かっている。2ストロークエンジンの吸排気ポートはピストンが部分的にシリンダーに接触出来ない局面を生む為、ポートタイミングと開口時間の設定によってはピストンの部分的なオーバーヒートを招きかねない恐れがあり、更にはクランクの回転方向上にポートを配置した場合にはピストントップやピストンスカートがポートに引っ掛かって破損するリスクも発生する事になる。 この為、ポートの設計はこのピストンに掛かる横方向の応力によりピストンスカートがポートに引っ掛からない為の位置取りや、ピストンの冷却を阻害しないような位置取りが常に求められる事になる。 エンジンそのものの構成 2ストロークエンジン特有のシリンダー側面のポートは、時としてエンジンの構成に大きな影響を及ぼす。これは主に2気筒以上のマルチシリンダーエンジンに顕著であり、シリンダーとポートのデザインによってはエンジンの横幅が大きくなりすぎる恐れがある。また、並列シリンダーはそれだけでポート配置の自由度を下げる事にもなる。これが最も顕著に表れた一例がカワサキ・KR250のロータリーディスクバルブ式タンデムツインエンジンであり、並列2気筒でありながらも横幅が余りにも広すぎた為に車体の縦方向に対してシリンダーを直列に配置するしかないという事態を生んでしまった。 これを解決する為に、その後の多くの2ストローク多気筒エンジンではV型2気筒やV型4気筒、スクエア4気筒といったデザインが採用された。 シリンダーのひずみ エンジンの圧縮圧力を密封する能力、シリンダーとピストンおよびピストンリングの寿命と冷却効率等の全ての要素がピストンとリング、シリンダー間の密着度によって左右される為、シリンダーの歪みはこれらの要素に計り知れない悪影響を与える。 シリンダーの歪みはピストンの上下動による機械的ストレスによっても引き起こされるが、2ストロークエンジンの場合、シリンダーに開けられた吸排気ポートの配置によってはシリンダーの部分的な機械強度の低下や放熱の悪化などによって、シリンダーの特定方向への歪みがより一層起きやすくなる懸念もある。特に、吸気ポートが清涼な混合気で冷やされている間に、排気ポート側は高熱の排気ガスで常に熱的なストレスを受け続ける事になる為、部分的なひずみの問題はより一層顕著となる。 冷却系統なども考慮した慎重なポートデザインはこれらの熱問題を最小限に留める事が可能であるが、不規則且つ無分別なポート拡大から生じる熱変形は、エンジンのパワーと耐久性の両方に悪影響を与える。 燃焼の乱れ 掃気の際にシリンダーの中に入ってくる混合気が乱流であるほど、燃焼効率の向上に繋がるが、皮肉な事に2ストロークエンジンに求められる良い掃気流は、4ストロークエンジンの激しく早い吸気乱流とは異なりより速度が遅く、層流に近い静かな流れが求められる為、ポートの仕上げや形状選定も4ストロークとは異なる観点から行われる必要がある。
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