近代戦争の研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/21 05:15 UTC 版)
「イヴァン・ブロッホ (銀行家)」の記事における「近代戦争の研究」の解説
ブロッホは近代の戦争や、その戦術・戦略・政治との関係について詳細に研究し、ヨーロッパで広く読まれた。ブロッホの論はこのようであった。 新しい軍事技術(無煙火薬の発明、小銃の設計の進化、ハイラム・マキシムによるマキシム機関銃の発明)は、騎兵や、銃剣を持った歩兵による突撃など、開けた地上における作戦行動を時代遅れにする。ブロッホは、大きな軍事力同士の戦争は塹壕戦となるだろうとし、急襲により決定的勝利を収めることは過去のものになるだろうと述べた。ブロッホは、塹壕の兵士は開けた陸上を前進する歩兵に対し4倍の有利さを持つとも計算している。 前の時代の戦争では数万人規模の軍隊がぶつかった事に対し、産業社会においては数百万人規模の軍隊を参加させることにより、結果として膠着(ステイルメイト)に陥るだろうと述べている。戦線がいたるところに作られ、この種の戦争は迅速には解決しないであろうともしている。 戦争は産業力同士の決闘となり、完全に経済的消耗の様相を呈する。経済的・社会的混乱により飢餓、疫病、全社会的組織の解体、そして革命の危機が切迫したものとなる。 1899年、軍拡競争が財政の重荷となる中、ロシア皇帝ニコライ2世は万国平和会議開催を呼びかけオランダのデン・ハーグに列強各国代表が参加しハーグ陸戦条約などの交戦規定や国際紛争平和的処理条約が採択された。ブロッホも、おそらくニコライ2世の招待で参加しており、参加26カ国の外交団の使節らに著書を配ったが、その甲斐は余りなかった。イギリスのジャーナリスト、ウィリアム・トーマス・ステッドもブロッホの説を広めるのに尽力した。しかしブロッホによる理論上の研究は毎回無視されるか拒否された。1901年、ブロッホはイギリスの The Contemporary Review に次のように寄稿した。 14年にわたり戦争の諸相を研究することに忙しくしてきたが、剣を鋤に変えてゆく注目すべき進化が厳しく目を光らせている専門家にすらほとんど無視されていることに驚いている。将来の戦争に関しての著作で、私はこの興味深い過程を図解する努力を払った。しかし専門家に対する著作であるため私は細部に入らざるを得ず、分析は3,084ページにも及んでしまった。そこに蓄積された事実、そこから流れ出す結論は、共同体のなかの最も権力ある階級の既得権に対し即座の改革の具現化を迫り余りにも強く対立するものである。そして私は最初からこれを予見していた。私が予見できなかったのは頑固さが、行動をとることへのためらいとなっただけでなく、事実の歪曲まで行ったことである。愛国心はおおいに尊敬されるべきものだが、階級の利益と一体化したときは危険なものになる。軍事に係わるカーストがすでに死んだものごとの思い出にすがりつく不変なさまは痛ましくも立派なものである。不幸なことに金がかかり危険なものでもある。それゆえ私はいま、その死活的利益が危機にありその意見が決定的なものとなる英国の大衆に対し、思い切って呼び掛けているのだ。 ヨーロッパの愛国主義者たちは動かなかった。フランスの騎兵司令官やイギリスの歩兵司令官らは、ブロッホのいう途方もない戦争である第一次世界大戦が起こってはじめて、ブロッホの議論を塹壕戦の実地で学ばされることになった。ロシアやドイツの君主も、ブロッホが警告した革命の危機を、ドイツ革命やロシア革命の形で身をもって体験することとなった。 ブロッホの予見は、砲兵など間接的な火力の戦術的・戦略的重要性を低く見積もったこと、飛行機や戦車の発達を予測できなかったことにより若干限定されたものとなっている。また線路を使わない自動車による輸送の可能性の予測にも失敗した。これらの見落としは1930年代以前には彼の広い見解を傷つけるほど重要なものではなかった。 ブロッホの理論は制度的障壁に関しても調査する分析的才能に裏打ちされており、この分析のために軍事の既成の権威が理論の受け入れを拒んだにもかかわらず、出版後も長く生き続けた。現代の理論はブロッホを1900年代初頭のクラウゼヴィッツとも扱っている。ある論文は、ブロッホの理論と当時の軍事専門家の相互関係について調査しているが、彼らはブロッホの計算が正しくともその全体の結論が士気に悪影響を与えるとしてブロッホの論を却下する傾向にあったという。 ブロッホが出資した「国際戦争・平和博物館」(An International Museum of War and Peace)はブロッホの死後の1902年、スイスのルツェルンに開設されている。
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