西部劇の変貌とは? わかりやすく解説

西部劇の変貌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/03 15:26 UTC 版)

西部劇」の記事における「西部劇の変貌」の解説

西部劇が描く人物像基本的に主人公白人で、強く正しくて勧善懲悪』をストーリーの骨子とし、そこへ応援に来たりする(陸軍の)騎兵隊は「善役」であり、それに刃向う先住民インディアンを「悪役」としたものが多い。そして劇中描かれ白人インディアンとの戦いには史実も多いが、戦いの原因土地領有権)に触れたものはほとんどなかった。 しかし、やがて史実とは違う(白人都合のいい)内容対す反発反省西部劇衰退させる強い動因となった戦後多様化する価値観倫理観変化勧善懲悪ドラマがついていけなくなったのである1940年代半ば頃から、フロンティア精神肯定してそこに主人公(ヒーロー)がいて無法者先住民を倒す「西部劇」という一つ図式崩れ始めた1950年デルマー・デイヴィス監督折れた矢』は先住民他者白人コミュニティを脅かす存在という図式ではなく先住民側から描き戦いを好むのではなく平和を求める彼らの姿を描いた。それは、当時黒人地位向上を目指す公民権運動次第激しくなる時代入り人権意識が高まる中でインディアン黒人描き方批判されるようになって単なる勧善懲悪では有り得ない現実浮かび上がらせ、それまで西部劇捨象してきた問題に対して向き合わざるを得なくなったことであった。 そしてもう一つ図式である勧善懲悪で、開拓者精神肯定する強いヒーローがいて悪を倒すそれまで図式崩れていった。自分の名誉のためだけにインディアン見下し結果自身連隊壊滅させてしまう騎兵隊中佐(『アパッチ砦』のヘンリー・フォンダ)、町の誰からも助けてもらえない保安官(『真昼の決闘』のゲイリー・クーパー)、復讐執念を燃やす男(『捜索者』のジョン・ウェイン)、農園取り戻すだけのために賞金稼ぎとなり人を殺す農園主(『裸の拍車』のジェームズ・ステュアート)が主人公西部劇40年代から50年代にかけ多数製作されて、それまで映画にあった悪に立ち向かうヒーロー像がもはや存在せず何が正しくて何が悪いか、明らかにしないままにただ主人公人間らしさが主になって、そこではもはやヒーロー描きにくくなったのである。 この時期になると、善悪区別曖昧複雑な作品多くなった。痛快豪快なアクションヒーロー悪役との対決派手なガンさばきを見せたりして見せ場はあっても全体として雰囲気重く暗いものになったラオール・ウォルシュ監督の『死の谷』「追跡」、アンソニー・マン監督の『裸の拍車』、キング・ヴィダー監督の「白昼の決闘」、ヘンリー・キング監督の「拳銃王」「無頼の群」、ジョン・スタージェス監督の「六番目の男」、ジョージ・シャーマン監督の「生まれながら無宿者」、デルマー・デイヴィス監督の『縛り首の木』、ニコラス・レイ監督の『大砂塵』、エドワード・ドミトリク監督の『ワーロック』、そしてフレッド・ジンネマン監督の『真昼の決闘』などの主人公誰からも信用されない、心にトラウマがあったり、死にたい願ったり孤立無援戦い追い込まれたりしている。それは第二次大戦終わって未曽有の戦争体験したアメリカ社会が、それまであった「強く正しヒーロー大活躍する単純明快西部劇作りにくくなったことを示している」と川本三郎述べている。 そしてそれはまた、この当時ハリウッド襲った赤狩り」という暗い空気の中で、アンソニー・マンフレッド・ジンネマン描いた世界が西部劇の変貌をもたらしたとも言われている。 これが1960年代に入ると、公民権運動が高まると同時に西部劇衰退を招くこととなった1960年ジョン・F・ケネディ大統領就任し人種差別撤廃に強い姿勢臨みこれに伴い従来の製作コード通用しなくなり製作本数激減した。そしてイタリアなどでいわゆるマカロニ・ウェスタン呼ばれる多く西部劇作られ始めると、サム・ペキンパー監督ワイルドバンチ』のようにマカロニウエスタン逆に影響受けた作品数多く生まれたこうした状況から西部劇それまで単純な善悪二元論では立ち行かなくなり1950年代初頭には年間100本ほどの製作本数が、四半世紀後の1970年代後半にはわずか1ケタの製作本数激減していく。 やがてニューシネマ台頭ジョージ・ロイ・ヒル監督ポール・ニューマンロバート・レッドフォード主演の『明日に向って撃て!のような秀作生まれ、またアーサー・ペン監督小さな巨人』とラルフ・ネルソン監督ソルジャー・ブルー』が1970年公開され、『ソルジャー・ブルー』は1864年サンドクリークの虐殺を基に、被害者である先住民立場立って虐殺事件描き当時話題になった作品である。 60年代から70年代になるとマカロニ・ウエスタン影響を受けながらも、バート・ケネディ監督の「続・荒野の七人」「夕陽に立つ保安官」、リチャード・ブルックス監督の「プロフェッショナル」「弾丸を噛め」、ドン・シーゲル監督クリント・イーストウッド主演の「真昼の死闘」とジョン・ウェイン主演の『ラスト・シューティスト』、ラルフ・ネルソン監督の「砦の29人」、マーク・ライデル監督ジョン・ウェイン主演の「11人のカウボーイ」、ロバート・シオドマク監督の「カスター将軍」、マイケル・ウイナー監督バート・ランカスター主演の「追跡者」、サム・ペキンパー監督チャールトン・ヘストンジェームズ・コバーン主演ダンディー少佐」、ウィリアム・ホールデンロバート・ライアン主演ワイルド・バンチ」、アンドリュー・V・マクラグレン監督チャールトン・ヘストン主演の『大いなる決闘』、ベテランハワード・ホークス監督の『エル・ドラド』『リオ・ロボ』、ジョン・スタージェス監督ワイアット・アープ決闘後を描いたジェームズ・ガーナー主演の「墓石と決闘」、ヘンリー・ハサウェイ監督スティーブ・マックイーン主演ネバダ・スミス」とジョン・ウェイン主演の『エルダー兄弟』そして『勇気ある追跡』などの西部劇製作された。 1970年代以後になると、クリント・イーストウッド主演監督『荒野のストレンジャー』1973年)・『アウトロー』1976年)・『ペイルライダー』(1985年)・『許されざる者』(1992年)、ローレンス・カスダン監督の『シルバラード』(1985年)、ケビン・コスナー主演の『ワイアット・アープ』(1994年)、ケビン・コスナー主演監督の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)・『ワイルド・レンジ 最後の銃撃』(2003年)などの秀作生まれている。しかしかつて活劇映画として人気のあった頃の西部劇魅力はすでに失われている。 現在において西部劇製作されているが数少なく過去の作品肩を並べるような傑作世に送り出していない。物語りとしての図式出来ず西部劇としてのジャンル確立されていないからである。その一方で時代考証衣装設定ガン・アクション過去の作品とは比較できないほどの正確さ表現されており、『トゥームストーンのような娯楽性富んだアクション映画作られている。

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