英語圏の研究や論説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/30 07:50 UTC 版)
「南京事件論争史」の記事における「英語圏の研究や論説」の解説
英語圏の研究では、中国系は「大虐殺派」の影響が大きいが、D.アスキュー、ボブ・T.ワカバヤシ、ジョシュア・フォーゲル、T.ブルック など、政治的利害を排した「中間派」の研究が増加している。 2000年には中間派の山本昌弘が著書『Nanking: Anatomy of an Atrocity』を発表した。2000年12月、日本会議国際広報委員会、大原康男、竹本忠雄が『再審「南京大虐殺」―世界に訴える日本の冤罪』 を日本語と英語で発表した。 2001年7月、ガーディアン東京特派員ジョナサン・ワッツは「虐殺(massacre)」でなく「南京事件」と表記したり、「30万の虐殺に対して犠牲の真相は不明」とすることはdownplay(軽視)であると報道した。 2004年11月9日、日本軍の戦時中の残虐行為を描く新作バターン死の行進を執筆中であったアイリス・チャンが自殺した。オリバー・オーガストはタイムズ記事で、チャンは日本から受けた中国人の被害がフラッシュバックすることに悩んでいたとして、「アイリス・チャンはレイプ・オブ・南京の最後の被害者か?」と述べた。 2005年4月、BBCは、歴史学者によれば南京虐殺の被害者は25万人から30万人にのぼり、多くは女性と子供だった。しかし日本政府と日本人の一部の学者はこうした大規模な虐殺ではなかったと否定しているが、記憶を削除することはできない、証言を否定することはできないとしてジョン・マギーやミニー・ヴォートリンの記録があり、また日本人のなかにも「ポテトの串刺しのように中国人を殺した」と元日本兵東史郎は証言し、家永三郎は日本軍の残虐行為を教科書に掲載するために政府と裁判で争ったがある一方で、永野茂門法相は虐殺を否定し、中国映画『南京1937』は反発を受けて上映されるまで数年かかった、と報道した。また同月にはユダヤ系コラムニストのポール・グリーンバーグが、日本の教科書では「南京事件」と表記しているそうだが、The Rape of Nankingは事件ではなく6週間続いた虐殺であるとした。グリーンバーグに対して在米日本大使館の北野充は日本の教科書では両方が使用されており、また日本政府はこれまでも過去に向き合ってきたと反論した。しかしグリーンバーグは、日本軍は女性を慰安婦にしたり、捕虜の生体実験などをやるなど、300万から400万人を奴隷にしたり殺したというのが歴史学者たちの定説で、日本はドイツのように歴史の真実を直視していないと反論し、2007年にも南京事件という言い方は、ドイツの教科書においてホロコーストを「アウシュビッツ事件」と婉曲表現するようなものと批判した。また北野充はアメリカメディアでは日本の戦後の対応や政策について無理解な論説を掲載する場合もあり、反日報道には即時反論すべきであると論じている。他方、2005年には東中野修道の著書や論文の英語版が発表刊行され、2008年には白石隆、秦郁彦、アスキュー、読売新聞社戦争責任検証委員会、北村稔、アーヴィン・クックス、ヨッシャ・フォーゲル、吹浦忠正らの論文集英語版An Overview of the Nanjing Debateが刊行された。 2007年、大阪教育大学の馬暁華は中国系アメリカ人にとって、日本の戦争犯罪は「中国人ホロコースト」であり、ユダヤ人へのホロコーストよりも恐ろしく、破壊的打撃であると主張した。にも関わらず、アメリカの学校ではユダヤ人へのホロコーストは授業で扱われるのに、中国人へのホロコーストは扱われていなかったので、サンフランシスコの公立学校での歴史の授業で第二次大戦での中国の被害について扱いようにキャンペーンを行い、取り入れることに成功した。また、2001年のカリフォルニア州の世論調査では、半数以上が日本は第二次大戦の犯罪についてアメリカに謝罪すべきであると回答、59%がアメリカは日本に原爆投下で謝罪する必要はないと回答したと紹介し、さらに中国外務省の朱鎔基がTBSで「日本は自らの戦争犯罪に対して中国人民に一度も謝罪したことはない」ので今後も謝罪を要求していくと述べたと書いている。 2010年4月、J.リースはデイリー・メールで、日本は酔っぱらいの失言のように「虐殺」を「事件」と言い換えると批判した。 2012年、Chi-Wei Manはアイリス・チャンと東中野修道の「小説(novel)」を比較した論文で、中国は何十万人が被害にあったが賠償を受けていないためレイプ・オブ・南京といい、日本は中国による作り話で中傷され、日本の名誉と品位を傷つけているから「南京事件」という、と主張した。またマンは、スタンフォード監獄実験では、一般の学生を看守役と囚人役にして監獄で生活すると看守役による囚人役への虐待がエスカレートしたという実験結果として得られ、心理学者ジンバルドーは普通の人も特殊な状況下にあると悪魔になるルシファー効果と呼んだが、アイリス・チャンが著書で描いた南京戦での日本軍のサディステックな残虐行為、百人斬り競争や、集団強姦、捕虜殺害、異常な殺害方法などを理解するにはこのルシファー効果が適切であろうと指摘した。チャンは東史郎証言にもとづき「捕虜は全て処刑せよ」との旅団司令官は命じたとしたが、これが真実であれば、スタンフォード監獄実験で看守役が我を忘れたように日本軍人も我を忘れたのであろうとマンは評した。
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