異端の思想としてのゲーム理論とは? わかりやすく解説

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異端の思想としてのゲーム理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 17:01 UTC 版)

ゲーム理論」の記事における「異端の思想としてのゲーム理論」の解説

ゲーム理論登場普及する以前に「主流派」とか「正統派」と呼ばれる位置占めていた新古典派経済学ゲーム理論比較して次の2つ理論的特徴有した。 (1)合理性仮定 経済主体首尾一貫した行動基準の下で合理的に行動する。 (2)プライステイカー仮定 完全競争的な市場において、需要と供給一致するように価格決定される経済学において合理性とは完備性(英: completeness)と推移性(英: transitivity)が同時に満たされることを意味しており、合理的な経済主体行動制約付き最適化問題として数学的に定式化することができる。プライステイカー仮定経済主体選択市場価格一切影響与えないことを意味しており、意思決定戦略的側面価格決定プロセスそのもの捨象している。これらの方法論ポール・サミュエルソン1970年ノーベル賞受賞者)の主著経済分析基礎』によって体系化されるものであるが、これによって本来複雑極まりないはずの経済主体間の相互依存関係が「一定とされる市場価格」を媒介として各個人にとって個別最適化問題帰着することが可能となる。 経済主体同士対面における戦略的利己的行動具体的な経済主体影響力発揮する市場プロセス重視していたオーストリア学派上記2つめの特徴をもつ新古典派経済学早い段階から批判しており、このオーストリア学派系譜からゲーム理論誕生したゲーム理論1980年以前学界からも「異端思想」として捉えられており、当時ゲーム理論処遇位置付けについて鈴木光男1970年公刊され編著書競争社会ゲーム理論』の「はしがき」で次のように語っている。 ゲームの理論異端思想である。小麦を肩にかついで市場現れ神の見えざる手導かれて予定調和達するという思想とは対立する基盤から生まれた異端は常に覚めて地獄を見る人間理性を神の御心に従って調和達するものとは見ない理性は常に対立を生み、競争を生み、その結果として結託を生み、それらの克服としての調和ありうると見る。克服なきとき、そこには抜き差しならぬ対立依然として存在し、それに目をそらすことはしない。そして、その克服がいかに困難なことであるかを示している。人はしばし合理的とか最適とかいう。合理的とか最適とかいう言葉現代呪文である。しからば合理的とか最適とかいうのは一体何であろうか。社会的行動における合理的なるものの意味鋭く追及したのもゲームの理論である。異端は常に覚めて地獄を見なければならないのである。 — 鈴木光男競争社会ゲーム理論』、1970年 また、2005年ノーベル経済学賞受賞したトーマス・シェリングは、受賞の際に選考委員会から The "errant economist" (as Schelling has called himself) turned out to be a pre-eminent pathfinder. と紹介された。シェリングerrant economist自称したのは当時支配的であった正統派経済学の道を歩まず異端派としての遍歴重ねた実感からであり、同時にこれはシェリングのみならず多く初期ゲーム理論家共通する感情であった異端派新古典派パラダイム対照 前提条件異端派経済学新古典派経済学 認識論現実主義 道具主義 合理性手続き的合理性 独立的合理性 存在論有機体論 方法論的個人主義 政治的中心国家介入 自由競争市場 分析焦点生産成長 交換希少性 なお、現在「異端派経済学と言えば制度派経済学カール・マルクス影響受けて成立したポスト・ケインズ派レギュラシオン学派ラディカル派、マルクス派などといった新古典派経済学対す反対勢力を指すが、彼らはニューケインジアンなどの新古典派に対して異端派」を自称しており、現実主義手続き的合理性有機体論国家による市場介入支持生産成長への関心といった特徴を持つと主張している(右に掲載された表を参照)。 第1の前提条件である「認識論に関して現実主義 とは、現実世界正しく記述することを理論目的とみなす異端派立場である。他方道具主義とは、理論正確な予測計算といった分析道具とみなし、その目的以上に仮説現実的である必要はいとする新古典派立場である。これらの点について、ゲーム理論理論分析道具として近代経済学応用されるだけではなく比較歴史制度分析などの一部制度経済学において特定の時代地域制度体制精密に描写するための手法としても用いられている。また、1990年代ゲーム理論の応用分野として誕生したマーケットデザインは具体的な個別の各問題分析解決することを目的とした「オーダーメイド」の理論構築することを志向している。 第2の前提条件である「合理性に関して新古典派経済主体所与制約の中で最適な選択をするという強い仮定課しているのに対して異端派ハーバート・サイモンによって提唱され限定的制限され合理性採用している。ゲーム理論成立当初新古典派合理性仮定踏襲していたが、1980年代から1990年代にかけて合理性前提としないアプローチをも採用することとなった合理性限定したゲーム理論研究アプローチについて後述の「#限定合理性アプローチ」の節を参照第3前提条件である「存在論」の「方法論的個人主義」とは、新古典派においてプライステイカー仮定として定式化されていたものであり、彼らの想定する経済主体他者からの影響を受けることなく制約付き最適化行動をとる。他方異端派採用する有機体論において、個人社会的存在みなされマルクス経済学者によって強調されるように、文化社会階層などを含む環境影響される。これらに対してゲーム理論方法論的個人主義がその基礎にあるものの、他者との関係性によって個人成立しているというオーストリア学派人間像反映されており、個人間の有機体的な相互依存関係を重視している。 第4の前提条件である「政治的中心」は追加的な項目である。新古典派仮定の下では「パレート非効率的な状態では(非効率性の定義より)全員満足度高めるような別の状態が必ず存在するから、当事者合理的であれば全員に取ってより良い状態へ移行するはずである。したがって合理的な個人の自由任せておけば結果は必ず効率的になる。」という素朴な自由放任主義思想成り立ち実際にこうした考え方新古典派経済学者の間で一時大きな影響力持っていた。彼らは短期的に何らかの不完全性外部性存在し国家介入が必要であることを認めているものの、長期的にはそれらに起因する非効率性が市場メカニズムによって解消される信じていたのである他方異端派新古典派採用した独立的合理性パレート効率性に対してそもそも懐疑的であったため、国家による市場領域への介入必要性強く訴えていた。これらに対してゲーム理論は、「囚人のジレンマ」に代表されるような各個人が合理的であったとしても政府介入しなければ効率的な配分実現しない場合存在することが明らかにし、政府制度設計によって人々適切なインセンティブ提供する主張した。 第5の前提条件である「分析焦点に関して新古典派希少な財がいかに配分されるか、という問題関心持っていた。他方異端派アダム・スミスカール・マルクスといった限界革命以前古典派経済学者のように富と生産拡大することに貢献する必要資源をつくることに基本的関心持っている。両学派分析対象交換生産といった狭義経済限定しているのに対してゲーム理論市場生産といった狭義経済のみならずさまざまな分野応用されている。その広範な分析対象については後述の「#応用分野」の節を参照

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