残留派と離脱派
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 04:26 UTC 版)
「イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票」の記事における「残留派と離脱派」の解説
イギリスはEUに残留すべきかそれともEUから離脱すべきかについて意見が分かれていた。 残留派には保守党のエリート、労働党、スコットランド民族党、大企業、ニュー・レイバーがついており、欧州の協調や単一市場を支持している。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなど巨大銀行も残留派に多額の資金援助を行っている。しかし後述のように、保守党で残留に票を投じた者の中には欧州懐疑論者も少なくない。 離脱派は保守党、イギリス独立党、左翼・右翼の折衷で構成され、民主主義(をEUから取り戻すこと)や公衆の現状への不満などを論じている。イギリスに流入する移民をコントロールする必要性も唱えている。また、EU法による過度な規制がイギリスの中小企業の経営を圧迫しているとする議論も展開している。 残留派 デービッド・キャメロンはイギリス首相であり、残留派のリーダーとして振る舞ったが、元来欧州懐疑論者でもあり、EUに否定的な発言の多い人物だった。首相としてもEU側と交渉を行い、イギリスに特権的地位を与えるための譲歩をEU側から引き出した。キャメロン首相は、もしイギリスがEUから離脱すれば大陸欧州で紛争がおこる前兆となると断言している。キャメロンが国民投票に踏み切った背景には、党内の過激な反EU論者のを宥め、彼らを抑えるためという側面があった。財務大臣ジョージ・オズボーンは親EU論者であり、EU残留のメリットは自由貿易と治安だと主張している。内務大臣で、後に首相として離脱交渉を行うテリーザ・メイは欧州懐疑派であり、EUは不完全であるとしながらも犯罪やテロリズムからイギリスを保護するためにEU残留はイギリスの国益となると主張している。ただしメイは残留キャンペーンに積極的に与することはしなかった。ロンドン市長のサディク・カーンは、EU残留はロンドンのためになると主張している。スコットランド民族党の党首ニコラ・スタージョンは、多くのスコットランド人はEU残留に投票すると信じつつ、もしEU離脱が決まれば2回目のスコットランド独立の住民投票を行うための強い理由が生じると主張している。 また、経済・財政的観点からEU残留を主張する声もあった。ピーター・マンデルソンは、イギリスがEUを離脱すればEUへの輸出品(自動車、ウィスキー、薬剤など)に20パーセントの関税がかかると述べた。2016年6月15日、財務大臣であるジョージ・オズボーンと元財務大臣であるアリスター・ダーリングは、もし国民投票で離脱派が勝利すれば何百億ポンドという金額に相当する増税と歳出削減をおこなうと発表した。オズボーンらはInstitute for Fiscal Studiesの試算に依拠し、離脱派が勝利した場合、150億ポンド相当の増税、国民保健サービスや防衛・警察・教育・地方・交通予算など150億ポンド相当の政府支出を削減するのだという。 労働党は残留派が多い一方、党首ジェレミー・コービンはEU残留のためのキャンペーンを張ったものの、基本的には欧州懐疑論者である。コービンは移民が賃金を下げることを主張している。「(賃下げ効果のある)移民労働力の搾取を止めるために熟練技術者を養成し、(移民流入で)人口が急増する地域に(公共)住宅建築をするなどといった政府による投資があってはじめて移民がもたらす利益が実感されます。」とも述べている。 離脱派 前ロンドン市長ボリス・ジョンソンは、「EUの目的は本質的にはアドルフ・ヒトラーと同じである」とし、「イギリスはEUという超国家に取り込まれるべきではない」と論じた。また「ユーロは生産力あるドイツに絶対的なアドバンテージを与えるものであり、その他のユーロ圏の国々はドイツに絶対に勝てない仕組みになっている。イタリアはモーター製造で定評があったがユーロがそれを破壊した。ドイツがそれを意図したんだ。」とユーロに対しても批判した。 司法大臣マイケル・ゴーブは、イギリスはEUを離脱し移民の数をコントロールすべきと考えている。イギリスがEU加盟国である限り、EU市民はイギリスに定住し働き、イギリスの年金や国民保健サービスを受ける権利を主張することができる。移民によるそのような社会保障制度へのアクセスは社会の負担にもなりうる。またゴーブは、イギリスがEUに留まっている限りはEUからの移民の出入国管理を厳格にできないために治安に影響がでると考えている。 「イギリスがEUに加盟しているために、イギリス政府はEUからの移民の資格・ジハーディストなど過激派とのつながり・犯罪歴などを調査することができません。有罪判決を受けた犯罪者を国外追放にすることすら出来ないのです。」「EUの国境開放政策ではなく、オーストラリア型のポイントベース制度をすればどうなるでしょう。イギリス政府は真の難民や勤勉な移民だけを受け入れることができるようになります。」 イギリス独立党の党首ナイジェル・ファラージは、ファラージ自身がEU離脱の是非を問う国民投票のキャンペーンの最重要人物の一人であると考えている。ファラージは、EU離脱のキャンペーンのために離脱派が党派を超えて連携出来ていることを嬉しく思うと述べている。 「我々の主権を取り戻すことの重要性に比べたら党利や政党政治など小さいものだ。」 保守党の元党首イアン・ダンカン・スミスは、将来的にアルバニアなどのバルカン諸国がEUに加わった場合に、(EU法によってそれらバルカン諸国の国民がEU市民としてイギリスでの居住権を主張できるため)イギリスの治安が脅かされると考えている。元防衛大臣であるリアム・フォックスは、ユーロ圏の非常に高い失業率のために益々多くの若年者が職を求めイギリスなどの北側へ向かってくるとし、それらイギリスへの移民が増加することでイギリスの住宅・保健・学校(などの公共サービス)に大きな負荷がかかると述べている。雇用担当大臣プリティ・パテルは、EU法による過剰な規制がイギリスの中小企業の足かせになっていると考えており、EUを離脱することで多くの新規雇用を創出できると論じている。 リーヴ.EUは2015年8月からキャンペーン活動を始め、EUを離脱するメリットに関する情報を公衆に伝えている。 EU離脱派は、EU離脱を大きなリスクだと主張する政治活動をしばしばプロジェクト・フィアーと呼び、EU残留派は関連するリスクを挙げることで有権者の心理に恐怖を植え付け、有権者をEU残留側に引き込むという手法を採っていると批判した。 例えばボリス・ジョンソンは「プロジェクト・フィアーの代理人達は、イギリス国民に対してEU離脱は警察・司法組織やインテリジェンスを弱めると警告する。中にはEUのおかげで70年間欧州が平和だったと主張する者達もいる。これらの主張は過度に誇張されておりナンセンスの領域にまで達している。」と主張する。
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