時間外労働の制限
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 08:06 UTC 版)
三六協定を締結した場合であっても、実際の時間外・休日労働は、以下の要件を満たすものとしなければならない。 坑内労働等厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、1日について労働時間を延長して労働させた時間が2時間を超えないこと(第36条6項1号)。「健康上特に有害な業務」とは、以下の業務のことである(施行規則第18条)。有害業務とその他の労働が同一日において行われる場合、有害業務の時間の延長が1日当たり2時間を超えなければ、その他の労働で2時間を超えたとしても、所定の手続きをとる限り適法である(昭和41年9月19日基発997号)。なお、常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働又はこれらの有害な業務に常時30人以上の労働者を従事させる事業場においては、複数選任すべき衛生管理者のうち少なくとも1人は衛生管理者の業務に専任する者を置かなければならない(労働安全衛生規則第7条1項5号)。さらに、坑内労働および◆の業務においては、複数の衛生管理者のうち少なくとも1人は衛生工学衛生管理者免許を持つ者の中から選任しなければならない(労働安全衛生規則第7条1項6号)。 ◆多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務 ◆ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務 ◆土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務 ◆異常気圧下における業務 削岩機、鋲打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務 重量物の取扱い等重激なる業務 ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務 ◆鉛、水銀、クロム、砒素、黄リン、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務 1か月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間が100時間未満であること(いわゆる「単月100時間未満要件」、第36条6項2号)。 対象期間の初日から1か月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の1か月、2か月、3か月、4か月及び5か月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の1か月当たりの平均時間が80時間を超えないこと(いわゆる「複数月平均80時間以内要件」、第36条6項3号)。「要件」を満たしている場合であっても、連続する月の月末・月初に集中して時間外労働を行わせるなど、短期間に長時間の時間外労働を行わせることは望ましくないものであること。なお、労働者が、自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合には、その使用者が当該労働者の他社での労働時間も適正に把握する責務を有しており、「要件」については、第38条に基づき通算した労働時間により判断する必要があること。その際、労働基準法における労働時間等の規定の適用等については、平成30年1月31日付け基発0131第2号「「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の周知等について」の別添1「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を参考とすること(平成30年9月7日基発0907第1号)。第36条6項2号及び3号の時間数の上限は、労働者個人の実労働時間を規制するものであり、特定の労働者が転勤した場合は第38条1項の規定により通算して適用される(平成30年12月28日基発1228第15号)。 満18歳未満の年少者には三六協定は適用されないため、協定による時間外労働は認められていない(第60条)。災害等・公務の場合においては年少者であっても時間外労働をさせることができる(昭和23年7月5日基収1685号、昭和63年3月14日基発150号)。ただし、公務の場合においては、年少者に深夜業をさせることはできないので、午後10時(厚生労働大臣が必要と認める地域・期間においては午後11時)を超えて時間外労働をさせることはできない(第61条2項・4項)。年少者が管理監督者等の第41条該当者である場合(後述)は時間外労働・休日労働をさせることができる(災害等の場合を除き深夜業は不可)。 妊産婦が請求した場合は、災害等・公務・三六協定いずれの場合においても時間外労働をさせることはできない(第66条)。妊産婦が第41条該当者である場合は時間外労働・休日労働をさせることができる(深夜業は不可)。またフレックスタイム制を採用する場合は、妊産婦が請求した場合であっても、1日又は1週間の法定労働時間を超える労働が認められる。 3歳に満たない子を養育する労働者(日々雇用される者を除く)が当該子を養育するために請求した場合、事業主は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはならない(育児介護休業法第16条の8)。ただし、事業主は、労使協定に定めることにより以下の労働者については請求を認めないことができる。当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 小学校就学の始期に達するまでの子を養育、又は要介護状態にある対象家族を介護する労働者(日々雇用される者を除く)であって以下のいずれにも該当しないものが当該子の養育又は当該対象家族を介護するために請求したときは、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、制限時間(月24時間、年150時間)を超えて三六協定による時間外労働をさせてはならない(育児介護休業法第17条、18条)。この請求は、開始予定日および終了予定日を明らかにして開始予定日の1月前までにしなければならない。当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 労働者が上記育児介護休業法による請求をし、又はこれらの所定労働時間超労働・時間外労働をしなかったことを理由として、事業主は当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(育児介護休業法第16条の9、18条の2)。 1947年(昭和22年)の労働基準法施行時は、女性労働者について、1日について2時間、1週間について6時間、1年について150時間を超える時間外労働を禁止していた(施行当時の第61条)。その後1952年(昭和27年)の改正において「決算のための書類の作成、計算」「棚卸し」の業務については時間外労働の制限を「2週間について12時間」と変更し、さらに男女雇用機会均等法の制定による労働基準法の改正で「1日2時間」の枠が撤廃、一定の指揮命令者・専門業務従事者については、時間外労働、休日労働の制限をすべて解除した。そして1999年の改正で満18歳以上の女性はすべて時間外労働の制限が解除された。代わってこのときに育児介護休業法に、育児・介護を行う者についての時間外労働の制限規定が制定された。
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