建造可能性以外の課題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/11 05:17 UTC 版)
「軌道エレベータ」の記事における「建造可能性以外の課題」の解説
現時点で議論の焦点は、実際それが技術的に建造可能か否かという点である。ひとたび建造可能性に目処が立った場合、続いて克服すべきいくつかの課題がある。 維持費 宇宙空間は相当に過酷な環境であり、軌道エレベータのような長大な建造物も日光や宇宙線などにより材料の劣化にさらされる懸念がある。スペースデブリとの衝突による破損も考慮に入れなければならず、軌道エレベータのような長大な建造物を維持修繕していくのにどの程度の費用がかかるかは不明である。建設費用と維持費用が、はたして軌道エレベータ建造が与える利便に見合うかどうかという問題がある。 安全上の問題点 軌道エレベータに対する安全上の脅威がいくつか想定される。 航空機やシャトル、人工衛星などとの衝突が起きた場合、軌道エレベータの本体は深刻な損傷を受ける。軌道エレベータのケーブル(またはシャフト)部分の一部でも損傷した場合、損傷箇所に極めて大きな応力がかかって、軌道エレベータ全体が崩壊する可能性がある。もし軌道エレベータの質量が十分に大きければ地上の広範囲に被害をもたらす可能性がある。ただし、全米宇宙協会などでの現在の案ではシャフトのような構造はないため、それほど大きな質量を持たず、ケーブルもラップフィルム状の薄いものなので、落下時の空気抵抗が大きく、地上に重大な影響を及ぼす可能性はほとんどないと考えられている[誰によって?]。 また、軌道エレベータは縦にきわめて長大な建造物であり、材質の強度と遠心力や重力などのバランスの下に成り立っているため、テロリストによる破壊工作に弱いという指摘がある。衝突事故を防ぐためには、軌道エレベータの周囲の広範囲(ブラッドリー・エドワーズらは「少なくとも数百キロメートル」としているが、根拠は示されていない)を飛行禁止区域として設定し、レーダーなどで常時監視することが必要だろう。 軌道エレベータは長い弦とみなせるので、固有振動数に一致する振動が発生すると、タコマナローズ橋の崩落事故のように減衰せずにエネルギーが蓄積されて振動し続け、応力限界を超えて破壊される恐れがある。これは荷物を適宜上げ下げして振動を打ち消すことで回避可能であり、人工衛星やスペースデブリとの衝突を回避するために意図的に振動させることもできる。 ある程度大きなスペースデブリは軌道がわかるため、上記の方法で回避できるが、小さなものは衝突を避けられない。軌道エレベータ自体への影響は軽微で済むとしても、軌道エレベータの昇降機や乗客・貨物への悪影響が考えられる。もしくは小さなものでも全損する前提で、多数の軌道エレベータを同時運用し、昇降機そのものに大気圏突入能力を持たせることも考えられている[誰によって?]。 対策としては、定期的なスペースデブリの回収作業も並行して行う必要がある。軌道エレベータを使用するかにかかわらず、宇宙開発を今後も推進していくためにはスペースデブリはいずれ回収作業が必要な、現実の問題である(ケスラーシンドロームを参照)。 類似の問題として、軍事衛星との衝突の可能性が挙げられる。軍事衛星は機密上存在自体が秘匿されることもあり、特に低高度を飛ぶ偵察衛星などは周回時間も短く、想定範囲外の衝突が発生する恐れもある。これらが衝突を回避する様に全て制御するのは困難であるし、活動の妨げになる物の建造に異を唱える国家などもあり得る。 環境への影響 軌道エレベータのような大規模構造物が環境にどのような影響を与えるかはまだわかっていない。ただし軌道エレベータのケーブルは極めて細いため、大気の擾乱や熱伝導による気温変化は小さいと推測される。またアース・ポート建設地点の生態系の変化や、建造に伴う廃棄物による公害なども考えられるが、軌道エレベータが完成すれば有害物質や騒音を撒き散らすロケットの打ち上げは激減し、相対的には環境によい影響をもたらす可能性もある。いずれにせよ本格的な研究にはまだ着手されておらず、定量的に示すことはできない。 政治的課題 軌道エレベータはロケットに比べて遥かに安価な輸送手段であり、また経済的に建設できる場所が限られているため、軌道エレベータが建設されるような時代になってもまだ強力な国家や経済ブロックが残存していると、アース・ポートの領海・領空の使用権、軌道エレベータの権利を巡って政治的な紛争が起こる可能性がある。 天体力学、地球科学の観点からの問題点 母星(この場合は地球)の位置エネルギーを常にスイングバイの状態で引っ張り続けるため自転エネルギーを削り続けいずれは自転の静止を大きく早める。そうなれば昼夜によって現在維持している循環する気温の温度差は止み常に日光が当たる昼の部分は灼熱の砂漠地帯、日光が当たらない常闇の夜の部分は酷寒の氷期となる。その後気流、重力やそれらが維持している地球上の水循環と宇宙への放出量のバランスが崩れ生命体の生存活動に大きく負の影響を与えることになる。
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