夜戦の検討
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/04 23:10 UTC 版)
軽巡洋艦長良に移乗した南雲中将は、日本時間6月5日午前8時28分(現地時間6月4日11:28)に筑摩偵察機から「敵は北東90浬」の報告を受けて水上戦闘を決意し、午前8時53分に「今より攻撃に向かう、集まれ」と集合命令を出した。日本軍三空母炎上の報告を受けた連合艦隊旗艦大和の艦橋は雰囲気が一変し、黒島亀人首席参謀は涙を浮かべてテーブルを叩いた。山本五十六長官は渡辺と将棋を指している時に「赤城、被爆大、総員退去」との報告を受けたが、「ほう、またやられたか」「南雲は帰ってくるだろう」とつぶやいただけでそのまま将棋を続けたという。この時、連合艦隊主隊は濃霧の中で戦艦長門が連絡不能になるなど混乱しており、焦りがつのるばかりであったという。午前9時20分(11:20)、山本五十六長官はGF電令作第133号で輸送船団の一時北西撤退を命じる。日本軍攻略部隊(第二艦隊)の近藤信竹中将は、これを受けて占領隊(日本軍輸送船団)に北西退避を命じ、栗田健男少将の支援隊(第七戦隊)に合同するよう命じた。同時に山本長官は、アリューシャン方面に投入されていた第二機動部隊(角田覚治少将、空母隼鷹および龍驤)に対し、第一機動部隊(南雲機動部隊)と合流するよう打電した。だが両艦隊の距離は遠く、合流は早くとも9日で、宇垣纏連合艦隊参謀長は空母を分散させたことを後悔している。同時刻、南雲中将も各艦に「昼戦をもって敵を撃滅せんとす」と伝え、第八戦隊(利根、筑摩)は魚雷戦を挑む準備を整える。午前10時、山本長官はGF電令作第号、156号にて第二艦隊に以下の命令を伝えた。 敵艦隊攻撃C法をとれ(全兵力を集中し、敵を撃滅する)。 攻略部隊は一部の兵力を以て、今夜ミッドウェーの陸上軍事施設、航空基地を砲撃破壊せよ。 ミッドウェー、アリューシャン群島の攻略を一時延期す。 山本長官の命令により、近藤信竹中将は第七戦隊(熊野、鈴谷、三隈、最上)にミッドウェー島へ向かうよう命じ、同時に南雲機動部隊と策応してアメリカ軍機動部隊に夜戦を挑む方針を示した。連合艦隊は、ミッドウェー基地のアメリカ軍航空兵力が稼働状態にあるか、南雲部隊に尋ねている。長良には空母飛龍が米空母2隻を撃破したという連絡が入り(ヨークタウンを2度攻撃したことの誤認)、草鹿参謀長は希望を抱いた。しかし、夜戦を企図しつつ北上中の午後2時5分(17:05)、飛龍大破の報により、アメリカ軍機動部隊とミッドウェー基地航空隊制空権下での水上戦闘は困難と南雲は判断する。そこで一旦西方に反転し、改めての夜襲を企図した。草鹿参謀長によれば「万事休すで、「レーダーもなく、駆逐艦も少なく、望みのない夜戦に一縷の望みをかけて、当てもなくただ走りまわっていた」と回想している。宇垣参謀長は空母4隻を目前で失ったからには当然の反応だろうと理解を示しながらも、戦艦や重巡洋艦から水上偵察機を発進させて索敵を行わない南雲司令部を「消極的、退廃的」と批判している。近藤中将の第二艦隊は軽空母瑞鳳を有しており、米艦隊に積極的に戦闘を挑む方針を示した。炎上日本空母を護衛していた第四駆逐隊司令有賀幸作大佐(後に戦艦大和艦長)は「敵機動部隊接近すれば刺し違えよ」と配下駆逐艦に下令していた。 午後2時13分(17:13)、筑摩の2号偵察機は、甲板に損傷なく傾斜停止したエンタープライズ型空母を発見し、周囲の護衛艦艇が空母をその場に残して東に去ったと報告した。南雲司令部は、飛龍第一波攻撃隊(小林隊)が爆撃を行った空母(ヨークタウン)は既に沈没・飛龍第二波攻撃隊(友永隊)が雷撃した空母(ヨークタウン)は漂流と判定した。1時間後、筑摩2号機は米空母1、巡洋艦2、駆逐艦4発見を報告、続いて米空母1隻の存在を報告する。先任参謀の大石保中佐が長良の偵察機を夜間発進させ索敵するように進言し、他の幕僚は懐疑的であったが、南雲はその案に同意した。その後、筑摩2号機が「炎上米空母の後方に、更に米空母4隻を発見」と報告してくる。南雲司令部では「まさか」という声があがったが、これを信じ、戦闘詳報には「南下中順次にこれ等の敵を発見せるものにして同一部隊ノ重複ナキ事確実ナリ」と記録、南雲中将は「敵航空母艦の予想外に優勢なるを始めて知れり」と驚いている。午後4時15分、山本五十六長官と宇垣纏参謀長は南雲部隊に対し、GF電令第158号として以下の命令を伝えた。 敵機動部隊は東方へ避退中にして、空母は概ねこれを撃破せり。 当方面連合艦隊は敵を急追、撃滅すると共にAF(ミッドウェー島)を攻略せんとす。 主隊は6日午前零時、地点フメリ32に達す。針路90度速力20ノット。 機動部隊、攻略部隊(7戦隊欠)および先攻部隊(潜水艦隊)は速やかに敵を捕捉撃滅すべし。 午後5時30分(20:30)、山本長官はGF電令159号にて伊168号潜水艦に対して「伊168潜水艦は2300迄AF(イースタン)島航空基地の砲撃破壊に任ずべし。同時刻以降は第七戦隊(栗田少将)が砲撃の予定」と告げ、ミッドウェー基地を夜間砲撃するよう命じた。南雲中将は山本の敵情判断が間違っているとみて、午後6時30分(21:30)、機動部隊機密第560番電において筑摩の2号機の「空母5隻」発見とミッドウェー基地航空隊の活動を伝達する。南雲中将は続く午後7時50分(22:50)の電信で「GF電令作第158号に関係し敵空母(特空母艦含むやも知れず)は尚4隻あり」と、自軍空母の全滅を報告した。すると山本長官より、第二艦隊司令官近藤信竹中将に赤城と飛龍を除く機動部隊戦力の統一指揮を任すという命令が届いた。南雲部隊第八戦隊は第二艦隊と合流し、アメリカ軍と戦闘を継続したい旨を伝えている。
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