地域や進路の偏り
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/02 00:50 UTC 版)
獣医師の資格を得ながら毎年2割の卒業生が獣医師以外の進路へ進む人がいるため研究獣医師が不足している。毎年約1000人いる獣医学系大学の卒業生の4割ほどが犬、猫などのペットを診る小動物獣医師になる。小動物獣医師を希望する人が年々増加していることもあり、小動物獣医師が飽和状態にある一方で、家畜臨床や公衆衛生の教員などの獣医師資格者の不足の状態が続いている。1986年と比べて2008年の獣医師数は小動物が2.6倍に増えたが、地方公務員獣医師・小規模畜産農家・大型の産業動物を診る獣医師は減り続けている。毎年約1000人の獣医学新卒者の地方自治体勤務の希望者は約1 ~2割で他は動物関連の病院や診療所、各大学、研究機関、民間企業、農業共済組合連合会、JA等関連団体に就職するため、平成22年度(2010年)の全国の地方自治体の300人以上の募集を例に需要と比較して100以上不足している現状を訴えている。獣医師養成課程の入学定員は、東日本が735名(国立175名、公立0名、私立560名)であるのに対し、西日本は195名(国立155名、公立40名、私立0名)であり、地域的な偏りも指摘されている。進路の偏りや公務員獣医師の不足による悪影響は多くある。 詳細は「2010年日本における口蹄疫の流行」を参照 朝日新聞は2010年6月に宮崎県で家畜伝染病・口蹄疫の被害が広がる中、地方自治体で自治体職員として家畜の防疫対策・食肉衛生検査に必要な公務員獣医師の不足が深刻化していて、口蹄疫の対処に39都道府県の公務員獣医師の支援を受けて漸く処理している窮状を報道した。一例として青森県では普段公務員獣医師55人で食肉処理場5カ所の毎年約99万4000頭の検査を担っているが、食の安全を守る最前線であり、本当は倍以上の公務員獣医師が欲しいとの現場の声を紹介した。統計によると畜産業盛んな地方ほど公務員獣医師1人当たりの担当する畜産農家戸数が多く、負担感を増している、しかし、地方の多くの自治体は伝染病対策に遅れが出てはいけないとして獣医学部卒業生の確保を求めている。待遇面をよくする予算がないことについては、特区にかける財源を産業獣医師の足りない地方公共団体に振り分けることにより解決できる。2017年2月に日本農業新聞は日本政府が2011年に畜産農家の飼養衛生管理基準を変更して公務員獣医師に求められる防疫業務は大きく増大したと伝えた。牛・豚・鶏の全農家を巡回・指導、家畜の診察・法定検査、畜舎への入り方から車両の消毒、家畜の飲み水の調達方法、適正な飼養密度、防鳥ネットの設置など20を超す項目を確認することになったことや、高知県のような地方自治体では慢性的な人手不足のために限られた獣医師で広大な県内をカバーするのは負担が大きいのが実情との声を伝えた。2014年の全国の獣医師数は約3万9000人だがペット関連の獣医師が39%と最多で家畜防疫や家畜改良などを担う公務員獣医師は9%と少数派である。農林水産省によると、獣医系学部の大学生は首都圏など都会出身・自身の地元である都会で獣医師職に就く場合が多く、団塊世代の公務員獣医師の退職もあり、地方自治体で働く獣医師が恒常的な不足する状態に陥っている。そのため獣医学部卒業生の確保のために北海道や東北、中国、四国、九州の畜産農家の多い17道県は、学生に修学資金を貸与し、卒業後に獣医師として県内で就職すれば返還を免除する制度を導入している。北海道、青森県、高知県は県内出身の高校生に入学金などの資金も支援し、地元出身者の囲い込みをし始めている。2016年11月から発見された鳥インフルエンザの被害は2017年2月末の冬に日本国内では7道県の10農場で発生した。約140万羽を殺処分の対応を主導するのも公務員獣医師のため青森県では2016年11から12月までに確認された2農場に対して総動員で殺処分や埋却、消毒、検査など封じ込めに奔走した。恒常的に人手不足だが鳥インフルエンザ発生で、地域の畜産を守るのは獣医師だと実感したという現場の誇りと限られた人手で日本の畜産の安全を守る最前線で働くことの大変さを報道した。また、特に高知県は2011年時点では県の公式ホームページで『獣医師が不足しています。(社会的使命への貢献)』との地方自治体で働く獣医師を求めるページを独自に作成して公開して全国の公務員獣医師が100人以上不足している状況を訴えていた。このように地方自治体では、公務員獣医師が複数の要因により不足していたもしくは現在でも不足している恐れがある。その解決策としての獣医学部の新設は不要であると考えられる理由を以下に記載する。 2013年に私立獣医科大学協会は、公務員獣医師への就職者の地域偏在や分野(産業、小動物)の偏りが問題であるとしている。その偏在是正のために医学部が導入している 「地域枠」の獣医版入学者選抜を実施すること、不足している自治体は予算を増やして公務員獣医師の給与を上げて待遇をよくすることを解決策の例として挙げている。また、獣医師の数と家畜の飼養頭数の各国の比較において、日本は小動物分野は欧州並みであり、産業動物においては獣医師数は諸外国より多い現状を述べ、産業獣医師は「畜産業の大規模化」、「企業化」、「施設のハイテク化」により必要な人員数が低下傾向にあること、ペット数も人口減少によって減っていくことから獣医師の人数を増やすことは獣医師の過剰を招くとし、補助員制度の導入により、検査などを補助員に委ねることで欧州並の産業獣医師数で充足できると主張した。北海道大学の喜田宏教授は獣医師の数だけ増やすよりも家畜を扱う獣医師の待遇を改善し産業動物や伝染病対策に関わる人は増えないとして人材の偏りを解消するのが問題解決になるとしている。
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