各病型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/20 16:27 UTC 版)
2013年現在はタウ病変の分布によって脳幹優位型(PSP-P、PSP-PAGF)と大脳皮質優位型(PSP-CBS、PSP-PNFA、PSP-FTD)に分類される。臨床亜型の特徴を以下のようにまとめる。 RSPSP-PPSP-PAGFPSP-PNFAPSP-CBSPSP-C筋強剛 体軸性 四肢>体幹 体軸性 ときどきあり あり あり 無動 軽度 中等度 中等度 軽度 あり あり 振戦 なし あり/なし なし なし なし なし 早期の転倒 あり なし なし ときどきあり ときどきあり しばしばあり 早期の姿勢保持障害 あり なし あり 不明 不明 ときどきあり 早期の認知機能低下 しばしばあり なし なし ときどきあり なし ときどきあり 早期の眼球運動障害 あり なし なし ときどきあり なし ときどきあり 早期の失調 なし なし なし なし なし あり レボドパへの反応性 なし あり なし なし なし なし Richardson症候群 初期から転倒を伴う姿勢保持障害、垂直性核上性注視麻痺、体軸性固縮、認知症などが特徴とされる。半数以上が1年以内に転倒を繰り返す。また注視麻痺は病初期には認められないことが多く、下方視の障害は平均3年目に出現する。PSP全体の54%程度を占める。 PSP-parkinsonism(PSP-P、パーキンソニズムを伴う進行性核上性麻痺) 左右差をもって発症し、姿勢時振戦や静止時振戦をみられ、しばしばパーキンソン病と診断される。L-DOPAが2~3年効果がある。初期の転倒や眼球運動障害や認知機能障害は認められない。PSP全体の32%を占める。タウ病変の分布はRichardson症候群と同様であるが程度が軽いとされている。罹患年数は平均9.1年と長く、死亡時年齢も平均75.5年と長い。 PSP-pure akinesia with gait freezing(PSP-PAGF、すくみ足を示す純粋無動症) 発症が緩徐で早期に歩行または発語のすくみ現象がある。すくみ足とは足がすくんだように一歩目がなかなか出ない状態を示す。足が前に出ず上体だけ前に傾いて転倒してしまうことがある。すくみ足が出やすい場面は歩きはじめの最初の一歩、方向転換のとき、椅子に近づいて座ろうとするときである。すくみ足はパーキンソン病でもみられるが病初期からすくみ足が認められることは少ない。しかしPSP-PAGFでは病初期からすくみ足が認められる。筋強剛や振戦がみとめられないことから純粋無動症(pure akinesia)とよばれる。無動症と呼ばれるが必ずしも運動に乏しくじっとしているわけではなく、患者はすくみ足があり姿勢が不安定にも関わらず不用意に動いて転倒してしまうということもみられる。L-DOPAに対する反応性がほとんどない。進行すると垂直性眼球運動障害、頸部の筋強剛と後屈位がみられるようになり、リチャードソン症候群の臨床症状を示すようになる。すくみ現象が他の神経症候より長時間先行し罹患期間は平均13年と長い。 1974年に順天堂大学の今井壽正らはL-dopa不応性純粋無動症(pure akinesia without response to levodopa)という新たな臨床症候群を報告した。この症候群は矛盾性運動(paradoxical kinesia)を伴う歩行時・書字時。発語時のすくみ現象を特徴とし今日のすくみ足を伴う純粋無動症(pure akinesia with gait freezing、PAGF)に相当する。現象的にはPetrenが報告した「trepidant abasia」が類似している。今井の報告以後ではPetren歩行、孤発性歩行開始障害(isolated gait ignition failure)、原発性進行性すくみ足(primary progressive freezing gait)などの異なる名称で同様の報告が多数発表された。このような症候群の病理解剖例では進行性核上性麻痺に一致する所見をしめしていた。David R. WilliamsらはPAGFの診断基準を発症が緩徐な歩行または単語のすくみ現象があること、四肢固縮および振戦を伴わないこと、L-dopaへの反応が持続しないこと、発症5年以内に認知症もしくは眼筋麻痺がみられないこととした。神経変性疾患と病理診断された749例中7例がPAGFの基準を満たした。そのうち6例の病理診断がPSPであった。PSP病理所見は橋底部や小脳歯状核で異常タウの蓄積が軽度でありPSPとしては非典型的であった。6例中5例は因子分析ではPSP-Pに分類された。二次性純粋無動症では尾状核、淡蒼球、視床などが責任病巣と考えられている。 PSP-corticobasal syndrome(PSP-CBS、大脳皮質基底核症候群を呈する進行性核上性麻痺) 大脳皮質基底核症候群(CBS)は大脳皮質基底核変性症(CBD)の代表的な臨床像で、左右差のある上下肢の運動障害を示す。一側の手の巧緻運動障害がみられ手が進行性に使いにくくなる。構成失行や観念失行もみられる。筋強剛も伴い、ときに自分の意志と関係なく、物を掴もうとする他人の手徴候とよばれる特徴的な動きがみられることもある。歩行も小刻みで歩行障害が徐々に診断する。臨床症状で進行性核上性麻痺と診断するのは困難である。PSPの3%を占める。 PSP-progressive nonfluent aphasia(PSP-PNFA、進行性非流暢性失語症を伴う進行性核上性麻痺) 失語症で発症するタイプであり、進行性非流暢性失語という運動性失語症を呈する。発語がスムーズに出てこなくて、構音のゆがみや文法の誤りもみられる。簡単な文章の理解は保たれており、しばしば発語失行(英語版)を伴う。しばらくこのような失語症の症状が前景にたち、運動症状は乏しいが、進行すると眼球運動障害や姿勢の不安定さ、筋強剛などパーキンソン症候群を伴うことがある。下前頭回を含む前頭葉のタウ病変が高度である。 PSP-frontotemporal dementia(PSP-FTD、前頭側頭型認知症を示す進行性核上性麻痺) 無気力や無関心といったアパシーの症状を呈したり、攻撃的になったり性格・行動変化で発症する。数年後には眼球運動障害、動作緩慢、姿勢保持の不安定などリチャードソン症候群の症状もみられるようになる。PSPの4%ほどをしめる。 PSP-cerebellar ataxia(PSP-C、小脳失調を示す進行性核上性麻痺) 新潟大学の金澤雅人と下畑享良らは病理学的にPSPと診断された22例の臨床像を分析した。22例中10例がRichardson症候群であり8例がPSP-Pであり4例がどちらにも分類されなかった。この4例中3例は病初期から小脳性運動失調を主症状としていた。1例は発話失行、着衣失行を示しCBSを疑う臨床症状であった。小脳性運動失調を示した3例は、失調症状を示さないPSP症例と比較して小脳歯状核の高度のグリオーシスを伴う神経脱落とコイル小体が特徴的で,かつプルキンエ細胞内にはタウ陽性構造物を認めた。 日本から報告された10名のケースシリーズによるとその臨床的な特徴は、男性に多く(男女比8対2)、罹患年数は3年から11年と様々であった。初発症状は体幹失調がほとんどであるが四肢失調での発症例もあった。転倒や核上性垂直方向性眼球運動障害が発症2年以内に出現した。口蓋、眼球、咽頭におけるミオクローヌスを合併することがあり、多系統萎縮症のGilman分類を満たす自律神経症状を合併するものはいなかった。画像所見の特徴は病初期に小脳や前頭葉の萎縮が目立たないこと、進行すると小脳全体が小型化し、橋小脳槽が拡大すること、進行すると第4脳室拡大や上小脳脚萎縮、humming bird signを認めること、Hot cross bun signを含め,脳幹,小脳に異常信号を認めないことがあげられた。このPSP-CはMSA-Cがもっとも重要な鑑別疾患である。MSA-Cとの鑑別点としてはどちらも小脳性運動失調で発症するがPSP-CはMSA-Cと比べ高齢発症であること(68.8±4.4 vs 58.3±7.4、P=0.009)、発症2年以内で易転倒性を認め、核上性眼球運動障害を伴うことが多く、自律神経障害を合併しない点があげられる。以上のことから新潟大学の下畑享良らはPSP-Cの臨床診断基準案を提唱した。それは必須項目にはAからEの5つあり、 A)緩徐進行性 B)40歳以上の発症 C)垂直性核上性注視麻痺 D)発症2年以内の体幹かつ四肢の失調 E)発症2年以内の転倒を伴う姿勢保持障害 である。除外項目ではMSAのGilman分類を満たす著名な自律神経症状と頭部MRIでのHot cross bun signがある。Probable PSP-CはA、B、C、D、Eを満たし、Possible PSP-CはA、B、D、Eを満たす。小脳皮質の萎縮がない脊髄小脳変性症で鑑別が必要である。米国の進行性核上性麻痺の0.46%がPSP-Cであり米国では稀と考えられる。またこの検討では運動失調を示すPSPと運動失調を示さないPSPを比較して病理学的な違いを明らかにできなかった。
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