各教育機関における心のケアの現状
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/28 09:04 UTC 版)
「スクールカウンセラー」の記事における「各教育機関における心のケアの現状」の解説
1970年代には既に法制度などが整備され、心理職専門家「school psychologist」が参画していたアメリカとは異なり、日本では長きにわたり教育機関における様々な事案には、当該教育機関に所属している教職員が中心的に対応してきた。しかし、昭和期や20世紀に比しての、不登校児童生徒数増加、対教職員・生徒間などの暴力行為発生件数増加などの既知の社会問題に加え、公的には因果関係などは断定されていないものの、背景として校内・学内でのいじめの存在や、いじめとの関連の可能性が取り沙汰される児童・生徒・学生の自殺は後を絶たないばかりか、1998年から年間30,000人を超え続けている自殺者のうち、生前就学年齢にあった者(19歳以下だった者)の中では、うつ病などの「健康問題」や日常の「学校問題」の悩みを自殺の原因・動機とする者が第1位と第2位を占める現状となっている。また、年代別の死因でも、思春期以降(15歳〜19歳)になると全死因中のトップは「自殺」になるなど、我が国の教育機関における就学年齢者への専門的な心のケアの充実は、いまだ途上の段階にある。 関連情報は「Category:いじめ」、「いじめ#いじめ認定の要件」を参照 また、2004年に改正施行された「児童虐待防止法」において、上述のように虐待が疑われる事例に接した際の児童相談所への通告が国民の法的義務として課せられたことにより、特に各教育機関においては、虐待が疑われる事例の発見・通告・事後対応に当たり、当該児童・生徒への配慮に加え、他の児童・生徒への配慮、教職員間での連携、対保護者への配慮、児童相談所との連携などに関して、担当教職員に一定の知識が要求されるようになったことなど、児童・生徒・学生のメンタルヘルス対策は、各教育機関にとって法的観点からも喫緊の課題となった。 一方、教職員側のメンタルヘルスも近年の問題となっている。現在、教職員が行っている主な業務には、通常の各教科の授業やホームルームのほか、校務分掌により割り当てられた校務があり、放課後には授業や試験の準備と校務に加えて、部活動、児童会・生徒会活動、委員会活動など、各特別活動の顧問・指導に当たる必要がある。さらに、入学式、卒業式、始業式、終業式、修了式、授業参観、運動会・体育祭、文化祭、修学旅行など、各学期には定期的に様々な学校行事がひかえているため、それらの準備・事後処理も並行して行わなければならない。その上、生活指導、生徒指導、進路指導、三者面談、保護者面談など、各児童・生徒・学生個別の指導も同時に行う必要があるほか、昨今は、学級崩壊、小1プロブレム、中1ギャップ、モンスターチルドレン、モンスターペアレントなどを始めとした、旧来の指導経験では対処に苦慮し、場合によっては発達障害やパーソナリティ障害などの基礎知識も求められる問題への対応も迫られるなど、教職員の業務は多忙や困難を極めている。このように、様々な課題に直面する教育現場において、教職員の病気休職者数が年々増加しており、そのうち、うつ病や適応障害などの精神疾患発病を理由とする休職者は、1990年代後半には30%〜40%程度の割合だったものが、2002年には50%を超え、2009年には63.3%に上り、人数も全国約5,500人に達していることに加え、学校長を始めとした教職員の自殺も発生している。 関連情報は「北九州市立皿倉小学校#校長自殺事件」、「愛媛県立新居浜西高等学校#必履修科目未履修問題」、「モンスターペアレント#問題点」を参照 他方、指導力不足教員の存在や、モラルの欠如した教職員による体罰、わいせつ行為、児童買春など、本来は児童・生徒・学生を守る立場の教職員が、逆に加害者となる事件・不祥事も断続的に報道されており、それにより児童・生徒・学生や保護者が教職員に対して不信感を抱いたり、心理的に不安定になったりする事例が散見されている。また、神戸連続児童殺傷事件、附属池田小事件、佐世保小6女児同級生殺害事件、中央大学教授刺殺事件、取手駅通り魔事件を始め、学校現場や通学路が巻き込まれたり、意図的に狙われたりする犯罪も発生しており、そのような緊急時には、児童・生徒・学生、保護者や教職員はもちろん、周辺地域住民も含めた事案関係者らが急性ストレス障害、PTSD、心身症などを発症することがあり、特に即応的で丁寧な心のケアが必要と指摘されている。 このような社会情勢から文部科学省は2007年、多様な分野の有識者から成る審議会「教育相談等に関する調査研究協力者会議」において、「児童生徒の教育相談の充実について ―生き生きとした子どもを育てる相談体制づくり―」との報告書を取りまとめ、上記のように学校教育上の課題や児童・生徒・学生に関わる問題が多様化・深刻化している現状を踏まえた上で、児童・生徒・学生の多様な悩みや相談に対応する専門家としてのスクールカウンセラーの参画活用と、スクールカウンセラー事業の順次拡充などを改めて提言し、各教育機関における心のケアを今後より一層充実させるよう唱えた。また、同報告書の中では、スクールカウンセラーの担当職務内容について、従来の文部科学省の任用規程に掲げられている「児童・生徒との心理カウンセリング」や「保護者・教職員への助言・援助などの心理コンサルテーション」に加え、事故・事件発生による児童・生徒・学生や保護者のPTSDなどを防ぐための「緊急時の心のケア」や、ストレスによる教職員の休職や不祥事などを防ぐための「教職員のメンタルヘルスケア」の担い手としての役割も期待することが述べられている。これを受け、一部の地方自治体に設置されている学校問題解決支援チームには、医師、弁護士、臨床心理士、警察官OBなどとともに当該自治体スクールカウンセラーが参画するなど、同報告書は、国や各教育委員会、および各教育機関などの教育関係者がスクールカウンセラーを活用する際の、今後の取組指針となっている。
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