シーレーノス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/25 18:12 UTC 版)

シーレーノス(古希: Σιληνός, Sīlēnos, ラテン語: Silenus)、あるいはセイレーノス(古希: Σειληνός, Seilēnos)は、ギリシア神話の半人半馬の種族である。サテュロスにも似ているが、こちらは半馬でなく半山羊である。水の精で予言の力を持つとされる。
典型的なシーレーノスは全体として人間に似ているが、臀部から脚部、尾、耳が馬のそれである。中には人間に類似した脚部を持つものもある(前脚がしばしば人間様に描かれた初期のケンタウロスと比較せよ)。
シレーニ
シレーニ (Sileni) はディオニューソスの従者であるシーレーノスである。彼等は酔っぱらいであった。他のシーレーノスと違う点は、通常、禿げた肥満体で、薄い唇とずんぐりした鼻をしていることである。脚も人間のそれであった。後にsileniは複数形であることの意味を失い、もっぱら独りのシーレーノスを指すようになった。
シーレーノスはローマ神話ではシルウァーヌスに対応する。彼はワインの神ディオニューソスの教師でありまた忠実な従者でもあった。大量のワインを飲み、いつも酔っており、サテュロスに支えられたりロバに載せられたりすることになる。プリュギアの王ミダースが酔いつぶれたシーレーノスを家に連れ帰りもてなした時、ディオニューソスはそれをよしとして気前よく礼をはずんだ。
シーレーノスは大変賢く、うまく捕まえて質問することができれば、人間に大事な秘密を教えてくれると考えられていた。シーレーノスはローマ神話のシルウァーヌスと同一視されるが、後者の名前には「森の」という意味しかなく、エトルリアのSelvans由来である。
シーレーノスの知恵
伝承によれば、シーレーノスは「人間にとって最善なのは、初めから生まれないこと、次に善いのは早く死ぬこと」という知恵をミダース王に授けた[1][2][3]。この「シーレーノスの知恵」はニーチェ『悲劇の誕生』にも記されており[2][4]、現代では「反出生主義」とも結びつけられる[4]。同様の知恵はテオグニスなどのギリシア文学でも説かれている[2]。
脚注
- ^ プルタルコス『モラリア』所引アリストテレス『エウデモス』断片、およびキケロ『トゥスクルム荘対談集』
- ^ a b c 小野寺郷「テオグニスとニーチェ」『哲学・思想論叢』第12号、筑波大学哲学・思想学会、1994年。 NAID 110000557177 。14頁。
- ^ 國方栄二『ギリシア・ローマの智恵』未知谷、2016年。 ISBN 978-4896424942。182頁。
- ^ a b “なぜ「生まれてこないほうがよかった」のか? 反出生主義の源流を探る(梅田 孝太)”. 現代新書 | 講談社. 2025年5月27日閲覧。
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