ショット雑音
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/12/15 00:29 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動ショット雑音(ショットざつおん、ショットノイズ、Shot noise)とは、回路ノイズの一種である。電気回路における電子や光学装置における光子のようなエネルギーを持った粒子の数が極度に小さい場合、粒子数の統計的変動が測定にかかるほど大きくなるために発生する。ショット雑音は電子工学、電気通信、基礎物理学の分野で問題にされる。
ショット雑音の大きさは光強度や電流の平均値に比例する。普通平均値は信号そのものを指すが、平均値が増えるとき、信号レベルは雑音レベルよりも早く増加する。したがって、多くの場合、ショット雑音は電流や光強度が小さいときにしか問題にならない。
ある時間内に検出される光子数の平均値は光源の強さから決まるが、実際に検出される数は平均値と等しい場合もあれば大きくも小さくもなる。平均値を中心とするその分布はポアソン分布になる。事象の数が大きくなるにつれポアソン分布は正規分布に近づくので、非常に多数の光子を測定すると、信号に含まれる光子雑音は正規分布に近づく。 事象の間に相関がない場合、ショット雑音は理想的なホワイトノイズである。
ポアソン分布の性質から、光子雑音の標準偏差は光子数の平均の平方根に等しいことが示せる。したがってSN比は次の式で表される。
ここでは検出される光子数の平均である。を大きくすれば、SN比もそれにつれて大きくなる。このことから、光子数が小さいときに光子雑音が相対的に重要になることが分かる。
解説
電子素子におけるショット雑音
電子素子におけるショット雑音は素子を流れる電流のランダムなゆらぎである。電流を担う電子が離散的な存在であり、連続的な定常流を作れないことがその本質である。pn接合で問題になることが多いが、どのような素子においても生じており、電荷が時間的に局在していない場合にも存在する。
ショット雑音は平衡状態の電流ゆらぎとは区別すべきである。後者は電圧がなく、時間平均すると電流値がゼロである時にも発生する。そのような平衡状態の電流ゆらぎはジョンソン・ナイキスト・ノイズと呼ばれる。
ショット雑音はポアソン過程であり、電流を担う電荷はポアソン分布に従っている。電流ゆらぎの標準偏差は
と書かれる。ここでは電気素量、は素子を流れる電流の平均値である。 それぞれの量は国際単位系で表されているものとする。電流100mAに対して、上式は
の値を与える。もしこのノイズ電流が単純な抵抗器を流れたならば、ノイズ電力は次の式で表される。
電荷が完全に時間的に局在しているわけではないが、時間領域でのような分布(の時間積分は1とする)を持つ場合には、ノイズ電流のパワースペクトル密度は
となる。ここで はのフーリエ変換である。
ノート
ショット雑音と熱雑音はどちらも量子雑音である。研究者によっては、両者を統一された概念とみなしている [1]。
量子光学におけるショット雑音
量子光学においては、ショット雑音の原因は検出される光子数のゆらぎである。したがって、ここでもやはり、エネルギー(この場合、電磁場が持つエネルギー)が離散化されている結果として生じるものだと言える。ショット雑音は量子雑音の主体である。光子数個レベルの測定が可能な光電子増倍管の信号にはショット雑音が現れるが、もっと強度の高い光をフォトダイオードと時間分解能の高いオシロスコープを用いて測定している時にも現れる。検出器の光電流は光強度(光子の数)に比例するので、測定される電流にはこの種のゆらぎが含まれるのが普通である。
レーザーのようなコヒーレント光源の場合には、ショット雑音は強度の平均の平方根に比例する。
Similar lower bound of quantum noise takes place for linear quantum amplifier. The only exception being if a squeezed coherent state can be formed through correlated photon generation. The reduction of uncertainty of the number of photons per mode (and therefore the photocurrent) may take place just due to the saturation of gain; this is intermediate case between a laser with locked phase and amplitude-stabilized laser.
空間電荷
低ノイズ能動素子では、電荷間の静電的な反発力によってショット雑音を抑制する設計になっている。光子素子の場合にはこのような空間電荷によるノイズ低減機構は存在しない。
参考文献
- ^ R. Sarpeshkar, T. Delbruck, and C. A. Mead, "White noise in MOS transistors and resistors", IEEE Circuits Devices Mag., pp. 23–29, Nov. 1993
外部リンク
ショット雑音
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「極端紫外線リソグラフィ」の記事における「ショット雑音」の解説
5 mJ/cm2の線量感度は、およそ数千程度のEUV光子だけがそのような小さな領域で蓄積することを示唆している。光子のランダムな到着時による自然なポアソン分布で、約40nm未満の形状にとって露出プロセスを基本的に制御しがたくする、少なくとも数パーセント3シグマの期待された自然な線量変化がある。線量を増加させることはショット雑音を縮小するが、一方でさらにフレア線量を増加させ、より多くの自由電子を生成するだろう。自由電子は減速し停止するまで拡散するだろう。自由電子密度が初期光子密度より低いので、ショット雑音はEUV線量を単に考慮することから想定されるよりも常に実質的に大きい。 2008年にインテルは10億の30 nm接点を印刷するために、±16 %の線量エラー(@10 mJ/cm2)がEUVショット雑音から期待されると推定した。厳しい集計では、変動は±20 %まで増加する。この問題は22 nmパターン統合に影響を与えるだろう。1nmのピクセル内を検討した場合、ショット雑音が一層明白になり(>100% on 10 nm scale @10 mJ/cm2)、EUVリソグラフィにおける線端粗さ(line edge roughness:LER)の由来問題がより明確になる。 電荷捕捉のための2次元絶縁を伴う浮遊ゲートフラッシュメモリパターン同様に、DRAMと論理マイクロプロセッサ(11nmノードでの複合パターンカットを含む)でしばしばみられる2次元パターンは、線種形状よりショット雑音の影響をより受けやすい。それは、2次元パターン(理想的な長方形)が、あるしきい線量の近辺で露光した限定領域における光子の数として定義されているからである。 形状の直径 (nm)100万形状にわたる5%線量誤差を避けるための最小線量 (mJ/cm2)ターゲット線量 (mJ/cm2)ターゲット線量の処理能力 (300 mm WPH)40 12 5 - 28 24 10 6-60 20 47 15 50-125 14 96 20 125 10 187 20 165 5 %線量誤差は~ 1 nmのCDエラーに帰着すると判明した。100万接点の母集団における5 %線量誤差を避けるための最小線量はすべての世代で2倍となっているが、産業における目標線量は追いついていない。少なくとも最小線量を達成するために、処理能力は同じ比率で低減されるだろう。1ppmの母集団は平均線量から5の標準偏差である。参考に、Nvidiaは2011年に次のように報告した。ビア欠陥レベルは10億分の1である必要があり、その結果上記の最小線量はより厳密になる必要があるだろう。参照: SPIE Proc. 8326-96, 8683-36, 8679-50 (2013) 部分的なコヒーレント光源は、数百から数千の点のそれぞれ独立した光子源の集合としてしばしば表現される。更に、一方の光源による異なる入射角に対しての多層膜反射率の非対称な変化は、他方によるものより実質的に明るい 。10光子/nm2の線量における100万個の光子は(例えば100光源 x 10000光子/点)、100,000 nm2の領域(~ 300 nm x 300 nm)をカバーし、はるかに理論分解能を超過する。 ショット雑音は、前にも述べたEUV光源出力の問題に強い影響がある。10 mJ/cm2では、中間焦点における出力は180 Wでなければならないが、現状高負荷サイクルにおいてそれはおよそ20 Wである。しかし、有意なショット雑音は最小線量が20 nm形状サイズで少なくとも47 mJ/cm2(例えば20nmを20nmの半ピッチ線で切る)10 nm形状サイズでは187 mJ/cm2(例えば10 nm接点を14 nmの半ピッチ線で切る)でなければならず、それゆえEUV光源出力はかつてないほど達成困難になりつつある目標であることを示している。さらに、もし線量が少なくとも3倍増加するならば、レジストポリマーの架橋結合はより重大になる。後述するように、高い吸光度のため、加熱することはより深刻である。化学増幅型レジストにとって、酸発生分解(acid generator decomposition)のため線量露光が強いと線端粗さが増大する。ショット雑音は、ネガ型の金属酸化膜レジストをもつ、コンタクトホール・パターンに使用される明視野露光をいくらか緩和するかもしれない。フレアは線量が高い明視野露光においてより深刻な影響(像のコントラストを失わせる)を持っている 。HSQレジストの軟X線露光は、100 mJ/cm2レンジにおける線量増加のため露光限界を越える増加反応に関係した50 - 70 nmの線幅増大を示している。 ショット雑音問題はEUVで使用された、20 nm以下のマスク上に描画された形状に適用できる。(ウェーハ上に20nmをプリントするため)マスク上の80 nmコンタクトホールパターンに使用される12 uC/cm2の吸光線量では、そのようなコンタクトホールが10億を越える線量レベルにおいては、必然的に10 %のショット雑音に遭遇する。 EUVの空間像計測システム(Aerial Image Metrology System:AIMS)メーカーであるカール・ツァイスは、18 nmピクセルあたり15,000光子(68 mJ/cm2に相当する)が十分なCD忠実度のために必要であると近年結論を出している。
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