パワースペクトル密度とは? わかりやすく解説

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スペクトル密度

(パワースペクトル密度 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/27 07:56 UTC 版)

スペクトル密度(スペクトルみつど、: spectral density[1])とは、信号を構成する成分を周波数関数として表したものであり[2]、単にスペクトルと言うこともある。成分として信号の全エネルギー[3]について表したものをエネルギースペクトル密度: energy spectral density、ESD[4])という[5]。また、仕事率(パワー)について表したものをパワースペクトル密度: power spectral density[6])といい、仕事率として電力が対象となる場合、電力スペクトル密度とも呼ばれる。スペクトル密度は定常過程に関する周波数値の正実数の関数または時間に関する決定的な関数である。直観的には、確率過程の周波数要素を捉えるもので、周期性を識別するのを助ける。

概要

信号のエネルギーは振幅の二乗和でしばしば定義される。信号を定常波の和すなわちスペクトルとして見たとき(フーリエ変換)、信号全体のエネルギーは部分定常波エネルギーの総和になると考えられる。より正確には、連続値である各周波数にエネルギー密度が定義出来てその積分値が信号全体のエネルギーになると考えられる(パーセバルの定理)。各周波数におけるエネルギー密度をエネルギースペクトル密度という。

また、信号の仕事率(パワー)は時間当たりのエネルギーでしばしば定義される。全く同じ議論がパワーに関してもでき、各周波数におけるパワー密度をパワースペクトル密度という。

物理学の観点では、信号とは波動であり、代表的な波動には電磁波音波がある。信号がどのような物理的次元を伝わるのかは問題ではないが、以下の議論では時間と共に変化する信号について解説する。次元解析の観点では、パワースペクトル密度の単位はワットヘルツ (W/Hz) か、ワット毎ナノメートル (W/nm) で表される(後者は周波数の代わりに波長を用いる)。

定義

エネルギースペクトル密度

連続信号

連続信号 f(t) のエネルギースペクトル密度は次の式で定義される。

のスペクトルとは、色に対応した各周波数で運ばれる力を示したものである。光スペクトルは周波数よりも波長で表されることが多く、厳密にはスペクトル密度ではない。分光測色器によっては、1から2ナノメートル単位の分解能を持つ。値は他の用途に使われたり、光源のスペクトル属性を示すために図示されたりする。これを使って光源の特性を解析する。

関連項目

脚注

  1. ^ IEC 60050 - International Electrotechnical Vocabulary - Details for IEV number 801-21-43: "spectral density"”. electropedia.org. 2024年12月28日閲覧。
  2. ^ 「スペクトル:信号を構成している周波数成分の振幅や位相の分布を周波数の関数として表したものの一般的呼称。振幅スペクトル、位相スペクトル、パワースペクトル、クロススペクトル、エネルギースペクトルなどがある」日本音響学会 編「スペクトル」『新版 音響用語辞典』コロナ社、2003年、190頁。ISBN 4-339-00755-2 
  3. ^ 全エネルギーが無限大に発散する場合は定義できず、そのときにはパワースペクトルが用いられる。
  4. ^ IEC 60050 - International Electrotechnical Vocabulary - Details for IEV number 702-04-49: "energy spectral density"”. electropedia.org. 2024年12月28日閲覧。
  5. ^ 日本音響学会 編「エネルギースペクトル」『新版 音響用語辞典』コロナ社、2003年、31頁。 ISBN 4-339-00755-2 
  6. ^ IEC 60050 - International Electrotechnical Vocabulary - Details for IEV number 103-09-05: "power spectral density"”. electropedia.org. 2024年12月28日閲覧。
  7. ^ Fred Rieke, William Bialek, and David Warland (1999). Spikes: Exploring the Neural Code (Computational Neuroscience). MIT Press. ISBN 978-0262681087 
  8. ^ Scott Millers and Donald Childers (2012). Probability and random processes. Academic Press 
  9. ^ Hannes Risken (1996). The Fokker–Planck Equation: Methods of Solution and Applications (2nd ed.). Springer. p. 30. ISBN 9783540615309. https://books.google.co.jp/books?id=MG2V9vTgSgEC&pg=PA30&redir_esc=y&hl=ja 
  10. ^ Dennis Ward Ricker (2003). Echo Signal Processing. Springer. ISBN 1-4020-7395-X. https://books.google.co.jp/books?id=NF2Tmty9nugC&pg=PA23&dq=%22power+spectral+density%22+%22energy+spectral+density%22&lr=&as_brr=3&ei=HZMvSPSWFZyStwPWsfyBAw&sig=1ZZcHwxXkErvNXtAHv21ijTXoP8&redir_esc=y&hl=ja#PPA23,M1 
  11. ^ Andreas F. Molisch (2011). Wireless Communications (2nd ed.). John Wiley and Sons. p. 194. ISBN 978-0-470-74187-0. https://books.google.co.jp/books?id=vASyH5-jfMYC&pg=PA194&redir_esc=y&hl=ja 
  12. ^ Robert Grover Brown & Patrick Y.C. Hwang (1997). Introduction to Random Signals and Applied Kalman Filtering. John Wiley & Sons. ISBN 0-471-12839-2. http://www.amazon.com/dp/0471128392 
  13. ^ Storch, H. Von; F. W Zwiers (2001). Statistical analysis in climate research. Cambridge Univ Pr. ISBN 0-521-01230-9 
  14. ^ An Introduction to the Theory of Random Signals and Noise, Wilbur B. Davenport and Willian L. Root, IEEE Press, New York, 1987, ISBN 0-87942-235-1
  15. ^ "The log power spectrum can be considered as a 'frequency series'" B. P. Bogert, et al. (1963).

外部リンク


パワースペクトル密度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/07 20:14 UTC 版)

スペクトル密度」の記事における「パワースペクトル密度」の解説

上述エネルギースペクトル密度の定義は、信号フーリエ変換存在するパルスのような信号に最も適している。たとえば定常物理過程を示す連続信号について、パワースペクトル密度あるいは電力スペクトル密度 (PSD) を定義することは価値があり、信号時系列の力(物理学では仕事率にあたる)が周波数についてどのように分布しているかを示す。抽象的な信号についても、信号2乗定義できる。このとき、信号 f(t) のある一瞬の力は次のように与えられる。 P ( t ) = f ( t ) 2 {\displaystyle P(t)=f(t)^{2}} 平均(あるいは期待値としての P(t) は、全周波数領域にわたる電力スペクトル密度積分である。 正規化されたフーリエ変換: F T ( ω ) = 1 T ∫ 0 T f ( t ) exp ⁡ ( − i ω t ) d t {\displaystyle {\mathcal {F}}_{T}(\omega )={\frac {1}{\sqrt {T}}}\int _{0}^{T}f(t)\exp(-i\omega t)dt} を使用して次のようにパワースペクトル密度を定義できるP S D ( ω ) = lim T → ∞ E [ | F T ( ω ) | 2 ] {\displaystyle PSD(\omega )=\lim _{T\rightarrow \infty }\mathbf {E} \left[|{\mathcal {F}}_{T}(\omega )|^{2}\right]} 確率論的信号については、フーリエ変換二乗値は一般的に極限に近づけないが、期待は行う。(ピリオドグラム(英語版)を参照。) 見解取り扱う多く信号積分可能ではなく、その信号非正規化(=通常のフーリエ変換存在しない何人かの著者(たとえば Risken)は、まだ非正規フーリエ変換使ってパワースペクトル密度の定義 ⟨ F ( ω ) F ∗ ( ω ′ ) ⟩ = 2 π P S D ( ω ) δ ( ω − ω ′ ) {\displaystyle \langle F(\omega )F^{\ast }(\omega ')\rangle =2\pi \,PSD(\omega )\,\delta (\omega -\omega ')} を公式化している。ここで、δ(ω − ω') はディラックのデルタ関数である。このような公式の文献直観を導くには有用であるが、十分な注意と共に使用されるべきである。 このような形式推論用いると、定常ランダム過程とパワースペクトル密度 PSD(ω) およびこの信号自己相関関数 R(τ) = フーリエ変換対でなければならないことに気づくだろう。このことは真実であり、ノーバート・ウィーナーおよびアレクサンドル・ヒンチンによって作り出され意味深い定理ウィーナー・ヒンチンの定理)となる。 P S D ( f ) = ∫ − ∞ ∞ R ( τ ) e − i ω τ d τ = F ( R ( τ ) ) {\displaystyle PSD(f)=\int _{-\infty }^{\infty }\,R(\tau )\,e^{-i\omega \tau }\,d\tau ={\mathcal {F}}(R(\tau ))} 多く著者が、実際にパワースペクトル密度を 定義する ためにこの等式使用している。そうする理由は「数学的曖昧さ」を回避するためであると、多く書籍記載されている。 ある周波数帯域 [ω1, ω2] における信号の力は、正の周波数と負の周波数について積分することで計算できる。 P = ∫ ω 1 ω 2 P S D ( ω ) + P S D ( − ω ) d ω {\displaystyle P=\int _{\omega _{1}}^{\omega _{2}}\,PSD(\omega )+PSD(-\omega )\,d\omega } 信号のパワースペクトル密度は、その信号広義定常過程であるときだけ存在する信号広義もしくは狭義定常過程ない場合、その自己相関関数2つ変数関数となる。広義周期定常過程英語版のような場合PSD存在する可能性がある。より一般に似たような技法で時と共に変化するスペクトル密度近似求めることができる。 パワースペクトル密度の定義は、全測定時間 T =n dt の間に離散時間 fn = f(n,dt) でサンプリングされた信号のような有限時系列 fn = f(n,dt)(ただし 1 ≤ n ≤ N)を直接的に一般化するP S D ( ω ) = d t 2 T | ∑ n = 1 N f n e − i ω n | 2 {\displaystyle PSD(\omega )={\frac {dt^{2}}{T}}\left|\sum _{n=1}^{N}f_{n}e^{-i\omega n}\right|^{2}} . 実世界応用では、観察され物理過程基礎となる実際PSD のより正確な推定を行うために、一度測定得られる PSD結果複数反復測定し平均化することが一般的である。このように計算されPSD はピリオドグラム(英語版)と呼ばれる平均する時間間隔Tを無限に近づける場合、ピリオドグラムが真のパワースペクトル密度 (PSD) に近づくことを証明できるブラウンとホワン)。 2つ信号共に パワースペクトラ (正確な用語;spectrum複数形spectra)を有する場合、これらの相互相関関数用いてクロスパワースペクトルを計算できる

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