サ2600形 貴賓車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/07 08:39 UTC 版)
「参宮急行電鉄2200系電車」の記事における「サ2600形 貴賓車」の解説
「聖地」である大和・伊勢を走る大軌・参急線においては、皇族をはじめとする貴賓客の利用も予想されたことから、デトニ2300よりさらにグレードの高い特別車両として、1940年にサ2600形サ2600として1両が製作されたものである。「2600」という番号は、「皇紀2600年」(1940年・昭和15年)にちなむ。 2200系に挟まれて走行することを前提とした付随車で、運転台はなかったが、車体端に乗務員室が設置されていた。 定員わずかに22名、車内は車端部の乗務員室と便所・洗面所を別にすると客室部は3室に区切られていた。2つの客用扉の間に挟まれた中央部は貴賓室で、側窓は1,400mm幅と770mm幅の窓を交互に並べ、展望を良くしている。1,400mm幅の側窓は3枚並べられているが、中央のそれに該当する部分にはテーブルが置かれ、天皇の着座をも想定した一人掛けの特別席を置くスペースとなっていた。一方、2枚の狭窓に挟まれた左右の広窓部は中央の通路を挟んで一方は2脚のソファーとサイドテーブルを交互に置き、もう一方は3脚のソファーのみを置くのを基本としており、これらのソファーの配置は車体中央を基準にして点対称となるようなレイアウトとされていた。 貴賓室両側はデ2227形等と共通の1,000mm幅客用扉部を含めて随行員室となっており、ロングシートが設置されていた。上本町寄り車端部には妻面向かって右側に乗務員室が設置されており、ここのみ側面に乗務員扉が設置されていた。ただし、ここにはブレーキ制御弁などの機器類は搭載されておらず、実質的には随行員用の区画となっていた。これに対し、上本町寄り車端部の乗務員室と反対側の片隅には洋式便所、宇治山田寄り車端部妻面向かって右側には洗面所、左側には和式便所がそれぞれ設置されていて側面の乗務員扉は設置されていなかった。このように両車端部に便所が設置されていて、しかも乗務員室のある片隅は妻窓が設けられていたため、付随車ではあったが上本町寄り妻面はデ2200形と同様、「片目の妻」となっていた。 このサ2600は皇紀2600年の記念行事に伴う皇族・貴賓の利用以降はほとんど稼働実績が無いままで、戦時中は明星車庫に疎開して温存された。戦後も1949年4月に特急編成に組み込まれて義宮(常陸宮正仁親王)の乗用に供せられたのが目立つ程度で、ほとんど使用されなかった。そのため、1952年12月に一般の特急列車仕業に転用されることとなった。 この際、従来の内装・仕切りを撤去し、車端部の便所・洗面所と乗務員室は潰して客室とした。これに伴い側面の乗務員扉が撤去され、これまで塞がれていた妻面にも窓が設けられた。なお、従来設置されていた妻面下部のアンチクライマーはこの工事で撤去されている。 座席は扉間のみならず車端部を含めたオール転換クロスシートに改装され、室内灯は当時最新のカバー付き蛍光灯を設置するなど、当時最新の接客設備が整備されている。 塗色はレモンイエローとダークブルーの2色塗り分けによる当時の特急色となり、一方の車端部の腰板にノースウェスト航空のマークに似せた「Express」マークを描いた。 サ2600は特急車として運用されていた1950年代後半に、台車が本来のD-22からク1560形の台車交換に伴う発生品と考えられる住友金属工業FS104に交換されている。この台車は俗に住友ゲルリッツ式と呼ばれる、本家ドイツのゲルリッツ式台車の軸箱支持機構だけを抜き出して利用した様なウィングばね式のウィング部を重ね板ばねで置き換えた構造の軸箱支持機構を備え、一体鋳鋼製の台車枠と吊りリンクと複列コイルばねで支持される枕梁をボルスタアンカーで連結し牽引力を伝達するなど、台車そのものの重量は重いものの設計当時最新の知見を盛り込んだ乗り心地の良い台車である。 全席転換クロスシートとなっていたためもあってか、戦前製車両としては例外的に2250系投入開始後も特急車として残されていたが、10100系の新製投入が本格化した1960年に一般車への格下げが実施された。 この際、車端部の座席がロングシート化されて扉間のみ転換クロスシート設置のセミクロスシート車となり、さらに1963年12月に車体中央の広窓1枚を潰してその跡に1,100mm幅の客用扉を新設する3扉化改造が実施され、扉間の一部(24名分)のみクロスシート設置となった。3扉化後も最後まで扉間に1枚ずつ1,400mm幅の広窓が残されていた。 その後車両番号の0起番廃止を目的とした1964年8月3日付改番でサ2601となったが、新造の2600系と車番が重複することからこれに番号を譲って1970年3月2日付でサ3000形に編入、サ3018となった。さらに、この改番後間もない同年6月には扉間のクロスシートが撤去されてロングシート車となっている。 2200系の後継車とされた2610系の増備が進んだ1974年3月29日に廃車となり、解体処分されている。
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